46 第二王子の恋愛的な告白
翌朝目を覚ますと、酷くふらふらする。
体全体がふわっとした感じで、中々に体が起き上がれない。
それでも起きて着替えをした。
朝の身支度を終え食堂へいってノエの手料理をたべ…………食欲が湧かない。
床へと目線を降ろすと、カー助が元気に朝食を食べている。
その姿を見て胃液が上がってきた。
これはあれ、たぶん風邪よね。
「おじょうさま、残すんですか?」
「え? ああ、そうねちょっと食欲が無くて。今日は体調がよくないし寝るわ」
「えっ! 少し失礼します」
ぺた。
ノエの手が私のおでこへと手をつけた。
ひんやりして気持ちいい。
「熱! た、た、た、たいへんです! ど、どうし。マイトさまに連絡を」
「やーねーただの風邪よ」
「何を言っているんですがっ! 風邪で何人の人が亡くなると……」
あー……そういえばそうね。
日本と違い風邪薬というのは無い。
正確には日本にも完全な薬はないけど。
ともあれ基本水分とって寝るだけ。それにこの世界は病気には弱い。
「大げさね。寝てれば治るわよ、あっでも近くにいるとうつるから離れたほうがいいわね」
「おじょうさまっ! 何を言っているんですかっ。そのためのノエです。
では、寝てください! す、すぐに体に良い物を買ってきます!」
珍しく、いや初めてかもしれないと思う、ノエに怒られて私は部屋へと戻された。
ベッドに横になり天井を見る。
ぐるぐると目が回る感じだ。
カー助が私の枕元に木で出来た指輪を置いてくる、透明なガラスが付いており玩具の指輪だ。
「何これくれるの? もしかしてお見舞い?」
カァーと嬉しそうに鳴くという事は、そうらしい。
ともあれ、ペットに心配されるとは私も落ちたわね。指輪を机の上に投げ飛ばすとカー助が何か慌てている。
大丈夫よちゃんと後で仕舞うから……私はそのまま眠りに入った。
コンコンコン。
コンコンコンコンコン。
何かの音で目が覚める。ってか、寝てたのか。
ドアノッカーの音だ。
通常ならノエが出る手はずになっているが、ノエの足音も聞こえない。
となると、まだ帰ってきてないのか。
二階の窓から玄関先をちらっとみると、リュートが立っていた。
窓を開けて声をかける。
「あ、リュート。今開けるからー」
「ごめん、寝て…………エルン、せめて何かを羽織って欲しい!」
ん?
私は自分の姿を確認する、薄手のネグリジェを着ているが今回はどこも透けてない。
まぁ多少は体のラインが強調されてはいるけど……。
まったく心配性ねぇ、お前はこの体を好きに出来るチャンスを逃したんだぞと、思いながら着替えた。自分のおでこに手を当てると特に熱さも感じない。
どうやら熱も引いたようだ。
玄関の鍵を開けてリュートを応接間へと案内した。
「リュート今日はどうしたの? ちょっと待っていてねー、紅茶でも。
あ、それともアルコールでも飲む?」
私が食堂に行こうとすると、リュートがちょっと待てと私を呼び止めた。
「何?」
「あのメイドの子は?」
「買い物じゃないかな?」
私が答え、食堂から出ようとすると、またリュートが呼び止める。
「まったっ!」
「だから何よ?」
「つまりこの家には今はエルン君しか居ないって事か?」
「そうなるわね」
さっさとお茶を入れに行きたいのに、リュートは溜め息をついた。
なんだこの微妙に馬鹿にされた空気。
「エルンは俺を友人と言った」
「言ったわよ?」
だからこうして家にも上げて、茶でもご馳走しようとしている。
「貴族は……いや女性は一人の時に、家へと男上げるのか?」
どういう意味かしら。
日本で言うと、女性一人の家に男性友達が入るって事よね。
あっ!
