163 お城へ行こう! 暇つぶしもかねて
町馬車で城前まで行く。
馬車には私とメイド服からかわいいハーフドレスに身を包んだノエと、普段着のガルド。
ノエなんて一人で歩いてきます! って言っていたけど、時間もかかるので馬車に乗せこんだ。
立派な兵士の詰め所から人が走ってくる。
「これは、エルン・カミュラーヌ殿ですな。もう来てくれるとは……」
「ん? もうとは?」
「ですから、先ほどコタロウ氏の身元引き受けにと使いを出したのですが。
城の女中の着替えを覗き、三日三晩の逃走の末、牢に。
さほど重要な犯罪でもないので賠償金を払えば釈放という事に、そこでエルン・カミュラーヌ氏が払うと」
「聞かなかった事にしていい? ええっと、カイン第二王子に面会したいんだけど」
暫く黙った兵士は、私の意見が変わらないとわかると、確認していきますといって消えた。
その際にあちらでお待ちください。と、別の建物に誘導された。
この辺はゲームと違って不便な物よね。
ゲームでは一直線に王様の部屋にいけた、実際いけたら大変なんだけど。
豪華な建物で好きなように座る。
私が座ると、その横でノエが小さくすわり。ガルドが立ったまま扉付近にいる。
突然扉が開くと見知った第二王子が現れた。
「エルン!」
息を切らして、子犬のようね。
「やっほ、カイン」
「……俺に会いに……その、プレゼントは……」
「あーあれ? 重すぎて引くわ。友達に指輪送るってどういう神経してるのよって、いや、そんな落ち込まなくて……ね。気持ちだけは伝わったから。拒否するけど」
「………………」
うわ。さらにカインの表情が暗くなる。
「お嬢様、用があるんだろ?」
「…………そうなのか?」
「あっそうそう。カインがガルドと戦って負けたっていうじゃない? それでガルドが剣の教えで……」
「わかった……ガルドに勝てば求婚を受けてくれるんだな」
え? いやそうじゃなくて。
ガルドがこの先も城で師範代になれるように手続きと、ノエに城見学をさせて欲しいんだけど……。
「ふ、一本も取れないのにか」
「…………油断しただけだ」
「三本も連続で油断か?」
「ちょっと、ガルド煽らないでよ……」
「くっエルン少し待っていて欲しい」
いや、欲しいというか城見学もしたいんだけど。思わずここで? と言いそうになる。
「負けるのは見られたくないか」
「…………違う。一緒に来てもいい」
カインは振り返ると城のほうに入っていく。
残された私とノエはガルドのほうに向くと、ガルドもこっちを向いた。
「思惑通り城に入れるな」
「えっ! もしかして演技!?」
「半分はな。あれは王族としての自覚がない」
あっもしかして、ガルドってばカインに昔の自分を重ねてるのかしら? だからカインに突っかかる?
なるほどなるほど。
私の袖が引っ張られる、下を見るとノエと目が合った。
「あの、もう二人とも小さくなっていきますっ」
「うおっと」
置いて行くとか酷くなーい! とギャル調で喋ると、ノエが不思議な顔をしている。
ちょっとだけ恥ずかしい。
ノエの手を引いて急いで二人についていく。
なっがあああああい廊下を歩いて歩いて、大きな庭に着いた。
人型の木の人形や、剣や盾などが壁際にあるので練習場なのは、知識の無い私でも解る。
練習していた兵士数人が私達の姿を見ると会釈してくれた。
カインが何かを言うと、ちょっと中年の兵士がてきぱきと指示を出す。
私とノエに、こちらへどうぞ。と、言われて椅子を出された。
「ええっと?」
「これは失礼、一応兵長をやっています。名は……いえこんなムサイおっさんの名前など名乗るのも失礼」
「そうなの? じゃぁ兵長さんで。で、これは?」
「普段練習が嫌いなカインが来たので何事かと思ったら、特別講師のガルド殿と試合をするというので、見学ですよ」
「へぇ……そういえば疑問なんだけど、ガルドってアマンダとどっちが上なの?」
「おや、始まりそうですよ。お前ら、お嬢様方にテーブルと飲み物を用意しろ!」
周りの兵士がキビキビと動き始めた。
おっと、もう始まるのか。
私と同じぐらいか、それよりも若い兵士達がテーブルをセットしたり、飲み物を持ってきます。と走り消えていく。
ちょっと罪悪感はいるけど、こう何もしないで手足のように何でも出てくるのは気持ちいい。
隣のノエは、私も手伝います! と意気込んでは断られてしょんぼりしてるけど。
「ええっと、エルンおじょうさま。お二人って怪我などしないんでしょうか? 危ないですよね」
「二人とも剣の達人だししないんじゃない?」
兵長が失礼。と、いうと会話に入ってきた。
「おや、お連れ様はお優しい。練習用の剣を使っていますが、怪我はしますな。
命すらたまに……幸いポーションがあるのでそこまで大きくはないですな」
「そういえば学園祭でも、そんな事言っていたような」
お。カインが剣を逆手に構えた。
ええっと……漫画だったら居合い斬りみたいな構えかしら。剣先に火球が数個確認できた。
たしかリュートも使っていたけど、それよりは小さい。
一方ガルドは剣を構えずに立っているだけ。
素人目にもやる気が感じられない。
「エルン、この勝利を君に……」
うわ、そういう事を真顔で言うとか、誰に似て……兄のヘルンはもっとひょうひょうとしてたわよね。
生真面目なのよねー。
「おい、お嬢様。俺が勝ったらコイツに何をして欲しいんだ? 城まで来たんだ用事もあるだろ」
「あっ、そうだった。ガルドが剣術師範に誘われたって言ってたでしょ。週三ならどうかなってカインに相談しようと……あと、城の見学」
うっわ。
私の言葉を聞いてカインの火球が消えた。露骨に眉をひそめる。
「俺は…………反対だ」
「カイン。ではガルド剣術師範を超えれるのであれば、兵長であるワタシも諦めよう」
うお、横にいる兵長がすっごう真面目な声を出してきた。
その間に私とノエの前にフルーツが刺さったジュースが運ばれてくる。
近くには、薪ストーブまで持って来てもらって暖かい、暖かい風が逃げないように私達の周りに壁のようなものが簡易的に作られていく。
「手際いいわね」
「はっはっは、たまにいるのですよ。試合を見たいとか、自慢の私兵との練習試合をという方々が」
「手間かけさせてごめんね」
「ふええ。わたしからも、ご、ごめんなさい」
「なっ…………噂通りの人ですな。遅いと言われた事はあれど、お礼を言われるのは初めてでですな。さて……カインどうだ」
遠くのカインが、渋々わかった。と言い出した。
ガルドはさらにやる気のなさそうな声をだしてくる。
「おい、命令ならそうするが、わざと負けるのはありか?」
「なわけないでしょ、良くわかんないけど練習とは言え、こういうのって手抜いたら相手に失礼なんじゃないの?」
「騎士はな、俺の教えるのは生き残る剣だ。なんでもする」
私は横にいる兵長さんに顔を向ける。
「そうですな、ガルド講師は我々と違い。負けたフリも簡単にし背後から蹴りを入れるような人物ですな、それゆえに強い」
「めっちゃ卑怯じゃん」
思わず即答すると、兵長が笑い出す。
「はっはっは、では相手が参った。もしくは私が止めるまでという事で」
兵長が手を大きく振り上げ、一気に下げた。




