189 将来のビジョンと誘う教師
ディーオは静かにカップを机に置く。
私を見ると、噂か……と一言呟いて大きく口を開いた。
場所はもちろん何時もの場所。
「王も歳だ」
「たぶん六十ぐらい?」
「七十は超えてるだろう……」
げ。そんなに? 確かにゲームでも前作から老人だったみたいだし、そんなものなのかな。でも、ゲームでは引退とかそんな話一切なかったんだけどなぁ。
「え、じゃぁ……ヘルンが」
「王子をつけろ」
「ヘルン王子が二十八として四十三の時の息子!? 王妃がんばりすぎじゃない!?」
「君はくだらない事ばっかり計算速いな。王妃はカイン王子を産みその後なくなってる」
「ほわっ、そしたら王はロリごもごもごも!」
私の口をディーオが口で押さえた。
親指を噛んでしまう。ディーオは直ぐに手を外すとハンカチで手をゴシゴシ拭いている。
「あ。ごめん、思わず噛んだってか口を押さえないでよ!」
「気にするな……というか、王の事を大声で言うな」
「…………たしかに!」
念のために廊下に顔を出して周りを見る。
よかった人は居ない。
「大丈夫、誰も聞いてないわ。たぶん」
「そう願いたい物だな。病気に限らず、王はもう引退を考えている。
政治の交代はスムーズにしたほうがいい。指を折り曲げて何を数えてる?」
「いや、王の派閥と、ヘルン王子の派閥とカインの派閥三つ巴って所でしょ、カミュラーヌ家としてはどこについたほうがいいかなって」
「ボクの話聞いていたか?」
「冗談よ、そんな怒らなくてもいいじゃない」
まったく、何所についても大丈夫とは思うんだけどね。
「君はまだしも、本気でそういう人間が居るから政治は嫌いなんだ」
ここ数日ディーオの元に何人か貴族が面会に来た。と、教えてくれた。
「まったく噂一つに大げさね。ドンと構えとけばいいのに」
「…………」
ディーオが何か言いたそうな顔でこっちを見てるけど、なにかしら?
特に間違った事言ってないんだけど。
「ともかく校長として王が最近来てないのは事実だ。とはいえ学園は校長一人で運営しているわけじゃないからな、どちらかといえば独立している。
だから君が心配しているような事、例えば学園が無くなるという事は直ぐには無いだろう」
「私個人としては学園なんてどうでもいいんだけど」
はっ! また思った事を口に出してしまった。
「だろうな。君は錬金術師ですらどうでもいいように見える」
「そ、そんな事ないわよ」
見抜かれてるし、将来の夢は自由に生きる事だし。
そのために今のパパからの援助意外に左団扇できるような事を確立したいんだけど、まぁ無いわよね。
私が思いつくような事だったら、皆してるわよ。
「その卒業したら教師にならないか? なんだったら錬金術科の残りの課程を免除してもいい」
ん? 突然ディーオの声が聞こえて私は考えを中断させる。
前を向くと真面目腐ったディーオの顔があり、冗談で言ってるようには見えない。
「本気?」
「ああ、君は不思議なカリスマ性があるし、妙な知識もある。
派閥に関係なく行動し、庶民相手でも貴族特有の態度は取らない。
それと君には錬金術師としての知識はあれど実技のほうはもう期待できないからな」
酷い言われようである、でも反論できないのよね……。
「まぁ別に貴族だろうが庶民だろうが、歯向かって来る奴には容赦ないけど……あっでも王様や忌々しいけどガール補佐官とかにはちゃんと頭下げるわよ」
処刑されたくないし。
「それはそうだろう……」
教師かぁー無くは無いわね。
日本と違ってそこまで頭良く無くても出来るし一般的な数学や歴史、作法を教えたりするだけ。騎士科は騎士の人がするし。
問題があるとすれば……。
「でも給料少ないんでしょ?」
「…………安定はする」
「やっぱり安いのよね」
「教師といっても月数回教壇に立つだけだ、君の欲しがった名声も手に入るな」
「なるほど……確かにグラン王国で教師をしていたとなると箔はつくわね。ちょっと考えてみる」
部屋がノックされた。
ディーオが鍵は開いてる。と、いうと初老の顔が見えた。
確か保険医の教師だ。
「ディーオ先生、騎士科の人が怪我をして手伝って欲しいのですが」
「直ぐに行こう。エルン君ボクは席を外す悪いが……」
「はいはい、これ飲んだら帰るわよ」
「ああ、すまないな」
二人は私を残して部屋を出て行った。
残った珈琲を静かに飲む。
教師か……ん? いやまさかね。
俺と一緒に教師をしないかって口説き文句? いやいやいや。
考えすぎよエルン・カミュラーヌ! あのディーオに限って口説いてくるとかまさかね。
気づいたら珈琲が空になっている。
「帰るか……」
廊下にでると噂のヘルン王子が歩いてくるのを見えた。
「珍しい……これはご機嫌麗しゅうヘルン王子様」
「…………やめてくれ、君にそういう態度を取られると悪夢を見そうだ。普通でいい」
「どういういみよ! それよりも何でこんな人気の無い錬金科に?」
「……ディーオ教師に会いにきた」
「あっそれだったら――」
カクカクジカジカと説明すると、ヘルンは小さく頷くいた。
「で、何か面白い話?」
「…………特には」
なぜか視線をそらし始める。
「もしかして王が病気の話?」
「それもある。まぁ君には関係ない事だし」
「……………………リオ」
「ぶっふぉ」
ヘルンが突然咳き込みだす。
「ど、どうしたんだい?」
「別にー……最近魔界行ってね。とっても仲良しの友人が出来たの」
「そのまま帰ってこなければいいのにな」
「何か言った? 今度奥様のシンシア様にご紹介させてもらいますわ」
笑顔で言うとヘルンが疲れた顔で、降参だ。と、言い出す。
「別に降参もなにも勝負してないけどー」
「立ち話もなんだ、校長室に行こう」
「はーい」
私は疲れ顔のヘルンの後ろを着いていく事にした。




