160 チヨ婆の店(デートのようなもの1
お城からディーオでもゆったり着れる成人男性の衣服と、ベビーベッドが届き早四日。
ディーオは今も私の家に居る。
なお、ベビーベッドは私もディーオも何も言わずに解体して暖炉の薪にした。
いったい誰に、どんな話をしたらそうなるのか。
これだったら、ボクも行って鍵の材料を請求したほうが良かった。と、ディーオが呟いたのは記憶に残っている。
「ディーオこっち読み終わった」
「そうか」
応接室で暖炉にあたりながらディーオは次の本を手渡してくれた。
する事が無いし、二人で黙々と本を読む。
手渡された本も読み終わり私は一つの考えにいたった。
「そうだ! 私小説家になろうかしら。よくわかんない錬金術師よりも儲かりそうだし」「そうか、がんばれ」
「え。それだけ? 賛成や反対とかは?」
ディーオを見ると、ディーオも読んでいた本に栞を挟んで私と向き合う。
「その、よく解らない錬金術師の教師の意見で言えばだ。小説家という職業でどう儲けるかのほうが謎だ」
そりゃ印税よ、そんな事もわからないで教師やってるわけ? と言おうとして言葉をとめた。
大きな出版社もなければ、重版もない。
紙はまだ高いし、原稿用紙も見た事が無い。
となると、話を書いても買取で終わりかしら。
そもそも、何に書けばいいのか。
「君が決めたのなら君が決めればいい」
「ちょっとたんま、やっぱり辞めるわ」
「そうか」
「だーこんな不毛な会話をしたいんじゃなくてっ! 暇なのよ暇」
「明日にはボクも帰って、メイドのノエ辺りも帰ってくるんだろ? 一日我慢しろ」
「いーやーでーすっ。ってか食べる物も実はもう無いのよ」
本来私一人で食べるはずだったのを二人で食べていたので昨日で食料は尽きた。
残ったのはカー助が食べる胡桃しかない。
「なっそれはボクのせいか……すまない。何か買って来たいが手持ちが無い」
「ああ、別にいいわよ。財布も捨てたのは私だし、ガウンとタオルで相殺したから気にしなくていいわ。でね熊の手の近くの酒場やってるらしいわよ」
「近くというと鳥亭か……」
「不味いとか?」
ディーオは首を振ると、熊の手に限らず美味い店だ。と、言ってくれる。
じゃぁ何が不満だというのか黙っていると貴族向きではない店だなと教えてくれた。
なんだろ、匂いとか?
楽しみが増えた。
「じゃっそういう事で行くわよ」
「ふむ……ボクは一晩食べなくても問題ない、君一人で行って来ればいい」
珍しく拒否してきた。
いつもなら一人で出歩くのは危険だろとか言うのにもかかわらずだ。
「あーのーねー我慢してる人が家に居るのに、外でおいしく食べましたってどんな神経してるのよ」
「君だったら……」
「どういう意味だ! ちゃっちゃと用意して遠いんだから」
ゆっくりであるけど、ディーオは本を片付けて……片付けて……片付けて……。
「いや、どんだけ片付けるのよ。ってか、そんなに私と外に出たくないわけ?」
「そういう事はない!」
ディーオは力強く言うので、私も一瞬言葉が止まった。
それって、私と一緒なら喜んでって意味かしら、いやまさかね。
いくら自信過剰なエルンさんでも、そこまでは自惚れてないしー。
「じゃっ行くわよ」
「わ、わかった」
何もない天井を見上げて私に向き直る。
カー助を連れて行くか迷って、二階へあがる。
「カー助、外に食べに行くけど一緒にいく?」
カー助はこれでいて精霊なので私のいう事がわかるので問いかけた。
一声鳴くと首を振る。
適当に胡桃を餌皿に置いて部屋の扉を閉めた。
コートを羽織って外にでると、ディーオも外に居た。こちらは城から送ってくれた新品のローブを身にまとってた。
いかにも胡散臭い。暗い。ジーっと見ていると気分が落ちていく。…………かもしれない。
「ボクを見て何かひどい事思ってないか?」
「気のせいよ、見ていると落ち着く色のローブだし、髪のグレー色と合ってるわよ」
「お世辞はよせ」
「褒めてるんだから素直に受け取ってよ、面倒な男ねぇ」
おっと、つい思った事を言ってしまった。
ディーオを見ると、気にしてないような顔なのでよかった。
旧市街まで歩いて熊の手までくる。
相変わらず休みで、よくみると来月いっぱい休みと書いていた。
確かにアトラスの町まで行くのに遠いものね。
「この辺じゃ熊の手に人気が集中する、だからといって年中開くと周りの店は困るからな」
「なるほど……お客を取られて潰れると」
「そこまでは言っていない。他の店も美味い店が多い」
「で、問題は私はその鳥亭? だっけ店の場所知らないのよね」
「すごいな君、場所を知らないのにボクを連れてきたのか!」
「適当に歩けば誰かに会うからいいのよ」
ディーオが嫌味っぽく言った後に、あっちだと道を教えてくれた。
二人で歩く。
旧市街でも、さらに細い道が増えていく。
少し開けた場所があり、熊の手よりも小さい店が見えた。
数人の男性が赤い顔をしながら私達の横を通り過ぎていった。
私はディーオを連れて店の扉をくぐった。
白髪お婆ちゃんが私達を見て固まった。
「いらっしゃー……おやおやおや、ディーオぼっちゃんじゃありませんか。こちらは貴族様が来るような店じゃねえっすな」
「貴族様と言われるほど偉くはない、元気そうだなチヨ婆」
「ひっひっひポックリ言ったかと思ったかい?」
「ええっと……」
私が言葉に詰まると、お婆さんがヒッヒッヒと笑い出す。
「チヨ婆と呼んでくだされ、エルンさま」
「え。何で私の名前を!」
「有名ですからねぇヒッヒッヒ。で、何用で?」
「何用ってご飯食べに来たんだけど……」
チヨ婆は私の言葉に大きくうなずくと、目を見開いてディーオをみる、動きが大げさで本物の魔女を見ているようだ。
「ありゃま、ディーオの貴族様。ネズミ嫌いは治ったんでっ?」
「えっ!」
「べ、別に嫌いじゃ」
「ほれ、足元に」
ドンッ!
「いってえええ!」
「す、すまないっ」
ディーオが突然横に飛んで、近くで飲んでいた男性とぶつかった。
男性の酒がこぼれてあちこちに飛ぶ。
キョロキョロと足元を確認して、チヨ婆をみるとチヨ婆の笑い声が聞こえてきた。
「ヒッヒッヒッヒ。嘘だよ。ほれそこの酒をぶちまけたロクデナシ、許してやんな潔癖症の貴族様にも怖いもんがあるのさ。おまえさんがカミさんが怖いと同じにヒッヒッヒ」
「馬鹿、お、おれは」
「酒の追加だよ、カミさんの好物も入れておいたら帰んな。カミさんももう怒ってないよヒッヒッヒ」
酒をかけらた男は、チヨ婆から包みを受け取ると、かなわねえな。あんたらも気をつけろよ。と、笑顔で言って店から出て行った。
「ほれ、そこの席が空いただろ。二人とも座んなヒッヒッヒ」
「え。あっはい、ほらディーオ座るわよ」
「う、うむ」