「もしかして私を襲うの……!?」
「襲わない!!」
ああ、そう。
そう全力で否定されると、それはそれで悲しいのがある。
「じゃぁ良いんじゃないの?」
リュートが溜め息と共に顔を向けた。
「エルンが良くても、周りに噂が出たりする、門番だってメイドが出て行ってるのを確認してるし、俺を家に通した」
私は腕を組んで考える。
考えられるのは、男を家に招き入れとっかえひっかえする毒女って所か。
あ、そうかリュート自身に変な噂は出したくないわよね。
「迷惑をかけたみたいね」
「解ってくれたか……」
「ごめんね、こんな私を襲うとか噂出ても困るもんね、次からは気をつけるわ。
今日の所は――――」
「まて、何か勘違いしてないか?」
「え。だってリュートが変な噂されたら困るって話よね?」
何一つおかしな事を言ってないはずなのに、リュートは溜め息と共に首を振ってくる。
「オレより君の心配をしたほうがいい」
「そうなの? 結局なんなのよ。私に説教しにきたわけ?」
「っと、本題がある。昨日の治療代を持ってきた、立て替えたのだろう?」
リュートは応接室のテーブルに皮袋を置いた。
紐を解くと中身の白金貨がテーブルに積まれていく。
「いやいやいや、多いわよっ! 私が出したのは金貨七枚程度だし」
「えっ!?」
「いやだから高級ポーション代でしょ?」
「肩の傷は高級ポーションで治るような物に感じなかったが」
「あ、傷? 多少残ったけど肩は自由に動くわよ?」
私は肩の傷跡部分をちらっと見せて、ぐるぐると肩を回す。
コンコンコンコン。
コンコンコンコンコン。
ドアノッカーの音が聞こえた。
忙しい日だ。私はリュートの顔を見ると、リュートはどうぞと短く言う。
「なんだが悪いわね」
「いや、俺としても君と二人っきりで屋敷にいるよりはいい」
廊下から玄関へいく。
大きな扉を開くと、珍しくカインが立っていた。
「あら。久しぶり」
「…………ああ、その時間はあるだろうか」
「リュートも来てるけど、それでいいなら」
「そうか…………お邪魔する」
飲み物を持っていくから応接室に先にいってねとカインを送る。
私は適当に酒瓶を掴んで応接室へと入った。
「わっ何この空気」
「「………………」」
左右にリュートとカインが別々に居る。
二人とも笑顔が無い。実際はにらみ合っているわけじゃないのに、お互いににらみ合っているような空気なのだ。
「俺は別に何もしてないよ」
「…………同じく」
「まぁ屋敷で喧嘩しないでよね。ええっと、とりあえずお酒とチーズ。
順番に片付けるわね。まず、傷は気にしなくていいわ、腕は問題なく動く――――」
「傷は深いのか!?」
カインが突然喋るので、私は驚く。
深く無いわよと傷口を見せると、カインは一歩後ろに下がりリュートへと大声を出した。
「リュート! 君は元婚約者から振られた腹いせにエルンの傷を残すように手配したのかっ!」
「そんなわけないだろ! エルンが、思っていたよりもケ……節約家とは知らなかったんだ!」
うおお、何この空気。
私のために争っているように見えるんだけど。あと、リュートは節約家って言う前にケチっていいそうになっていたわよね。覚えておくからね!
「はいはいはい! 喧嘩はしないことー。で、カインのほうの用事は?
お金貸してだったら、多少は融通できるわよ」
「違う…………その…………」
カインにしては珍しく言いよどむわね。
口数は少ないけど、いつも力強く言う性格なのに。
「何?」
「わかった。言おう。カイン・グラン第二王子として、エルン・カミュラーヌに婚約を申し込む。証人は友人のリュート・ランバートにお願いする」
「え?」
「なっ!」
私の驚きの声と、なぜかリュートの驚きの声が他人事のように静かに耳に届いた。
「お、お断りシマス」
思わずカタコトになった言葉が口からでた、今度はカインの動きが完全に固まった。




