157 生臭かったし……しょうがないわよね?
寒い寒い寒い寒い!
叫びたくなるのを我慢する、だってねぇ。
子供が周りにいるから、そりゃエルンさんだって我慢しますわよ。
凍える、しぬ。マジでやばいわよ。
子供が川に落ちた。
それを助けたのがディーオで、私も飛び込んだ。
手足が動かなくなったのは想定外、人間冷たい川に飛び込むと普通の人は冷たさで動かなくなるのと知った。
というか、私それも合って前回おぼれたのよね。
そんな私を子供と一緒に引き上げたのはディーオで今は近くの家へと助けを呼びに言っている。
「エルン、こっちだ。近所の家で着替えが出来る。ほら君達も急ぐぞ」
全身濡れていたディーオが近くの店へ入っていく。
普通の家なんだけど、事情を知って協力してくれてる。せっまい家で部屋が三つしかない。
貴族様はこちらでと言われたので、一人奥で着替え、この家の中では高給なんだろうけど、染みのついた服を借りた。
「着替えたわよー」
「も、もうしわけありません……こんな衣服しか」
「ああ、いいって着替えれるだけあり難いし、子供は?」
周りを見ると小さい暖炉の前で子供を乾かしている女性が見えた。
ゴシゴシゴシと子供を拭いていたんだけど、私を見るとだ。
まだ寒い寒い言っている子供を横にどかして、貴族様どうぞと言ってくる。
「いやいやいやいや、そこまで面の皮厚くないから、あれ。ディーオはまだ着替えてない?」
衣服を絞った後はあるけど、ディーオの服はそのままで着替えた様子は無い。
そりゃそうか、着替えるための部屋を私が使ったんだし、そりゃまだよね。
顔面蒼白になった、家の人が私とディーオに暖炉の前へとすすめてくる。
「ご無礼をっ、お嬢様、もしくは旦那様すぐに着替えを」
もう一度言うけど、子供たちは寒い寒いと言っているのに。
おかしい、子供を助けたのにこれじゃ悪徳貴族である。
まだ髪が濡れているディーオが軽く咳払いをした。
「助かったのなら、ボク達は帰るとしよう。今回の事で何か不備があれば学園のディーオ・クライマー宛に文でも送ってくれ。それ以外の礼は不要だ。逆に送り返す」
外に出るディーオに慌ててついていく。
背後では、ご無礼があればお許しをと、言っているが随分腰の低い人だ。
むしろ、あれが普通なのかな? くっしょい。
くしゃみが出る。
「本当は完全に乾くまで居たかったが」
「いいわよ、あの空気じゃ。とりあえずここからなら、私の家のほうが近いし急ぎましょう。風邪引きたくな……くっしょん。ディーオも早くっしょい」
「そうだな」
身も凍るような風の中、足早に家へと帰った。
とうぜん、誰も出迎えてくれる人がいないのでちょっと寂しい。
「シャワー浴びてきてー。着替え用意するから」
「そこは家主が先に入れ」
「ふむ……じゃぁ一緒に」
もちろん冗談だ。かったい男をからかうためだけの身を張ったやつだ。
「ふう、ではお願いしようか」
「ふえっ!」
まさかOKするとは思わなかった。
いや、ええっと……ま、まぁエルンさんから言ったことだしー。別にお風呂ぐらい恥ずかしい事でもなしー温泉も一緒だったし。
それに中学生じゃなんだしー裸の一つや二つで騒ぎ立てる事でもないわよね。
バタン!
「ん?」
いつも間にかディーオがいなくて、浴室の扉がしまった音がした。
「く、このエルンさんを煙に巻くとは……許すまじ! さて、濡れたのは洗濯……うわくっさ……」
洗濯物をためている部屋へと入る。
綺麗に片付けられており、洗濯物はここにお願いしますとノエの字で書かれていた。
周りをみても洗剤が見当たらない。
「なるほど、新年明けてから洗うのかな」
ドアノッカーの音が聞こえた。
忙しい。
ディーオのタオルも用意しないといけないし。
出てみるとゴミ回収屋の少年だった。
年末なので早めに回収しに来たらしい。大変よねー……さて問題も一つ解決したし私も寝室に戻って適当に着替える。借りた服は後日返そう。
あと、ディーオのためにタオルなどを……あ。
ど、どうしよう。考えてなかった事がおきた。
ええい! もうしょうがない。
◇◇◇
私もシャワーを浴びて応接間へと入った。
むすっとした顔のディーオが暖炉の前で火に当たっている。
「ええっと、怒っている?」
「怒ってはいない」
「そういう事言う人って怒ってるのよねぇ」
「では、仮に怒っていたとしよう、しかし、善意でやってもらった事に対して怒る事はできまい。それに結果が悪かったのであり、君の行った行為はすばらしい物だった」
身に着けているのがタオルとガウンだけのディーオはため息をつくと暖炉の前に戻った。
そう、着替えがなかった。
一応だ。
私も高身長なので、まだ履いてない【女性用の下着】と胸元がちょっと変形したシャツっぽいやつを代わりに用意したけど不服だったらしい。
ディーオは私に、タオルを貰うぞ。と言うとタオル三枚で下を隠して、これまた私のガウンを羽織っている。
ちなみにガウンも買い取る。と、言われた。
「服を手洗う、洗剤を貰いたい」
「いやーそれがね、私もそうしようと思ったのよ。最初は……。
でもノエが道具含めて綺麗に掃除してあって、洗濯用の洗剤はなかったのよ」
「仕方が無い、もう一度浴室にいって石けんか何かで洗う。明日にはそれを着て帰る」
「えっ!」
それは不味い。
どれぐらい不味いかというと。
「どうした?」
「いやーあんまり汚いでしょ。捨てちゃった」
「なっ……」
ディーオがお風呂入っている間に、服をまとめていたらゴミ回収が来て、着替えの事を考えてなかった私はそのままゴミに出した。
その事を説明すると、ひどく落ち込んだ顔になった。
「だからごめんって、明日買って来るから」
「主な店は休業だぞ」
「確かに! ええっと……ガウンで帰るとか。あっそうだ。買わなくても私がディーオの家へいって服を探せばいいじゃない」
「と、思うだろ? 天才であるボクは戸締りもしっかりしている、家の鍵は服につけて置いた」
おーまいがっ! じゃぁ私は鍵も服も捨てたって事になる。
もはや燃え尽きたように見えるディーオに、かける言葉が一つしかない。
「ええっと……もう一度ごめん」
「まさか、捨てるとは思わなかった……」
「生臭かったし」




