39 太陽(ような明るさ)の女性
私はリュートの近くへと行く。
リュートは困った顔をして私に笑顔を見せる。
「ええっと」
私は指を突きつける。
「彼方が悪い!」
「いや、待ってくれ、俺はエルンの事を思って」
「そうなんだろうけど、それでも彼方が悪い! 正座っ! そもそもなんで、あの子が学園にいるのよ」
リュートは直ぐに正座をする。
私の事がまだ好きと言ってくれたのは、少しだけ嬉しい。
でもだ、私はもうそうでもない。
その辺の事を何度も――。
「――伝えたのにリュートはロミオかっ!」
「すまない、ロミオというのは俺の知っている男だろうか?」
「うわっ! こ、心を読めるのっ!?」
「いや、エルンが声を出して」
うう、また口に出してしまっていた。
軽く咳払いをして説明をする。
ロミオとは、カップルで男のほうがが原因で別れたのにも関わらず、俺の事がまだ好きなんだろ? や、君の真実の愛に気づいた待っていてくれ、など勘違いした男達の事である。
それをやわらかーーーーーーーく、リュートへと説明した。
「素敵な男性の事だな、振られても彼女の事を思うとか」
だめだ、この馬鹿わかってない。
「とにかく、お友達としてはリュートは立派よ。それ以上を望むのであれば、パ……父の力を使っても拒絶するわ」
私の一言に周りの野次馬から謎の声が出る。
カミュラーヌ家の宝刀を抜いたぞ!
あれ、エルンさんって極悪人って聞いていたのにかっこいい?
リュートさまが可愛そう。
あの人は学園に多額の寄付をしてるから回りは逆らえないのよね。
などなど。
「と、言うか見世物ではないんですけど?」
私は満面の笑みを回りへと向けた。
一部始終を見ていた生徒達が一斉に、それこそ走って消えていく。
「マギカの味方はリュートだけだったのよ? 場を治めようとしたのはわかるけど、いきなり叩く者じゃないわ、大事な子なんでしょ」
「すまない……ああ、小さい頃から妹のように」
「私にじゃなくてあの子に謝ってあげてね」
「わ、わかった」
「はいはい、あと……私の家が学園に多額の寄付って話って何?」
思わず聞いてみた。
さっき私の周りに居た野次馬が言った声が届いていたからだ。
「俺達貴族は入学するさいに入学料を払う、しかし一定さえ払えば上限は決まってないんだ。エルンの家は金脈もあり入学料以外の多額の寄付を払ったって噂がある、それの事だろう」
なんですとおおおおおおおおおおおおおおお。
ああ、これで解かったわ。
なぜ私が名前も顔も知らない生徒に悪役だ! とか後ろ指差されるわけが、そりゃ多額のお金で裏口入学したと噂にもなるわよね。
しかもそれ、噂じゃなくて真実よね。
「ン? ――エルン? 別にそこまで悪い事ではない。
僕らがそうしないと、学園の維持もあるし、それに入れる人間が増える」
「そ、そうなの?」
少し言いにくそうに顔をゆがめた。
貴族にも貧乏貴族も居るし、ナナみたいな子も居ると説明してくれた。
なるほど。
多く出せる人間は多く出しましょうという奴ね。
そもそも、日本みたく強制で入る学校でもないので裏口入学も何もないと教えてくれた。
「それに俺の家も少なからずは多く出してる」
「そうなの!?」
思わずもう一度聞くと、そうだよと、いとも普通に答えてくれた。
リュートの家って貧乏貴族かと思っていたから、ちょっと意外だったわね。
もっと色々聞きたいけど、時間をかけるべきじゃないのを思い出した。
「呼び止めて悪かったわ。急いで探してきて」
「…………ああ、わかった」
私はリュートの背中を見送った。
……。
………………。
そうゲームや漫画なら一気に会議室にでもシーンは移動するんでしょうけど。
見送った後の事まで考えてなかった。
この流れで先に家に帰る事も出来ないし、しようとも思わない。
私も少し心配だし探しに行きたいけど、かける言葉もないのよね、ああいうのは主人公のナナ達に任せるわ。
「本当! 面倒よね…………」
自然に声が出た。
◇◇◇
私は誰も居なくなった廊下を歩くと久々に受付へ向かった。
私の顔を見ると引きつった笑顔をみるも、どのような用事でしょうと言ってくる。
「怖がらなくていいわ、伝言だけ。
錬金科のナナを見かけたらカフェに居るって伝えて」
私は金貨を一枚カウンターへと置く。
伝言だけならお金も何も要らないというのを、他の人とのオヤツに使ってと無理やり置いて来た。
いつものカフェに入ろうとすると、入り口に折れたホウキがある。
危ないなゴミはさっさと捨てれば良いのにと思いつつも中へ入った。
「いらっしゃ……」
「日替わりケーキと紅茶を場所は……九番の席空いてるみたいだからそこに」
「は、はいっ!」
緊張した顔の店員に言うと私は少し日当たりが悪い九番の席へと座った。
物の数分で出されたセットを食べながら外を見る。
こんな事なら図書室で本を借りてくれば良かったかもしれない。
ガラスに反射する店内では、一人二人と生徒がカフェから出て行くのか見える。
そんな意地悪しないわよ、まったく……。
「すごいねー! 何か悪い事でもした人なの?」
若い女性の声だ。耳元で聞こえるという事は私に言っているのかっ。
振り返ると、赤いセミショートの髪が眩しい少女が私の顔を見ていた。
歳は……いくつだろう。
若くも見えるし年上ににも見える。
粗末な布の服と、薄汚れたズボンをはいていて学園の生徒には見えない。
「失礼ですけど、第一声がそれっておかしいと思いません?」
私は丁寧に返事をした。
だって友達じゃないもん。
「ごめんごめん。いやだって、あなたがカフェに入ってから込んでた店内がご覧の通り、誰も居なくなったでしょ? だから皆にげたのかなーって」
周りを見るように手を動かすと、うん。誰も居ない。
つまり私が凶悪犯といいたいのかっ!?
私が静でいいですわよねと、言おうと口を開くと、この少女は私の胸を揉んでいた。
「っ!!!」
「うわーやっぱ大きい。着痩せかなっておもったけど」
「ど、どこさわるのよっ!」
「どこって胸よ? 見てよアタシの胸。登る以前に下りもないのー」
自虐する女性の胸を見る。
Aカップぐらいかな、ナナといい勝負が出来そうね。
「ご、ご愁傷様。でも小さい丘も好きな殿方はいらっしゃいますわよ」
適当に慰めるしかない、私は紅茶を飲むと気持ちをおちつか……。
「なのかなー、ねぇねぇ君の恋人は大きいのが好きなの? ごめん変な事聞いたかな」
思わず飲んでいる紅茶を噴出した。




