28 お風呂イベ? 無いわよ?
私がお風呂から出ると、ノエがタオルなどを用意して待っていてくれた。
ノエだって汚れているのにありがたい事。
その事を褒めるとノエは、めっそうもございません! メイドですからっ! と頭を下げていた。
「ありがとう、ナナは?」
「はい、おじょうさまの言うとおり疲れが出たのでしょう。ふまんそうでしたけど今は願い通り眠っています」
「ありがとう、それじゃ私も仮眠するから、悪いけど掃除はよろしくね」
「お任せくださいっ!」
不満顔なナナはようやく寝たようだ。
なぜ不満顔だったかというと、一緒にお風呂に入れないと知ったからだ。
そこまで大きくないわよ、私の家のお風呂。
順番は、ナナ、私、ノエの順番だ。
ノエがここは家主である私が入るべきです。と、言ってくれた。
小さい声でエルンさんの残り湯を使っていいんですかっ! と興奮したナナを見て私は引いたから順番を入れ替えたのだ。
ノエが、じゃぁおじょうさまの残り湯はノエの物、やった……と聞こえたような……。
ただのメイドであるノエが、そんな変態なわけがない。
うん、空耳だ。
この世界、日本と違い自宅にお風呂がある家は少ない。
一般市民なんて共同湯、つまり銭湯に通っている。
値段はわからないけど、入るのにもそれなりにお金はかかると聞いている、それもあってナナはあまり銭湯に通わないのだろう。
「うーん……お風呂ぐらい貸してあげてもいいんだけどなぁ……まぁ断るわよね」
私なら貰える物なら病気以外もらいたいけど、ナナはそういうのは嫌いそう。
それにしても精霊かぁ。
ゲームではナナはクマのぬいぐるみに憑依させてたっけ。
さしずめ、細かい所をしてくれるノエがいるからなぁ、私はどうしようかしら…………。
ああ、眠くて考えがまとまらなくなって来たわ。
さて約束の昼まで残り四時間ほど寝ますとしますか。
◇◇◇
色々あって薄暗い森の中、私達は歩き続ける。
先頭にいるナナの顔が、暗い。
口数も少なく今にも泣きそうだ。
「エルンさん!」
「何?」
振り返ると涙が頬を伝ってる……。
「本当にごめんなさい……私がっ私がっ……」
「もう別にいいわよ。それより、ね。泣かないの」
「だってっ、だってっ……」
ナナが私に抱きついて……ぐふっ!!
そのまま地面へと転がった。
「ご、ごめんなさ一! ごめんなっ……倒れるほど歩かせて…………」
「だ、だいじょうぶ、大丈夫だから。ちょっとナナのボディアタックが強すぎて倒れただけだからっ! それにほら、迷ったっても道は続いてるんだし」
そう、現在私達は道に迷っている。
可愛く言っているが、遭難。
二度寝の後ノエに起こしてもらい、疲労も回復したナナと出発して夕方前には帰る日帰りプラン。
大まかな場所は私も知っていて、今回はエレファントさんから精霊の森の場所を詳しく聞いたナナを先頭にして私達は歩いていたのだ。
歩いても歩いても着きそうに無く、あとどれぐらい? って聞いた時にナナは泣き出したのだ。
遭難したみたいです。と……。
ちなみにそうなんだと、返したらエルンさんが壊れたともっと泣き始めた。
そのナナをあやして私達は道を歩き続けるんだけど、進んでも戻っても森から出れないという現在に至る。
「さしずめ迷いの森って所かしらね」
「迷いの森……じゃぁ一生ここから……」
「出れなかったら……国の近くに本物の迷いの森があったら今頃は封鎖されてるわよ。
エレファントさんは他にも何か言ってなかった?」
「いいえ、もしアイテムを作る事が出きるのなれば精霊に会えるでしょうねとしか……」
こういう時は気分を変えるしかないわね。
丁度良く、岩が複数並んでいる広場があった、もうなんていうか休憩場所ですよって言うような作り。
でも、利用させて貰う事にしましょう。
「さて、一時休憩しましょう」
私はノエが持たせてくれたバスケットをあける。
紅茶とパン、クッキーなどが入っていた。
さすがノエ! どれもこれも美味しそう。
「え、でも……何日もさ迷ったら貴重な食べ物が、それにわたしは食べる資格なんて……」
「ふう……罪悪感があるのはわかるわよ? でも食べなさいっ! 誰が悪いとか言ったらキリがないわ」
「ごめんなさいっ、た、たべます」
私が転生しなければ……前世の記憶を持っていなければ別な未来があったはず。
少なからず私がナナを遭難させたという責任もある。
私は三分の二の食べ物を広げる、中々食べださないナナに強制的に食べさせると、私もクッキーを口に入れる。
「あまい……」
「美味しいわね」
会った回数は一回だけど、エレファントさんが意地悪してるとは思えない。
私だけならともかく、ナナに意地悪したってしょうがないだろうし、何かあるはずなのよね。
「そんな心配な顔しなくても、二、三日以内にでも帰れるわよ。
それよりも、万が一モンスターが出たら、その時はお願いね」
「帰れるんですか……?」
「ノエに行き先、伝えてるからね。ノエは頭いい子よ私が数日帰ってこなければどこかに連絡するわよ」
たぶんという言葉は飲み込む。
「そうしたら、小さな森だもの、誰か見つけるでしょう」
「が、がんばります! あれから私でもエルンさんを守れるように特訓したんです!!」
「そ、そう」
元気になったみたいね。
問題は、その助けに来た人達が私たちと同じく迷ったらお終いという所も黙っておく。
「まったくもう……精霊の森だかなんだか知らないけど、精霊なら看板ぐらい立てなさいよね」
「看板ですか、そうですねあったらいいですよね、あっ……」
ナナは私の呟きに小さく笑うと、クッキーを地面へと落とした。
ナナが直ぐに拾おうとした時、私の胸元が光っ! それはエレファントさんから貰った精霊ちゃんを好きに出きる指輪だ。
ネックレスにして首に掛けていたのだ。
決して、指に入らなかったとかじゃない。
「っと、三秒ルールです! セーフですよねっ! あれ……もしかしてダメですかね……?」
ナナは落としたクッキーを食べても大丈夫かそういう事を聞いてくるけど、私は直ぐには答えれなかった。
だって、ナナの後ろに道が開けて、精霊ちゃんに御用の人間はこちらにって看板が見えるんだもん。




