156 年末といえば大掃除
王都で降った珍しい雪はもう溶けた。
教会のクリスマス会からすでに五日。
この世界ひとつきが三十日なので、明日からは神の休息日として五日間の休みである。
それが終わると一月一日になり神の誕生した日と数えられている。
と、言っても休むのは貴族や城関係者、大型なお店ぐらい。
年末といえばやる事は一つ、大掃除である。
「ノエーこれと、これは送り返して、ガルドこの手紙をお願い」
忙しい。
何が明日から神の休息日だっての。
あちこちから来たクリスマスプレゼントを送り返すのと、各貴族へのお礼の手紙。
簡単にいえば、結婚する気はないですよと書いた手紙だ。
私がフリーになって落ち着いたと言う噂から度々物は届いてたんだけどね。
本家ではもっと大変なんだろうなぁとパパの顔を思い浮かべる。
まぁでも、貴族のおじ様方の愛人や後妻に入る気は無い。
なお、若い男性からのプレゼントは皆無である。あっカインとリュートからは来ていたわね。
カインはヘルン王子シンシア姫の護衛で避暑地に行っている。
ネックレスを送ってくれて小さい指輪が通されている。
コレってあれよね。
重い。
思われるのはいいんだけど、重すぎてドン引き。
パパ経由で王様に言ってもらって、カインには早く彼女を作って貰おう。うん。
あとはナナからは賢者の石を守るように作られたネックレスをもらった。
まぁ心配かけたし。
私としては材料が揃ったので、お返しに材料を送ろうと提案したらナナに怒られた。
そのへんは自分で集めるのがいいらしい。
ごめん。
そういえば、弟のプレゼントに金の力で買ったよくわからないカードセット送ったらドン引きされたわ。
なんでも、自分のお金で集めるのがいいとかなんとか、返されたのでオークションで売ったら買った時の四倍で売れた。
それで家族旅行行ったような記憶が薄っすらとある。
「それじゃ、行ってきます!」
「俺も行くが……変な人間が来てもドアを開けるなよ。門番も休日に入ったんだ」
「はいはい、誰と思っているのよ! 用事を済ませてきて」
ノエとガルドが何かを言いたそうな目で家から出て行く。
さて、私も掃除の手伝いをしましょうか。
いつもノエ達にわるいからね。
私は厨房を見に行く。
ピッカピカのピッカピカだ。
「いやね、二回言う必要はないんだけど、掃除が綺麗にされているし」
近くのホコリが溜まりそうな所を指でギューっとなぞると、うん綺麗。
応接室にもどる、よく見るとここも綺麗だ。
トイレやお風呂もみる、うん綺麗。
中庭をみる、草が綺麗に刈られており問題はない。
「やーるーこーとーがーなーいーーーー!!!」
「うおっ!」
「きゃっ」
誰も居ないと思ったら返事が返ってきたからだ。
振り返ると、ガルドとノエが立っている。
「お、おかえり」
「ああ、ただいま戻りましたっと」
「はい、戻りました!」
「何を叫んでいるんだ?」
ガルドが聞いてくるので、当然私は答える。
「暇なのよ」
「そうか、俺達は忙しい」
「本当! 手伝うわよっ!」
私は腕をまくってアピールするんだけど、ノエが困った顔になる。
「あのー明日からは私も帰るので……その仕込みなどで、エルンおじょうさまが手伝える事はその」
そう、年末の休日になるとメイド達も家へと帰る。
ノエは帰って、ガルドも完全に休みだ。
「別に芋の皮向きでも、パン生地こねるのでもなんでもするわよ」
「ノエ先輩が気を使うんだ」
うぐう……。
大人しく私室を片付けるか、寝とけ。と、言われたので私室へ篭る。
◇◇◇
小さい家のドアノッカーをドンドンと叩く。
ガチャと音がすると、迷惑そうな顔のディーオの顔だ出てきた。
