45 丸いから丸くおさまった
目の前で大きなダブルベアーが地面へと倒れた。
馬に乗ったディーオが剣を一振りすると鞘へと戻す、そして振り返ると私達の所へと戻ってきた。
「馬に乗れたのね」
「第一声がそれなのか……」
「え、だって馬に乗って剣とか振るイメージが無くて……どっちかっていうと杖を握った根暗なイメージのほうが強いわよ」
「普段は乗らないからな」
私とディーオが会話をしていると、隣にいたマギカがリュートお兄様っ! と足へと抱きつく。
もう絶対に離しません! と喋っているけど、リュートは嫌そうな顔もしつつも、その頭を優しく撫でていた。
「安全な場所へ移動しよう。街道にでれば森の加護が得られる」
「あ、精霊の加護知ってるの!?」
「……ボクは教師だぞ」
「それは失礼しました」
リュートの馬にはマギカが一緒に乗り、私はディーオの馬に一緒に乗ることとなった。
肩を痛めているのでディーオが私の背中へと回り込む。
「あっダブルベアーのお肉……」
「食べたいのか?」
「だってもったいないじゃない。美味しいって聞くし」
私の声に隣の馬に乗っているリュートが反応した。
「後で家の者に回収させるよ、まずは怪我の具合をみないとっ」
「そう? 何か色々迷惑かけるわね」
「それはこっちの……いや、君は直ぐに違うわよと、言うんだろうな」
「何か馬鹿にしてるの?」
リュートは首を振ると前を向き先に馬を前に出した。
視界が自然とリュートの背中にいく、しがみ付いているマギカが私を睨む。
どうせ、私とリュートが仲良く話しているのが気に食わないんでしょうね、はいはい黙るわよ。
街を守る門を抜け、もう歩けるだろうと馬から降ろされる。
「馬を返してくる。ランバート家からの借り物なのでな、そこの詰め所で直ぐに傷の手当を受け帰るといい」
「あ、待ってっ!」
「なんだ?」
「助けてくれてありがとう、と最初に言うべきだったわね。その剣を使った姿はかっこよかったわよ」
「意外だな、君から褒められると思わなかった。君の事だ助けるのが遅いと言うのかと思ったよ」
「どういう意味かしら!」
さて気にするなと、短く言うと馬に乗ったまま遠ざかった。
次にリュートにもお礼を言う。
「エルン、俺もマギカを家へと帰さないといけない……」
「そうね、リュートもありがとう。私の事はもう大丈夫よ、ほらアレ」
私は走ってくる人物を指差した。
ナナがエルンさあああああんんんっと叫びながら来るからだ。
「ナナさんか……じゃぁ失礼するよ」
リュートも馬に乗って走っていく。
カー助がリュートの馬から私の肩へと移ってきた。
そこにナナのボディアタックが私の体へと襲ってきた。
ぐふっ!
「エルンさん、エルンさん、エルンさん、エルンさ――――」
「足もあるから死んではないわよ、それよりも傷が開きそうだから離れ――」
「傷!? 肩がっ、怪我をしたんですか! 何時です! 一緒にいたマギカって子のせいですか!? それとも、未完成な道具を渡したわたしのせい……エルンさんごめんなさい、直したと思ったのに――――」
私は、喋り止らないナナの口を手で物理的に止める。
喋っているほっぺを親指と人差し指で挟んだのだ。
「ふぇるんはん!?」
「落ち着きなさい。傷はちょっとした魔物に付けられただけよ。
それと、飛んでるホウキに関しては私も謝らないといけないし……あれって多分……」
「多分……?」
言いたくないけど言わないといけない。
「私が重かったからよね」
「え…………あっ」
私が出会ったミーナも、目の前にいるナナも小柄で可愛い。
一方私のほうは高身長で出てる所は出ている体型だ。
体重の差がある。
私とナナの間に微妙な空気が流れると、突然に背後から肩を叩かれた。
振り返ると、門兵が困った顔で立っている。
「何?」
「おお、そんな怖い顔しないでくれよ。傷の手当するんだろ? 向こうで医者が待っているんだけど……」
そうだった忘れる所だった。
思い出したら肩が痛い。
直ぐに傷の手当をしに詰所へと入った。
◇◇◇
肩を治療してもらって、夜の街を歩く。
隣にいるナナの表情が暗い。
場を盛り上げる為に私は喋る。
「ほら、肩も動くんだしそんな顔をしない」
「傷残るんですよね……」
「残るっても薄っすらよ」
直ぐに治療をしてもらった。
傷は思ったよりも深くで数個の塗り薬と液体を振り掛けてもらった。
ある程度傷が回復した所で、今回はどうしますか? と聞いてきたのだ。
二つ渡された小瓶、一つはエリクサー。
これは私が足を複雑骨折&骨が飛び出た時に使った奴でお値段なんと白金貨二十二枚。
もう一つは、高級傷薬。
傷跡は残るけど金貨七枚
高級傷薬だって、一般市民からみたらぼったくりな価格なんだけど、私は高級のほうを選んだ。
それを聞いてナナが、医務員に向かって、なんとか分割とか、私が働いて稼ぎます! など言ってきたけど手で制した。
十六歳の女の子が、ぽんぽんと稼げる金額じゃないし、出して貰おうとも思っていない、それに出そうと思えば白金貨二十二枚は出せるのよ? と説明して納得してもらった。
だって高いじゃない。どっちも生活に支障はないのに差額が酷すぎる。
「そうだ、飛んでるホウキは私が買い取りするわ」
結果的に壊したのは私だし、お金は払ったほうがいいだろう。
提案したのにナナが首を振ってくる。
「いいえ! わたしも、そのあの…………重量制限があるの知りませんでしたし」
「素直に太った人でいいわよ、さてここでいいわ」
「はい。また会いに行きます!」
「はいはい」
町の途中でナナと別れた。
帰る途中に久々に酒場熊の手へ寄った。今回の事情を知らない主人のブルックスへ挨拶してくる。
久しぶりだなと世間話になりそうだったので酒と持ち帰りの食べ物だけを注文して酒場を後にする。
私は夜風に当たりながら家へとあるく、徒歩で帰って来たものだから屋敷の門番が驚いた顔をしていた。たまにはそういう気分もあるのよ。
「これ、適当に食べて」
「っ!?」
買った軽食の袋を一つ、驚いた門番へ手渡すと家へと入る。
ノエがタッタッタと走ってくると、無事と思ってました! と元気な声を出してくる。
その目が少し赤いので頭を撫でると、私は早く寝るわと、残った軽食が入った袋をノエに手渡し寝室へと入る事にした。




