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170 噂話と愚痴っぽい夜

 ミーナが飛んでいって、徒歩で墓場から町へと帰る。

 歩く事二時間だ。



「戻ってくるのに遠すぎるわよ……一人にされたし、こんなん飲まなきゃやってられないわよ。まったく……本当はミーナと何か美味しい物でも食べようと思ったんだけど、一人だし酒のほうが楽だし」



 やっと市街地に入ってきて、ホテルの近くにあるちょっとアンダーグラウンドよりな酒場へと入る。高級店もいいけど、こういう汚い店でお客入ってる店のほうが旨かったりするよ。


 でも、一つ問題といえば……。


 扉を開けると、飲んだくれの男達が一斉にこっちを見てきた。

 そうなのよ。

 常連というのが居るから、こう初見の客が入りにくい。その点高級店なら、お金さえ出せば初見でも常連でも入りやすい。


 カウンターに座ると、恐持てのマスターへと一番高い酒を注文した。



「嬢ちゃん……店間違えてないか?」

「間違えてないわよ。これが一番高い酒なんでしょうね」


 私の目の前には白い飲み物が出されている。

 鼻を近づけるとミルクの匂いがして、一口飲むとやっぱりミルクだ。

 よくミルクにウイスキーをいれて『カウボーイ』というお酒がある、最初はそれかと思ったけど……うん。大事な事なので二度呟くけど、ミルクである。



「金はいらん。飲んだらさっさと帰るんだな」



 払ったお金を戻された。

 ほう、このエルンさんに喧嘩を売ってこようとは。



「この店って正当にお金を出した客にミルクを出すしょっぼい店なの? よし、私がこの店で一番いい酒を飲めなかったら料金の三倍と、この場にいる皆にお酒奢るわよ。

 でも、飲めたら彼方が皆に一杯奢って」



 突然の事で周りの常連が、いいぞいいぞと騒ぎ出す。

 そりゃそうでしょう。勝負さえ受ければ、どっち転んでも常連は飲めるんだから。

 こうなると、店主だって私を無碍に出来ない。血管を浮かせながら、いいだろう。と、納得してきた。



 コップが割れそうな音を出されて酒が置かれた。

 常連だろう後ろの客から『竜殺し』とか、『幻の酒キタ』など聞こえてくる。

 そうよ、最初から普通に出せばいいのに。

 私は一気に飲むと、カウンターに叩きつける。



「お代わり」

「お、おう」

「味は辛口ね、アルコール度数は言うだけあって高いけど、飲めないほどじゃない。

 つまみは香辛料の聞いた奴が合いそう。うん、普通においしいわよコレ」



 なぜか周りから拍手が沸き起こる。



「完敗だ。勢いだけで飲んだのでは無く味まで言われたらこっちの負けだ」



 私の席に別の酒が置かれる。

 横を向くと常連らしい男性が俺の奢りだ! と、出してくれた。

 さらに別の酒が置かれる。



「ちょっと、奢った分いらないってわけ?」

「ちげーよ、ねーちゃんの飲みっぷりに乾杯だ」


 そうであれば素直に受け取る。

 常連の人達と乾杯をした後に、出てくる食事を楽しむ。

 ある程度飲んだ所で恐持てのマスターに十五杯目のお代わりを頼んだ。



「まだ飲むのか?」

「そりゃ、あれば飲むわよ。何か面白い話とかないのー?」



 私を口説き落とそうとしてくる常連は、酔いつぶれた。

 まぁ酔わせようとしてきたのはバレバレだったのでついてこれたらね。って条件で勝負したから。


 もう元気にしてるのは恐持てのマスターぐらいしかいないからだ。



「身分のよさそうな、お嬢ちゃんが好むような話はねえなぁ」

「あら、身分がわかるの?」

「そりゃな、そんな綺麗な服を着ていたら金持ちの旅行者だろ?」



 やっぱわかる人にはわかるのよね、この高貴な香りが。



「面白い話といえば、一つあったな。銀の錬金術師ディーオ・クライマーとその弟子……いや婚約者だったかな? 素材とりとか結婚式の下見とかで町に来てるらしいぜ」

「ぶっはっ! ゴッホゴホ」

「おいおいおい、大丈夫か?」



 思わず蒸せた。

 深呼吸をして、もう一度恐持てのマスターを見る。

 若干引きつった顔で私を見てきた。



「もう一度お願い。誰が誰と、そして何と町に来てるって?」

「いやだから、銀の錬金術師と言われていたディーオ・クライマーだっけかな。それが弟子か婚約者とか…………おい、顔が赤いけど水飲むか?」

「そうね、とりあえず頂戴」



 出された水を一気に飲んで心を落ち着かせる。

 あの男いつの間に婚約者とか弟子とか居たのよ。

 はー、やる事やってるって感じ?



「あ、そうだもう一つ思い出した」

「何が?」

「弟子ってのがエルンとか言ってたな。いやー我侭らしくてよ、普段は顔を隠してちょっとでも見ようとしたら死刑になりたいの? だとさ」

「はいいい?」



 んな馬鹿な。

 エルンと言えば私、私と言えばエルン・カミュラーヌ。

 はっ! これってアレじゃないの? ばれたくない相手と旅行する時に別人の名前を使うって奴。

 ディーオの婚約者が誰だか知らないけど、私の名前を使って旅行とか一体何考えてるのよ!


 どうしてくれようか…………。

 私のカウンターの前に新しいグラスが置かれた。



「なんだ。知り合いなのか?」

「は? ぜんっぜん知り合いじゃないわ。そもそもディーオって奴は胡散くさい錬金術師よ。そんな男ぜんっぜっん! 知り合いじゃないわ」

「………………そうか、まぁとりあえず。ギブソン家に居るらしいからな」

「べっつに、まったく興味ないけど場所教えてくれてありがとう。帰る」



 お金を置いて酒場を後にする。

 北風が気持ちいい。ギブソン家か、知らない名前ね。

 こっちがこんなに苦労して材料集めてる時に、恋人と旅行とはいいご身分じゃないの。

 しかも、人の名前まで使って、どう料理してやろうかしら。


 別にぜんっぜん怒ってる訳じゃないのよ? いいじゃないディーオだって、いい歳なんだからそりゃ恋人の一人も居ないと男性好きって思われるでしょうけどさー。

 ちょーっと私にも相談あってもいいんじゃないの?


「あーもう! 考えがまとまらないわね。酒もっとふんだくって来るんだった」

 

カルピス回に


皆様のおかけで170話 ブクマ300という大台に乗れました

感謝の呼吸(時事ネタ

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― 新着の感想 ―
[一言] 読者の呼吸・伍の型『感想』 置いてけぼり食らった意外と寂しがり屋のエルンは酒場で男どもを肴に呑むのだった。 おや、偽者登場?
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