「…………なんのようだ」
「可愛い生徒が来たのに酷いいいようね」
「悪いな、天才であるボクの生徒に可愛い子はいないようだ」
扉を閉めようとしたので、あわてて引っ張る。
「一人暮らしで掃除もしてないんでしょ! 手伝いに来たって言うのにっ。いーれーなーさーいー!」
「ああ、騒ぐな近所に迷惑だ」
渋々と家に上げてくれた。
「で、何のようだ」
「玄関先でそれ聞く? いえね、家にいてもやる事が無くて私室でカースケの羽で汚い所をむしっていたら、ナナが様子を見に来てくれて。
『ディ、ディーオせんせいさんの所の手伝いはどうでしょうか?』って言うので、それもそうねと」
「なるほど、邪魔者扱いされたか」
まぁ上がれと言うので、家に入る。
程よく綺麗に整頓された棚に、何も置かれていないテーブル。
飲みかけの珈琲と本が置かれており、適当にソファーへと座った。
「見ての通り掃除は終わった」
「男の癖に綺麗すぎない!?」
「身の回りの汚さは心の乱れにもなるからな」
すっごい嫌味をいわれたようなきがする。
「珈琲でいいか?」
「ほえ、あ。くれるの?」
「何も出さないわけにはいかないからな、飲んだら帰れ」
「今来たんですけどおおお!」
私が不満の声を出すと、ディーオも不機嫌な声を出してくる。
「用件はないからな。一応は送っていく」
「そりゃどうも」
そりゃ用事もないけどさー。
もう少し言い方ってものがあるじゃないの。
とまぁ、珈琲を飲み終わっても追い出されることはなく、私とディーオは黙々と本を読んでいた。
ディーオは錬金術師の本で、私は初級者用の本。
初級者用の本は、錬金術師の生い立ちが書かれていて面白い。
外を見ると暗くなってきていた。
「あ、もうこんな時間!?」
「おっと、ノエがまっているのか、彼女に謝っていてほしい」
「いや、ノエもガルドも休暇入ったわよ。ノエは実家で、ガルドは城に呼ばれてるみたい」
「…………家に残っている者は?」
「居ないけど」
「君は天才か馬鹿かとおもっていたら、やっぱり馬鹿なほうだったか。どこの世界に貴族の令嬢一人で留守番する人間が居るんだ! エレファント氏の所に行くぞ」
「エレファントってリュートのお母さんよね」
「そうだ、ノエが帰ってくるまでそこにいろ」
「あっ!」
私は手を叩いた。
その行動にディーオの言葉が止まった。
「なんだ?」
「そういえば、ガルドが城に呼ばれて、私が行ってきたらっていうと嫌な顔してたのよね」
「それで?」
「ディーオに伝えて欲しいって言葉があって……『後は任せた』と……別に子供じゃあるまいし、留守番なんて一人でいいわよ、心配性なのよ」
そりゃ一人暮らしの女の子の危険性はわかる。
わかるけど、ナナだって一人暮らしなんだし、貴族の家を襲うとかそういう話は昔はあったらしいけど今は聞かない。
これでも王都の犯罪発生は少ないし。
「しかしだな」
「この話はおしまい! エレファントさんってちょっと怖い所あるし」
「…………確かに。っいや、違うぞ今のは言葉のあやでな」
慌てるディーオはそれでも、結局自宅まで送ってくれるという事になって、二人で歩く。
王都内を流れる川、その橋の近くで数人の子供が見えた。
子供は風の子というのは本当で、この寒さでも半そでの子までいる強い。
ディーオと私がそこを通ろうとすると、近くにいた子供が消えた。
「えっディーオ!」
「ボクが行く!」
川へ落ちた子を助けようとディーオが飛び込む。
だめだ、流されて間に合わない。
気づけば私は川の中に居た。子供を男性へとに渡して私は流されていく、沈みかけた体を誰かか引き寄せると岸まで…………。




