162 エルンさん知らずにヒモを飼う
一月一日
日本で言えば元旦であるけど、この世界でもあまり変わらない。
新年限定イベなどあったような気がするけど、どれもこれもナナ関連なので、私には関係なかったりもする。
たとえば、学園での福袋の販売とか。
大・中・小の袋どれかを選んで当りなら高級素材。
外れたらゴミという買い物イベントなどだ。
「んんんん~~~~」
私は手足を伸ばして体を覚醒させる。
大時計を見ると昼を少し回った所、起きた場所は応接室で、大量の酒ビンと数十本、ぐったりとしたディーオが暖炉の前で丸くなっているのが見える。
「ほら、ディーオ朝だぞー」
つっつくと、小さくであるが起きあがる。
「…………やめろ、声が頭に響く」
「だらしないなー、錬金術師はしっかりするんじゃないの?」
「錬金術師といえと……いや君がおかしいんだ。規格外と一緒にされても困る。飲んだ本数を考えてみろ」
見ろといわれても、数十本しか飲んでないしー。
私がディーオと話していると、玄関のほうが騒がしくなった。
顔を上げて出入り口を見ると、普段着のノエと目があった。
「お、おはようございます。おじょうさまっ! ……と、ディーオさま!?」
「あらお帰り。実家は楽しかった?」
「はい、ありがとうございます。久々に妹や弟達とあえました」
ノエは小さくお辞儀して、なぜか窓を開ける。
寒い風が部屋に入ってきた。
「ちょ、ノエ寒いんですけどっ」
「ノエ君だったな、その匂ったか?」
「え、えとすみません。お酒の匂いが凄く」
「なるほど。ごめんねー」
私が謝るとノエは小さくなっていく。
顔を洗ってくると言ってディーオが部屋から出て行くと、その間にノエが空き瓶を集めたり、貸本を整理したりする。
私は暖炉の前で体を暖める。寒いから。
メイドの仕事取ってもねぇ。そう、だからサボリではないのだ。
「どうみてもサボリだな。お嬢様」
「なっ!」
振り向くと、黒ズボンに襟付きの服を着たガルドが立っていた。
「ガルドさんお帰りなさいー」
「ただいまです、ノエ先輩」
「おーい、私には丁寧な挨拶ないのかーい」
チラッと私をみて、わざとらしくため息を出してくる。
「これは失礼。召使いである私風情に休暇を与え頂き感謝いたします。ただいま戻りました」
「あのねー……普通通りでいいわよ。まったく……休みじゃなくて城に行ってただけじゃないの」
ノエは知っているけど、ガルドにもディーオが来ている事を伝え。朝食の用意をしてもらう。二人ともすぐに厨房のほうへ入っていった。
入れ替わりにディーオがさっぱりした顔で戻ってくる。
「と、言うわけで何か食べていったら?」
「唐突過ぎて何のことだ」
「いや、二人が帰ってきたし朝食でもというお誘いなんですけどー」
あっそうだ。
後はアレを渡さないと。
「ちょっと待ってて」
私は階段を駆け上がり寝室に行く。
扉を開けて散らかった部屋から皮袋とってまた階段を下りる。
応接間にいるディーオに皮袋を手渡した。
「これは……?」
「鍵屋いくんでしょ? そのお金。あっ別に返済はいいから迷惑料という形でチャラに」
「ぐ…………つき返そうと思ったが、確かに手持ちは無い。鍵屋というか雑貨店だな、いくつかの鉱石と金属を買うつもりだ」
結局ディーオは遅めの昼食後に帰っていった。
私は応接室にもどって、ソファーへ横になる、横ではノエが食後の紅茶とスポンジケーキを持って来てくれた。
「ありがと。そういえばガルドー」
ノエの背後で貸本をまとめてるガルドに声をかけた。
なんだ? と無言でこっちを見てくる。
「城はどうだった?」
「どうだ? といわれてもな。剣術訓練の教官として呼ばれただけだ。
そういえば、マイト・カミュラーヌ氏と会って色々聞かれたな」
「色々って?」
「ディーオとお嬢様の仲だな、ヒモに近い何かだと伝えておいた。
その後にカインが俺に一騎打ちの練習を申し込んできたのでコテンパンにしておいた」
「どういう説明したらそうなるのよ!」
頭痛くなるわね。
そりゃ確かにディーオと何かする時は金銭面はこっちが持ってる事多いけどさー。
別にディーオを飼ってるわけじゃないし。
アレ、でも確かに今日もお金渡したわね……周りから見るとヒモを飼ってるようにみえるのかしら。
紅茶を飲みながら他には? と聞いてみる。
「そうだな……剣術師範になってほしいと誘われたが、断ってきた」
「ぶーーーげっほげほ」
「エルンおじょうさま、ハンカチです」
「ありがとう」
口元を吹きながらガルドに向き直る。
「なんで、断るのよ!」
「主人の命令無視するわけにはいかないだろ……」
あきれ顔で聞くと、ド正論が帰ってきた。
「ガルド本人はどうなのよ?」
「命令であれば従うぐらいだな」
うーん、腕を組んで考える。
ガルドの将来を考えたら城のほうがいいけど、ノエと離れる事になるし。
今はまだこっちにすんでいるけど、何れは私も地方に帰らないといけない。
私の実家は遠く南西のほうだけど、ノエともお別れしないとだろうし。
「よし! 城に行こう」
「はい、ではご用意しますね」
「おいおいおいおい」
一人突っ込むガルドに、何? と言う。
「何ってお前……いや、お嬢様。突然城に行くって、ノエ先輩も素直に頷くな、メイドとはいえ主人の行動に疑問を」
「ふえええ、でも、おじょうさまの事は絶対です!」
「はいはい、喧嘩しない。ノエとガルドも一緒にいくからねー」
ノエもですかっ!? と驚くノエに微笑みかける。
「そういえばノエはまだ城の中行った事ないもんねー。社会見学よ社会見学。
どうせ家に居たって小さい仕事するだけなんでしょ。息抜き息抜き」
「え。あの……お夕飯の準備なども……」
「今日は帰りにでも外食しましょう。たまには皆で食事よ!」
ガルドがわざとらしくため息をつく。
「文句あるの?」
「いや、ノエ先輩諦めろ。それに、息抜きは大事だ」
「でしょ!? いやーガルドも言い事いうじゃない、ほらすぐ町馬車の手配して」




