25 小さな婚約者
ホームパーティーと聞いていたから小さな食事会と思っていた。
大きなホールに通される、ざっと五十人は入れそうな会場だ。
食事は既に盛大に並んでおりビュッフェ式、好きなように好きなだけ食べる奴だ。
エレファントさんが、一段高い場所に立つとパーティーの挨拶をする。
「本日はわたくしの快気祝いに集まりありがとうございます。
わたくしの体調は、お招きした錬金術師の方々によって助けられました。
今日はこの場を借りてお礼をお伝えします」
私は慌てて頭を下げる。
近くに居たナナも頭を下げるエレファントさんが舞台から降りた。
「薬を作ってくれたナナさん。その薬の作りを手助けしてくれたディーオさん。
問題になる前に色々助言してくれた……カインさんのご家族の方。
そして、遠くに居るのにわたくしの病気の事を推測、レシピを授けてくれたエルンさん。
息子との婚約は破棄されましたけど、その点も含めてお話したかったのですよ。
まずは食事ですね。時間はたっぷりとありますので、ごゆっくり食べてくださいね」
エレファントさんの横に白髪のお爺さんが寄ってくる。
「こちらは執事の――」
「奥様、執事のご紹介はいりません、執事は執事で結構です。
それよりも……お呼びしていないお客様が多数おられまして、奥様に一目会いたいと」
「あらあら、困ったわねぇ……どこで噂を聞いてきたのかしら誰?」
「はっ、叔父の……」
エレファンとさんは、細目になり口元を手で隠した。
その姿が綺麗で見とれてしまう。
「皆さんともっと話して起きたいのですけど……」
「ボクはら好きに食事を取らせてもらうさ。大事な来客ならどうぞ」
「そうですか? リュートもまだ帰ってこないし悪いですわね」
ディーオが提案すると、老執事とエレファントさんは部屋から出て行く。
残された私達は思わず顔を見合わせた。
「エレフェントさんって綺麗な方なんですね」
「そうね、透き通る銀髪に、あっでも、特徴的な耳は今日は見えなかったわね」
ガッシャーン!
「な、なに。やだディーオ、グラス落とさないでよ」
「いや……カイン君。グラスを割ってしまったと誰か呼んできてくれないか?
ナナ君に頼むと途中で転ぶからな」
ナナは否定できません……と小さくなる。
カインはわかったと言うと、ホールから出ていった。
大きなフロアにディーオとナナと私がいる。
突然ディーオが小さい声で私達に話しかけた。
「ナナ君は、エレファント氏の耳はその……見えたか?」
「え、はい……変わっていますけど素敵と思います」
「エルン君は?」
「見えないわね」
「じゃぁ、なんで特徴的と言った!」
「え、いや。そうじゃないかなーって。そう、リュート、リュートに聞いた!
ようなきがした」
ゲームで見た!
は、ないわよね。
「そうか……元彼女ならそういう事もあるのか……いいか二人とも、彼女の耳には触れるな。普通の耳と思え、事によっては打ち首だ。
くそ、先に言っておくんだったな……説明はそうだな学園に来た時にでも話そう」
ディーオが一方的に言うと、ホールの扉が大きく開いた。
エレファントさんと同じく銀髪の少女が私達を見ていた。
隣には老執事もおり、メイドに指示を出している。
割れたグラスの回収だろう。
それよりも早足で銀髪の少女が駆け寄ってくる。
「はじめまして、親愛なるリュートの婚約者でマギカと申しますわ」
え? だれのだって。
リュートの婚約者って聞こえたんだけど。
あれ、これってよくある二股を掛けられた奴っていいのかしら。
「どちらが、エルンさんかしら?」
「わ、私だけど……」
「綺麗な顔……エルンさんあちらの料理が美味しいと評判なんですよ、いきませんか?」
「え? ええいいわよ」
ぐいぐい来るなこの子。
色々追いつかないけど、美味しい料理と聞かれると私も動かざるを得ない。
ディーオ達の集団と少しはなれる。
確かに美味しそうな料理が並んでいた。
「エルンさん、あの料理取れます? 私はこちらのスープをよそいますね」
マギカが言うのは、ピザに似た料理だ。
いや、ピザなのか?
私が手を伸ばして取ろうとすると、マギカの声がする。
「まぁ、噂通りの食い意地の張った女ですわね。男をとっかえひっかえ、王子や王にも賄賂を贈り。レアモンスターを探すのに兵団まで使う極悪人の顔ですわね」
先ほどの可愛らしい声と違い、酷く黒い声を出された。
は? まてまてまて、私はそんな事してないししようとも。
バシャン。
私が文句を言う前に、顔とドレスに液体がかかる。
あっつ、熱い熱いっ。
どんくさーい。
マギカの楽しそうな呟きが聞こえると、慌てた声へと戻った。
「エルンさん、ごめんなさいごめんなさい。
私が持っていたスープがかかるだなんで、これで拭いてくださいっ!」
「あ、ありがと? うわ臭いっ!」
「あっ、ごめんなさい。それ雑巾でした。まぁ折角のドレスも汚れて臭くなってますわ」
まてまてまて、なんでナチュラルに雑巾があるのよ。え、何この流れ?
「待ってください!」
私が取りあえず近くにあった、綺麗な布で顔を拭きなおす。
ナナが駆け寄ってきた。
「見てましたけど、マギカさんですよね! エルンさんにスープかけたのを見ましたっ!」
「酷い……マギカぶつかっただけなのに、それにエルンさんのほうがぶつかって来たというか……もしかしてリュート様の婚約者であるマギカに嫉妬して意地悪をっ! そうに決まってますっ!!」
心地よい音が響く。
頬を打たれたマギカは信じられないような顔で、ナナを見つめていた。
「エ、エルンさんはそんな事しませんっ!」
「あなたはナナと言うんですよね。平民の癖に高貴なわたしに手を上げるだなんて……エレファント様の病気を治した功績で呼ばれてる平民の癖に!」
「やぁ、エルン来てたみたいだね。どうやら、すれ違ったよう――――なんだい、この騒ぎは?」
場違いな声が聞こえてきた。
「あらリュートごきげんよう」
「ご、ごきげんようってビショ濡れじゃないか。
それに、珍しいなマギカまで居るだなんて。王都の空気は体に悪いからって言ってなかったか」
「リュート様っ! エルンさんがマギカにぶつかり水浸しに。
そうしたら、この平民のナナって子がマギカを殴ってきて」
「殴ってません! 平手打ちですっ! それよりもエルンさんに謝ってくださいっ!」
ほう、そうきましたか。
「リュートさんっ!!」
「リュート様っ!!」
あらら詰め寄られているリュートが困った顔してるわね。
見ようによっては両手には………っ。
「っくしょんっ! あら、失礼。くっしょん」
「っ! 直ぐに着替えるべきだ」
リュートは私を見たかと思うと直ぐに視線を逸らした。
私の肩に大きな衣服がかけられる。
「君は少し恥らったほうがいいな。着替えさせて貰え」
「あら……ありがとうディーオ先生」
透けたドレスを上着で隠すと、溜め息を出している。
まぁこの状況だったら出るわよね。
後の事は任せた! と視線で送り私は着替えの為に別室へと向かう事になった。




