23 忘れていたパーティー
豪華なソファーと磨かれたテーブル。
私はその豪華なソファーへと体を横にして寝そべっている。
場所は自宅の応接室。
最近はここに居る事が多い。
別に自宅なんだし寝室に篭ってもいいんだけど、そうするとノエの顔があまり見れない。
それに篭っていると、何度もノエが様子を見に来る。
今日もノエの入れてくれた紅茶とクッキーを食べながら借りてきた本を読んでいる。
題名は『錬金術とは』『初級レシピの教え』『ゼロから作る錬金料理』『錬金術と武器』などなど。
「おじょうさま新しい紅茶とクッキーです」
「ありがと」
どの本も似たような事しか書いていない。
石鹸の作り方や、パンケーキの作り方、蒸留水の作り方など。
「こう、もっと上級のレシピが載った本ってないのかしらね、それともこの本を書いた人間って錬金術師として無能なのかしら、錬金術師って誰でもなれるのよね」
「え……」
「ん?」
驚くノエの言葉に私が振り向くと、しまったという顔になっている。
「ノエ何か知ってるの?」
「い、いえ……」
怪しい。
「ノエ何か……」
カンカンカンカンカン。
ドアノッカーの音だ。
私が喋りだすと同時に、誰かの来訪を知らせる。
ノエはどうしたらいいかキョロキョロする。
「ま、いいわ。行って来て」
「は、はいっ」
小さな音を立てて玄関へと走っていく。
そして戻ってくると慌てた顔で報告しに来た。
「お、おじょうさまっ!」
「誰だった? 新聞なら間に合ってるわよ」
新聞というのは最近流行りだした物で、日本でいう新聞とはかなり違う。
王都で起こった事やお得な情報を一枚の紙へまとめている奴だ。
七日に一度ほど発行されている。
「いえ、あのカイン様がおむかえに来られています。ど、どうしましょう」
「え、なんで?」
何の用事だろう、特に約束もない。
とりあえず、通してというとノエはカインを連れてきた。
赤毛の髪を整え何時もより緊張した顔で入ってくる。
「…………」
「…………何か喋りなさいよ!」
「……用意、出来てないのか?」
用意、なんの用意だろう。
特に採取の予定もないし、約束した覚えも……。
あ……断ったけど城の昼食会?
「もしかして、城の昼食会の事? あれなら断ったよ」
「……何の話だ? この件で来た」
カインは黙って私に一枚の招待状を見せる。
どこかの家紋が入っていて、私も最近同じのを受け取った。
「あああああっ! リュートの奴っ あったわね……」
そうだ、断り損ねた。
というか、今の今まで存在を忘れてた、最初から行かないつもりだったし。
「いやでもなんで、カインが持ってるのよっ!」
「…………リュートの家の招待状は俺の家にも来る。後は父がエルンを迎えに行けと、その父がエルンは嫌がるだろうからしっかりエスコートしなさいと受けた」
「ああそう……」
あの狸め……。
私に誘いが来てたのを知っていて嘘の昼食会を誘ったわね。
でも別に、私がリュートのホームパーティーに行くか行かないか、王様には関係ないと思うんだけど。
うーん、うーん……。
「…………何か言ったか?」
「なにもよ?」
ここで断ったら、カインの事だからありのまま言うでしょうね。
エスコートしにいったけど、面倒だから断られたので帰って来たと王様に。
そうなると、私の噂はどこからかもれて王族のエスコートを断った女として、悪評が増えるでしょうし。
ああ、もうっ! 仕方がない、私は時計を見る。
「カイン、後何分?」
「…………移動込みで一時間半、移動は一時間という所だ」
「って事は三十分ね。ノエ着替えるから手伝ってくれる? カインは適当に待っていて、そのクッキーでも食べてて」
「はいっ!」
ノエが大きく返事をして私の後ろについてきた。
◇◇◇
ぴったり三十分かけて用意を終えた。
黒ベースで派手すぎないハーフドレスに身を包む。
客間で待っていたカインは私を見て驚いた顔をしている。
孫にも衣装って所でしょうね。
「何?」
「…………綺麗だと思って」
「そりゃどうも、じゃっノエ留守番よろしくね。後誰にでもお世辞言うと勘違いされるわよ」
「はいっ、いってらっしゃいませ」
「…………俺は別に……」
カインは何かもごもご言っているけど、良く聞こえない。
待たせてある馬車に乗り込むと出発した。
馬車の中は二人っきりだ。
「…………これを、もったほうがいい」
円形の筒を私へと手渡した。
見た事がある、ミニボムLV1で黒煙を撒き散らす爆弾だ。
殺傷能力はないが、過去にこれで衣服と顔中を黒くされた。
「なにこれ」
「ミニボムLV1だ」
「知ってるわよ」
「…………君は大人びているが、女性だ。
万が一の場合があるし、その……不意をついて逃げる用にと」
「ありがとう」
「っ」
私は素直にお礼を言う。
心配してくれるのは嬉しい、ただ女だからってのはどうかと思うが。
日本と違い、そういうのは仕方がない。
それに実際そうだから、反論してもね。
「顔が赤いわよ? 馬車酔いしたのなら止めてもらうけど」
「大丈夫だ」
「ならいいけど……」
貴族の馬車というのはどうも遅い。
揺れを最小限に抑えるためとは言えしょうがないんだろうけど、それでも揺れるのは揺れる。
「で、何のパーティーだっけ?」
「…………エレファント様の快気祝いをかねてのパーティーだ」
「リュートの母親よね、じゃぁ、挨拶聞いて直ぐ帰れるわね」
「………………」
「何よ、言いたい事あるならいってくれた方が助かるんだけど」
「…………少なからず交流会もかねてる……貴族のパーティーの出席は?」
「自慢じゃないけど無いわ!」
あるのは、日本にいた時に知り合いに強制的に連れて行かれた婚活パーティーぐらいだ。
似たようなもんでしょう。
「あ、あれ」
私は馬車の中から外を見ていると、見知った人物を二人見かけた。




