32 買い物三昧(払うのは他人
私は一つの下着セットを手に取る。
この世界、下着系は日本と同じようなのが売っている。
確か中世とかそういう世界では下着はもっと別な物だったと何かで読んだ気がするけど、私は別に気にしない。
便利なほうが楽だし。
仮にこの世界の標準がふんどしだったら、迷わずショーツを作って革命を起こすわよ。
「あのっ!」
「なーに、ナナ?」
「わ、わたしもう満足しましたけど」
「だめよ。たった五件目じゃない」
「で、でもリュートさんが若干青い顔をしているんですけど」
ちらっと下着の売っている場所から遠く離れた場所にいるリュートを見る。
こちらを見ないように顔を斜めにして待っている。
私を悪役令嬢と言い放ったリュートには全額を出してもらっている。
最初は寝具次に家具・食器・衣服・日用品、で今は下着専門店へと着ていた。
どこの店でも、持ち帰りは出来ないので配達を頼んでいる。
「それに、よくみなさい。
あれでリュートは笑いながら払っているんだから、まだ余裕よ」
「わたしには乾いた笑いに見えたんですけど……」
「気のせいよ。それよりももっと下着の予備あったほうがいいわね」
「え、まだですかっ! もう二セットも」
「足りないわよ。最低十セットは選ぶから、あっそうだ。
せっかくだからお風呂も作りましょう」
「つ、作るって! 絶対凄い高いです! 駄目ですよ!」
ナナは抗議の声をだしている。
周りに居る上品なマダム達は私たちを睨むとごほんと咳払いをした。
すぐにナナが、もうしわけありませんと頭を下げ始めた。
確かに大声は不味いわね。
小さい声で再び話す。
「大きいお風呂があれば、清潔も保てるし」
「維持費が無理です」
「あ、そうね。大きいお風呂作ったら私も入ろうと思ったんだけど」
「えっ…………」
ナナが固まった。流石に迷惑か。
そうよね問題は維持費よね、井戸だけじゃなくて薪も大量にいるだろうし、掃除も大変だ。
大きなお風呂に入りたいけど、大衆銭湯にいくには周りに反対されるだろうし、貴族が入りに来たっていったら銭湯の主人も困るだろう。
頼めば貸しきりぐらいは出来るかもしれないが、そうするとまた変な悪評が広がりそうだ。
だから、ナナの所に作れば、一回ぐらいは大きなお風呂に入りにいけるかなって思ったんだけどね。
「あのやっぱり! つ、作って貰ってもいいですかっ!」
「あ、やっぱり欲しい? そうね維持費もかからない小さいのを作って貰うわ」
「え…………お、おねがいします」
なぜか声暗くなったナナを横目に手を複数回叩く。
こうすると、近くにリュートが寄って来て…………寄って来てもらってどうする、私っ!
これじゃどこから見ても悪役令嬢よ。
「やぁ決まったかいエルン」
「やぁ! じゃないわよっ! なんで寄って来るのよ」
「なんでって…………エルンが呼んだからなんだけどな」
「私はもう恋人でも婚約者でもないんだから、私が手を叩いたからって寄って来ないほうがいいに決まってるじゃない!」
「あの、エルンさん…………ここに来る前の店もで、リュートさんを手の叩く音で呼んでましたけど」
……。
…………リュート。彼方、犬じゃないんだからさ。
確かに、手を叩いて呼んでいたわね。
それに疑問を抱かなかったのは、前世ではなくエルンとしての記憶が大きかったからだろう。
私は、ナナの家に風呂を作りたいから宜しくねとだけ言って、歩き出す。
「あ、どこにっ!」
「店の前で休憩よ、気分を変えたいわ」
「あっわたしもっ」
ついてこようとするナナに、最低あと十着は下着を選びなさいと命令する。
そ、そんな必要ないというけど、女の子としてそれはどうなのか。
持っておきなさい説得し店へと残した。
店の前で通行人を眺める。
気のせいか、どの人間も私のほうを向かないように歩いている気がする。
「…………何をしてるんだ」
聞きなれた声がするほうへと顔を向けると、やっぱり見慣れた男が呆れ顔で歩いてきた。
「ごきげんよう、ディーオ先生」
私はお上品にエレガンドに挨拶をする。
冒険に行く為にズボンであるけど、スカートをはいているように膝を曲げた。
ディーオは真っ直ぐに歩いてくると私のおでこに突然手を当てた。
「熱は無い様だな」
「どういう意味かしらっ!」
「やはりエルン君か、一般市民を睨みつけてる何所かで見た貴族の女性がいるなと見ていたら。随分としおらしい挨拶をするから別人かとおもった」
「しおらしくなくてどうも、すみませんねー! それに睨んでませんけどっ」
ディーオは私の声を無視して店の中をちらりと見る。
中にいたナナとリュートを確認したのだろう。買い物かと、呟いた。
「そういう、ディーオ先生は何してるのよ?」
「見ての通り散歩だな、わからないか?」
「見ての通りわからないから聞いたのよ」
暑苦しい黒いローブを着て、早足で歩く男性を見て散歩だとわかったらエスパーか何かよ。
「それより、手紙は受け取ったか?」
「へ? ああ、お城のでしょ? 中はまだ見てないけど」
私はしわくちゃになった封を切ってない手紙を見せ付けた。
「お前は…………時間は明日午前。書類だけで譲与などは後日配達となる」
「贅沢できるのもあと少しかぁ…………」
「お前は、まだ贅沢するのかっ……?」
「悪いかしら?」
何を驚いているんだ。
慰謝料を払ったら暫くは質素な生活が待っている。
お風呂も二日に一回になるし、三時のおやつも控えないといけない。
あっノエの給金もまだ払ってないわよね、それは手持ちでなんとかなるとして…………。
そもそも、パパに内緒にしてるんだし。
仕方が無いとはいえ辛いわね、一気に何かお金が手に入ればねぇ。
あ…………そうよギャンブルよ。
そうだ、この世界にギャンブル場ってあるのかしら、いや流石にディーオには聞けないわよね。
「そう、はっきり言われると悪いとも言えないな。
ほどほどしとけとけ、さて後ろの連れ達が買い物も終わったみたいだ、ボクはこれで失礼するよ」
ディーオはナナ達を見て軽く手を振ると足早に歩いて去っていった。
直ぐにナナの声が聞こえた。
その声は小さく私にだけささやく様に言う。
「エルンさん、決まりま……もしかしてお邪魔だったりしました?」
「何が?」
「いえ。ディーオ先生と楽しそうにしてましたので、あっ怒らないで下さいっ」
「別に怒ってないわよ」
ちょっと不思議に思っただけだ。
楽しそうにしていたつもりは無いんだけど、そう見えたのかしら?




