155 最高のクリスマスかも
熊の手に着いた。
お昼時なので、そこそこにお客がいて込んでるようだ。
数人のお客が私達の顔を見て、引きつった笑顔で席をあけてくれる。
なぜに。
流石に、ランチを切り盛りしているソフィーネさんが私達に気づき声をかけてくれる。
「いらっしゃーい、そこに立たれると、エルンちゃんの怖い顔でお客が入ってこれないから、奥に行ってくれるー?」
「ちょっと、酷い扱いじゃありません!? ちっディーオちょっと笑いそうになってるわよね!」
「き、きのせいだ」
何時もの席? に通されて適当にツマミと水を出される。
流石にこれから人に会うのに酒はない。
軽くお腹を満たすと、客も居なくなっていく、最後の一人が居心地が悪そうな顔で出て行くと、ソフィーネさんは外の看板を裏返しにして戻ってきた。
「何か悪いかったわね、お客帰らせたみたいで」
「んーでも、あの人達こっちが笑顔で居るといつまでも帰らないから丁度よかったわよ。あっもちろん嫌味なしでね」
「ソフィーネは昔から人気あったからな」
「へえ……」
「美人は困るわよねって所で昨日の続きよね」
私は今朝の案をそのまま伝えた。
私のテーブルに出した、芋の揚げ物を一口食べながらウンウンと頷く。
「そうね、小さいパーティーだったらそれでいいかもしれない。で仮装はやっぱりフラッツ神父? でも、腰を痛めたって」
「さっきも言ったけど大人組が全員すれば問題ないとおもうわよ、そうねぇ……男性はサンタで女性は魔女って所かしら」
「あら、じゃぁわたしも?」
「ですね、それっぽい感じにすれば良いと……で、錬金術師組は平行して花火を作る。
あ、もちろん私は作れないから、二人に任せてと」
トントン拍子に話が進んだ。
細かい雑費にかかるお金は、全員で分担する。
子供も大人も楽しめる会にしたい。
◇◇◇
クリスマス当日。
教会の屋根の上から私達は中庭を見下ろす。
子供達や大人達が、ささやかなパーティーをしているのが見えた。
「エルンさん笑顔にしたほうが……」
「そうね」
私とナナはプレゼントをつんだソリに乗って中庭に登場とする手はずになっている。
このソリ、飛んでるホウキ組み込んだ物でナナが操縦して地面におりる。
一番の問題だった重量問題は、ディーオが持って来た妖精の血を飲む事で解決する。飲む量によるが、一時的に人間の体重を軽く出来るそうな。
で、全てが上手く言っているのに私が笑顔じゃないのは理由がある。
「で……私はコレなわけね」
「え、えっと似合ってますよ」
「ありがとうナナ。でもなんで私だけトナカイなわけ?」
「ご、ごめんなさい。やっぱりわたしがトナカイを」
「いやいやいや、可愛いナナにトナカイはさせたくないわ! こういうのってブルックスかディーオの出番なんじゃないの?」
「お二人ともソリに乗らないので……」
く、そうなのだ。
ソリが思ったよりも小ぶりで、ブルックスや面積の問題で乗れない。
ディーオは乗れるけど、花火の管理で下にいる。
じゃぁサンタだけってのも、味外がない、というか変である。
「じゃぁいきましょうか」
「はい!」
ちらっとみるとディーオと視線があった。
子供達はまだこちらに気づいていない。
ナナがソリに跨り、私もソリの前へと座る。
「よし、ナナお願い!」
「はい!」
ナナがムチを振るう、別に私が打たれているわけじゃない。
重力に逆らって空を飛ぶ、私が飛ぶのは二回目だ。
子供達がキャーキャーと私たちを見ては指をさしたりして騒ぎ始める。
「トナカイだー」
「トナカイのお化けだー!」
「食べられ、花火で打ち返そう! サンタさんを助け出すんだー」
まてまてまてまて。
ゆっくりと着地したソリから私は降りると、子供達の前へといく。
さっきまで花火で打ち返そうといった年長の子供を黙ってみて、頭をゴンと叩いた。
「いったあああああああ」
「泣くなっ、いい子にはプレゼントがあるわよ」
どこかで、エルンそれはないだろ……って言っているのはディーオの声だ。
「な、なかねえよ!」
「おお、偉い偉い。ほらサンタさんの所いって並んできなさい。ナナサンタさんからプレゼントが待ってるわよ」
大人達がそれに合わせて花火を打ち上げる。
花火と行っても数メートル打ちあがる小さいやつだ。
小さい子供が花火を見て喜ぶと、私も思わず微笑む。
フラッツ神父が、サンタさんにお礼をいうんですぞーと聞きながら、私は少し離れた。
ぬっと熊のような手が出てきた。
「あら、ブルック……ぶはっ! そ、そのあ、頭」
「どうした何か変な所あるか?」
ブルックスの禿げた頭には今はフサフサの青い毛が整ってるからだ。
「ちょっと誰一人突っ込まなかったの!?」
私が周りを見渡すと、周りの大人はさっと首を振って私を視線を避けた。
ブルックスは、引きつりながらも何も変じゃないだろ? と言い出し始めた。
「そこまでして拘りたいのかしらね」
「っ! ああそうだ!」
「ちょ、大声ださないでよ、子供が驚くから」
「す、すまん。髪は男にとってロマンと一緒だ」
「カツラにしたら?」
「馬鹿、わかってないな……地毛がいいだ」
「でも白金貨三枚でしょ、それに半日で……」
私がそう説明するとブルックスの顔が青ざめた。
やば、半日の説明って言わないほうがよかったのかもしれない、ってブルックスは私を見ていなく、その横を見ていた。
魔女のコスプレをしたソフィーネさんだ。
「あなた、確か金貨二枚って言ったわよね? エルンちゃん白金貨三枚って?」
「え、あっ。私の聞き違いかもしれなかったし」
とっさに出た嘘である。
だって、ソフィーネさん顔は笑顔なんだけど、赤いオーラがみえるきがするもの。
「ほ、ほらな? 金貨二枚って言ってるじゃねえか。無駄使いなんて」
「別に白金貨五枚でも六枚でもいいのよ、まったく……」
あ、ソフィーネさんが溜め息をつくと優しい笑顔になった。
私も思わずほっとするし、ブルックスもほっとしてるのが見える。
「もう、で本当は何枚だったの? 家計の調整にいれるわね」
「すまねえな。実は三枚だ」
「あっ馬鹿」
私の、馬鹿という一言にブルックスは目をキョトンとしている。
「ふーん。エルンちゃんも共犯?」
私は全力で首を振った。
失言だったと気づいたブルックスはもう遅い、笑顔のソフィーネさんに連れられて会場から消えていった。
パタパタと小さいサンタコスのナナが走ってくると私を見上げてくる。
「あれ、どうしたんですか?」
「ううん、何でもないのよ。一人の愚か者と賢者が場を去っただけ」
「はぁ……あっ子供達にプレゼント配ってきましたよ!」
「えらい! ってアレなんで私の手を引っ張るの?」
「えへへへ、子供達がトナカイさんと遊びたいって、やっぱり子供はわかるんですよ、エルンさんは優しい人だって」
複数の男の子が、トナカイお化けーと叫びながら突進してくる。
ほうそうかそうか、私は魔物か。
突進してくる子供を腋の部分で押さえ込む、そしてグルグルと全力で回る。
懐かしいなぁ、弟によく遊んであげたっけ……。




