176 なんとアレは偽者だった(読む前にネタバレ回
ゆっくりと森の中をあるく。
踏み鳴らされた道をあるくと、獣や魔物よけの小さい柵が見えてきた。
「なるほど、あそこがここから近いアジトね」
賊と言うけど、賊にも派閥があり襲われたギブソン家から一番近いのが、ここだろうと執事の人から教えてもらったのだ。
私の仕事は、そのアジト確認する事。
そして証拠や変わった事があれば直ぐに戻る事、けっして危険な事はしないでも大丈夫と念を押された。
うん、別に私だって乗り込んで壊滅って事は無理だしー。
まぁ貴族に上下は基本ないんだけど……ギブソン家としたら大変よね。
他の貴族がさらわれてたり、金品奪われたり。
私も詳しくは知らないけど、一応は王族国家なので貴族同士で争う事なかれとパパから教わってる。
でも、建前で報復として大きい貴族が小さい貴族に嫌がらせとかはよくある話。
「で、嬢ちゃん……何ようだ?」
気づけば私の周りに、剣を持った男達が何人も居た。
銀髪の若い男が代表者なのか剣を突きつけている。
「はっ! いつのまに。あっ! 私に唾をかけてきた奴もいる!」
「いつの間にもなにも、うち前でブツブツ呟いている女が居たら不信に思うわ…………まさかと思うがギブソン家の奴か?」
「違うわよ!」
別にギブソン家の人間ではないし。
銀髪の男が、知り合いか? とその御者に声をかけると、御者は黙って首を振る。
「親分、知らねえっす」
「さっき唾をかけてきたじゃないのよ!」
「ああ。さっき道のど真ん中にいた奴か、なんだ俺に惚れて追いかけてきたのか?」
「鏡見たほうがいいわよ……」
私の言葉に周りの人間が笑い出す。
笑われた御者の顔が真っ赤になっていく。
「このあまっ!」
怒り出した御者に、銀髪の男が剣を向けた。
直ぐに御者が一歩下がる。
「急いで居るんだ殺しは面倒だ、やめとけ。次の町で売り飛ばすか……とりあえず詰めとけ」
数人の男性が、命令されて私を縛ってきた。
あれ? これって結構やばくない?
周りの男達が縄をもって近づいてくる。
「ちょっと! 触んないでよ! これでも」
「これでも?」
「ええっと……錬金術師よ!」
思わずエルン・カミュラーヌよ! と言おうとしたけど、捕まってる人間と同じだったら駄目よね。
まずはディーオを探さないといけないし。
「ええっと、ディーオの妹よディーオを出して」
「…………捕まえとけ」
◇◇◇
結局縛られて移動式の牢屋に入れられた。
移動式というのは馬車内に牢屋があったから。
「ちょっと手荒にしないでよ!」
小屋の中には、女性が縛られていた。
牢屋の中の女性は、一緒についてきた銀髪の男に向かって突然と叫ぶ。
「言われた通りエルン・カミュラーヌを名乗ったじゃない!」
「黙れ」
女性の言葉がとまると、私を牢屋に突き飛ばした。
そしてガチャリと鍵をかけられる。
残ったのは私と捕まった女性。
「ええっと…………はじめまして。貴方がエルン・カミュラーヌ? ディーオは?」
「違うわよ、本名はニシア。あの男に騙されてたのよ! 今ロープをはずして上げるわ」
「あ、お願い」
ニシアと名乗った女性は、縛られてないので私のロープを外してくれた。
ええっと、私の頭が混乱してくる。
「とりあえずディーオはどこ?」
「どこって、あなたディーオの何なのよ」
「妹よ! …………たぶんディーネと呼んで頂戴」
「それは、残念だったわね。ここには本物のディーオなんて居ないわよ」
「はい?」
外が騒がしくなって床が揺れた。
私達の馬車が動き出したのがわかる。
「だから、本物のディーオなんて居ないし、本物のエルンって子もいないわ。あの銀髪の男に町で仕事を頼まれて、エルン・カミュラーヌを演じろって言われてさ。なんでも我侭通るし、楽しくしてたのに、突然態度かえてくるし……この盗賊団のアタマっていうし」
「え。じゃぁ私達ってやばくない?」
動く馬車の中でニシエと会話して整理する。
ディーオとエルンの名を語り貴族の家に押し入って我侭を尽くした後に、盗賊を招き入れて金品を奪う盗賊団。
その貴族役の名前は毎回変わるらしく、たまたまディーオと私の名前を使ったとの事。
「頭いいわね」
「そうなの?」
「毎回貴族の名前を変える事で、取られた貴族も被害を出しにくいのよ……勝手に騙されただけってのを回りに言いふらすだけだし」
「でさ、あなたディーオの妹なんでしょ? やっぱ錬金術師なわけ? ねぇ助けてよ。ほらお金なら上げるからさ」
ニシエは、私に汚れている白金貨を見せてくる。
「白金貨じゃないの」
「でしょ、報酬貰ってないって言ったら、あのディーオ役の人がくれたのよ」
「あれの本名は?」
「知らないー」
おいおいおい、本名も知らない相手の仕事を請けたのかってツッコミを心の中でする。
さて……非常にまずい。
だって、私が妹なのは調べれば嘘だってわかるし、ギブソン家だって取られたのはお金だけ。
いっちゃえば、必要以上に追いかける意味はないのだ。
普通の貴族であれば、泣き寝入りする。自称妹の存在だって無かった事にすればいい。
「やばいわね、殺されるかも」
「ひっ! やだやだ死にたくない、ねぇ、助けてよ。田舎から出てきて死にたくないよ!」
「ちょっとしがみつかないでよ」
馬車の前方の布がさっと動く。
光が入って逆光でまぶしい。
「話し声がうるさい。黙れ」
「あっ偽ディーオ」
「偽でもなんでもいい、殺されなくなかったら黙れ」
「あっ、それはそうと寒いんですけど」
いくら馬車の中でも寒い。
私は思い切って言うと、偽ディーオが毛布を放り込んでくれた。
そして無言で閉める。
「ディーネすごいね、殺されるかもしれないのに堂々と……」
「…………」
「…………ディーネ?」
「ああ、私の事か。呼びなれてなくてってほらとりあえず一緒に包まって先ずは考えましょう」
制作余談
まぁ本物のディーオであれば、我侭すぎるエルンさんを放置はしないでしょう。たぶん……。
ニシエさん、田舎から出てきた娘。年齢は27歳ぐらいでイケメンに弱い。
酒場でイケメンにナンパされてヤバイ仕事あるけどどうだ?と持ちかけられて秒で引き受ける。
エルン・カミュラーヌを演じていて、我侭が楽しくなり本当に私はエルン・カミュラーヌじゃないかって思い始めた所で、襲撃される。




