199 人として何かを失いそうな錬金術師
ナナの工房をノックする。
もはや街馬車すら乗れないので徒歩だ。
ナナの工房の扉には、何枚かの紙が挟まれており、一枚抜いて中身を見る。
約束の期日を過ぎています、ご連絡ください。と、書かれていた。
何の事だろう、って事は留守なのかしら。
「あっ顔の怖いおねーちゃんだ」
「あん?」
振り向くと近所の子供が私をみている。
どこかで見た事あるような……。
「あっ前にお使いたのんだ、憎たらしい子供じゃない」
「また何か仕事くれよー」
「無いわよ……ナナを見に来たんだけど何か知ってる?」
「ううん。ここ最近は扉しまったままだね」
「そう……とりあえずありがとね」
子供が居なくなった後で、どうしようか……。
もう一度ノックする、ナナーいるー? と声をかけると、工房の扉が小さく開いた。
「お?」
やつれた顔のナナが小さく顔を出して私を見ていた。
私の顔を見たら扉を閉めようとしたので強引に足を突っ込んでそれを邪魔する。
「入るわよっ」
ナナの意見を聞かずに強引に入って、後ろ手に扉をしめる。
ナナは慌てて鍵をしめてはいるが……。
「何よこれ、引越し? って訳じゃないわよね、顔が暗いし」
私の前には綺麗になった工房が見える。
綺麗というのは掃除して綺麗ではなくて物が一切ないのだ。
「ええっと、何があったかとそのあの。錬金術師やめようかなと……」
「はぁ? なんで」
ビクっとするナナと、よく見たら壁はじに旅行かばんが置いてある。
はぁまったくこれって……いくら私でもわかるわよ、夜逃げの準備よね。
「失敗作売ったからって夜逃げは早いわよ。話を聞くぐらいなら今の私でも出来るし」
「エルンさーん」
ナナは私に抱きつくと、泣き出した。
とりあえず、ナナの気持ちが落ち着くまでまって二階へとあがった。
二階も綺麗なもので物がほぼない。
簡素な椅子に座らせて話を聞くことにする。
お茶の一つでも欲しいがお茶すら残ってなかった。
「暮らしは順調だったでしょうに」
「あのカジノって知ってますでしょうか……」
知ってるも何も、そのせいで私の家は火の車だ。
「一日目は増えたんです! 二日目も増えたんですよ!?」
目がギラギラして語りかけてくるナナが怖い。
続きが手に取るようにわかるけど、一応聞いてみる。
「で?」
「あっはい……三日目がだめでして四日目に取り返そうとしてもお金が無くてですね。
とりあえず軍資金と言うのでしょうか、それを作るのに……売るのはまずいと思って、家中の錬金術のアイテムを質に入れまして……その日に返せば無利息だったんです!」
「返せれなかったのね……」
「はい……」
はぁ、どうしたものか。
別にナナにだったらポンっとお金出してあげてもいいんだけど、次期が悪い。
だって、私の家もいま貧乏だもの。
とりあえず、私の家も今そのカジノですっからかんなのを先に話した。
じゃないと、お前金持ってるくせに助けてくれねーのかよ! ってナナに思われても悲しいし。
「あの、エルンさんから、お金を借りるつもりはないです」
「でも、夜逃げはすると」
「うっ…………だってだって未完成の品を売ってしまってそれでも利息すらたりなく……うえええええん。錬金術師辞めたくないですー」
「ご、ごめんってば泣かないの」
また泣き出すナナの背中を軽く叩く。
完璧と思っていたナナもこんな欠点があったとは。
「誰よナナにカジノなんて教えた人は、紹介制でしょ。あそこ」
「あの、ミーナさんです」
「…………はぁーあの問題児はどこよ」
「あの、ミーナさんは悪くないんです。錬金術の素材が高くて何とか買えないか相談していた所。一回だけならお金を作る事を出来るよーって。
で、本当に出来たんです。緑のぽよぽよが赤ぽよぽよを吸収して黄色になって一気に増えたんです!」
どこかで聞いたようなレースの結果だ。
確かあれ大穴で、直ぐ近くに喜んでいた二人組の女性が居たわね。
「明日から絶対いっちゃだめだよってミーナさんが言ったんですけど、もっとお金があれば、違う素材も買えると思いまして……あ、ミーナさんはその日にどこかいっちゃいました」
「なるほどね……」
友人同士のお金のやり取りってダメなのよね。
だからこそナナも誰にも相談しなかったんだと思う。
「で、その素材って何? 何とかならなかったの?」
「真竜の右目といいまして白金貨四十枚ほどのお値段でして」
「たっかっ……」
「で、ですね! 両目そろえたら七十枚の割引だったんです! 後、あと少し……」
「ナナ?」
注意すると、ナナは小さくなっていく。
ともあれ、こんなのではナナも生活が出来ないし夜逃げされても困る。
「とりあえず家に来なさい。食べるものぐらいはなんとかなるから」
たぶん。
何とかなるかしら? 私の家も今金欠なのよね。
借りるー? 誰に?
リュートにでも借りる。うーん。
「あの、ご迷惑では」
「なんで?」
「だってノエさんとキャラが被るので……よく間違われますし」
「…………大丈夫! 大丈夫だからっ! とにかく錬金術続けたいんでしょ? 質に入れた道具や粗悪品を客に売ったんでしょ? 正規品を下ろさないとだめだし」
「そうだ! エルンさん賢者の石を貸してください。この椅子を金に変えれば……」
お互いの座っている木製の椅子を見る。
なるほど、金の椅子なら白金貨数十はてにはい――――っ。
「って何年寝るのよ、起きた時にはお婆ちゃんになって錬金術師所じゃないわよきっと」
「うう……」
いや、まて……何も本人じゃなきゃいいわけよね。
「コタロウに賢者の石を使わせれば金の椅子できるんじゃない? あれなら百年ぐらい寝てても大丈夫でしょ……ええっと」
「あの、エルンさん……コタロウさんに使わせるのはこくかと……」
「はっ! 口に出てた。冗談よ冗談。ともあれ、殺風景な場所にいてはいい考えも浮かばないし、何も食べて無いんでしょう? いくわよ」
ハイ決定ー。
って事でナナの数少ない荷物を持って外に出ることにした。




