47 人生相談はご利用的に
と、いう事が四日前にあったのよと、私は昼休憩を取っているディーオへと話している。
カフェで頼んだと思われるサンドイッチを皿に置くと、溜め息と共に私へ振り向いた。
「色々と言いたい事があるが、なぜ君は毎回ボクの所へ来る!」
「それはさっきも言ったでしょうが、こないだの助けてくれたお礼を持って来たって、割と高いお酒らしいから飲んで。後、そのついでの世間話よ」
「ついでにする話にしては、重くないか……?」
なぜ四日前の話をするかというと、突然のカインの婚約の申し込み、それは大変驚いた直後に、私はそれを断った。
残されたのは、珍しく笑いを堪えているリュート。
絶望しきった顔のカイン。
一分が一時間にも思える時間だったけど、ノエのただいま帰りました。と、いう声でそれは終わった。
ノエは私の顔を見て驚いたまでは覚えている。
覚えてるってのは、あまりの事で熱がぶりかえし倒れたからだ。
気づけば翌日だし、ノエはあの後の事は、皆様普通に帰られましたよと、しか言わない。
それよりも、起きていた事に怒られて二日ほど寝室に監禁された。
苦い薬や、甘いポーション、果物などを食べさせて貰い、今日やっと外出許可を貰った。
私が主人なのに貰ったも何もないのだけど、それだけ心配してくれたのは嬉しい。
ディーオは昼食を食べ終わると、あからさまに溜め息をだした。
「結局なんだ? 婚約申し込まれたと自慢しに来たのか?」
「ち、ちがうわよ! 困ったなーって思って」
「エルンちゃん困ってたのー!?」
突然の可愛い声に私は振り向いた。
いつの間にか、先代主人公であるミーナが立っていたからだ。
「ミ、ミーナさん」
「こないだはごめんね、ナナちゃんなら私と同じ体重だから大丈夫なんだけど、エルンちゃんが乗ると思わなくて、折れちゃったって聞いたよ! 速さを追求して重量まで考えて無くてさ、いやープラス五キロぐらいなら平気なん――」
「デブデブ、言わないでくださりますかーっ!」
「別にデブって言ってないよー?」
ぐぬぬ…………。
ナナに言われるのならまだしも、ミーナには言われたくない。
「それよりも、まだ居たんですか?」
「うわー言い方キツイよエルンちゃん、用事がまだだからね!」
「あーそうですか、その用事が早く終わるといいですね」
若干嫌味をこめて言う。
それでも、ミーナはそうだよねーとニコニコするので、私の毒気が抜けていく。
「実はねー指輪を探しているんだ!」
「指輪ですか……」
「そ、ガーランドの守護、グリフォンの刻印が入った奴なんだけど、知らないかな?」
そもそもガーランドの刻印といわれても、わからない。
座っていたディーオが立ち上がる気配がした。無視して黙って首を振ると、そうだよねーと頷き始める。
「そんなに大事なの?」
「うーん。ガーランドのシンシア姫とヘルン王子が結婚するための印ほがんは」
「馬鹿!」
突然ディーオが、ミーナの口を手で塞いだ。
「え、まじで!?」
ヘルン王子といえば、前作の主人公であるミーナと仲が良くて、結局告白もしないまま終わったと聞いた。
だからこそ、ナナの錬金術師ではヘタレ王子として影の愛称があったはずだ。
「まったく…………いいか、まだ非公式な話だ。外部に漏らすなっても、もう遅いか……変な所は注意する、続けてくれ」
ディーオはミーナの口から手を離すと、疲れたように椅子に座る。
「ええっと、それと指輪って」
「ああ、ガーランドってのは――」
ガーランド国。グラン国と大きな海を挟んだ先にある砂漠の国で、グラン国とは友好な関係だ。
そこの第三王女とグラン国のヘルン王子との婚約。
その証として、ガーランドが保有する国宝の指輪と、グラン国が保有する聖剣を交換する予定だった。と教えてくれた。
「予定ってのは?」
「指輪の紛失だ、コイツがとんでるホウキの失敗作に乗って来て墜落し、その指輪を落とした。
正式な婚約をする前の約束として送ってくれたらしいが」
「失敗作じゃなくて、何かとぶつかったんだって!」
「ぶつかる様に作るな」
「無理だよ! そんなのは!」
嫌な予感がしつつも、私はディーオへと顔を向けた。
「見つからないとやっぱり不味いの?」
「戦争!」
そう答えるのはミーナであり、立ち上がったディーオはミーナの頭を叩いた。
いったーい、グーで殴らなくてもと言いながらミーナは足を折り曲げた。
「極端すぎる、相手もこんな馬鹿に輸送を任せた責任もあるし戦争はないだろう。
しかし、婚約破棄に暫くは物流などの制限はかかるだろうな。
現在は職員や生徒を使って探してる最中だ、受付に紙を張っておいただろう」
「あーあれ、呪われた指輪って奴よね」
私が見たのは、錬金術で作られた呪いの指輪が紛失したために落ちた指輪を見つけたら直ぐに知らせる事。だったはず。
なお見つけた生徒には金貨もしくは課題の免除まで書かれていた。
「でも、あれどんな指輪が書いてなかったわよ?」
「……当然だろう、どんな指輪か書いたらガーランド国の物とわかるかもしれないからな。
数人程度なら言い訳も出来る。
事情を知ったエルン君にならいいだろう。素材は木製で女王の涙といわれる透明な宝石を使われている。一見玩具にも見えるが、その宝石を覗くとグリフォンが中に見えるはずだ。細かい所は他言無用、見つけるのに協力してくれ」
「……………………」
「どうした?」
「えっ! いや、なんでもないわよ? 全然なんでもない。
えっとその、二人の邪魔になるといけないから帰るわ」
「あはは、エルンちゃんアタシとディーオはそんな仲じゃないよー」
「当然だ!」
笑うミーナと、怒るディーオを無視して私は廊下を小走りに歩く。
道を塞ぐ生徒が私を見ると、道を譲ってくれるので笑顔を振りまくとなぜか引きつっている。
引きつりたいのはこっちだ。
王家の指輪って、あの馬鹿カラスが持って来た指輪の可能性が高いからだ!




