153 サンタさん友達を下さい
「はーい、皆良い子にしていたかなー」
ソフィーネさんがそういうと、周りに子供が集まっていく。
私達はその様子を離れた部屋から見ている。
場所は旧市街にある教会であり孤児院。
ソフィーネさんの案内のもと、様子を見に来たのだ。
ブルックスは酒場があるからしょうがない、窓の外を再びみる。
女の子がソフィーネさんの手を取って引っ張り、男の子がその背中にしがみ付いたり、あっ。どさくさに胸触った子供は、上空に投げ飛ばされた。
引きつった顔の子供が空から落ちてきたのを、ソフィーネさんが見事にキャッチした。
事情を知らない男の子達が、僕も僕もーとせがんでいる。
「どうぞ」
背後から言葉が聞こえ振り返ると、よぼよぼのお爺さんが珈琲を出して来た。
どれぐらいかというと、腰を曲げて杖をついている。
ありがとうございます、とナナとディーオが飲む。
私も飲んだ。
「うっす」
「ぶっは」
思わず言った言葉にディーオがむせた。
「エルン君……フラッツ神父申し訳ない、彼女はその大貴族ですぐ失礼な事をいう癖があるが、根は悪くなく、貴族の割りに庶民的な事にも協力的な人物なのだ」
「いえいえいえ、こちらこそ貴族様に出す飲み物ではなかったのは事実でした。教会で一番高い豆をひいたのですが……」
なるほどフラッツ神父というのね、じゃなくて……やっば、私が悪者になってるじゃないこれ。
ええっとええっと。
「あめりかんな感じがしていいんじゃないかな?」
「「「…………」」」
しまった! 三人とも呆然としてる、あめりかんってあれ元の世界での話よね。
ええっと、薄い珈琲を褒めるにはええっと。
庶民的な珈琲ですね。いや違うな、嫌味になる。
貧乏な時は薄くなりますわよね。これもだめだ。
金持ちには味わった事がない味ですわね、さっきと一緒じゃん。
「け、健康的な味と思います」
「…………エルン君、それもどうかとおもうぞ」
「いやはや、気を使ってくれくれているお気持ちは十分伝わりましたので、本当に申し訳ないです」
フラッツ神父さんは、もう一度私に謝るといやはやと椅子に座った。
たぶん口癖っぽいかな。
「今回はクリスマス会に協力してくれるという事で」
「まぁソフィーネさんの育った場所と聞いちゃったからね」
そう、ソフィーネさん。
ここの孤児院の出身で毎年クリスマスにお祝いの手伝いをしていたと。
今年も普通にしようと思っていた所、サンタ役のフラッツ神父が腰を痛め、不運は重なる物で、天井の一部が壊れ雨漏りがしたり。育てている家畜が死んだり、子供の数人が流行りの風邪を引いたりと出費が重なりクリスマスまで手が出なくなって来たと。
子供達もたくましい物で事情を知って今年は料理以外は中止しようと言ってくれているが、その顔は寂しい顔だと。
で、ソフィーネさんはブルックスにその事を相談した結果、コッチにも話が飛んできたと。
「なるほどなるほど、要はプレゼントって事よね。財務担当として町で一番高い物を揃えてあげるわ」
「いやはや……出来ればそういう物は諦めて思い出に残るような、そして来年も出来るような奴に」
「注文が多いわね」
「ごもっとで、いやはや」
フラッツ神父の言葉をディーオが代わりに喋りだした。
「今年だけ特別にお金をかけると来年が困るからだろう、そして今年が好評だったら来年も続けたい。という所だろう」
「そうです、そうです」
なんと、じゃぁ財務担当の私はどうしたら? ちらっとディーオをみると私を見て口を開く。
「我々錬金術師は知恵を出せばいい」
知恵ねぇ……。
「とはいえ、すぐには出ない期日は一週間後だな」
「ええ、そうです」
「持ち帰らせてもらおう」
ディーオがそういうので私もそうね。と賛成する。
ソフィーネさんは、まだ子供と遊んでいるので、私達はフラッツ神父に挨拶をして、それぞれ帰る事にした。
◇◇◇
「と、いうわけなのよ」
私はいい具合に焼かれた肉を口にいれて、ノエに今日あった事を説明した。
相変わらず一緒には食べないけど、横に料理をのせた台とともに私の話を聞いてくれて頷いてくれる。
「さすがはエルンおじょうさまです! 期待されてます!」
「そうなのかな?」
「素晴らしいクリスマスにしましょう! ノエも手伝える事があれば言ってください!」
「ありがとう、相手先もあるけど料理とか頼むかも」
「任せてください」
そういえば、二人にもプレゼント渡さないと駄目よね。
去年は一人だったし、リュートを捕まえて私がプレゼントよって押し迫ったのを思いだした。
いやー……色々未遂でよかったわ。
私個人としてはリュートとナナがくっついてくれるのが一番楽なんだけどねぇ、二人とも友達で終わっているし。
プレゼントと言えば、教会の子供達のプレゼントは、結局お金を出し合って用意する事にした。
一人当たり金貨二枚だ。
たった二枚……いや全員の合計で八枚なんだけど、それで全員分のプレゼントを買うとかなんとか。思わず白金貨数枚だしそうになったわよ、これで買いなさいって。
もちろん、高価なの禁止って言われていたから止めたけど。
だったらもう問題は解決ね、という事にはならなく。
やっぱり普段と変わったお祝いを体験して欲しいという話になった。
私が黙っているとノエが慌て始めた。
「何か美味しくないものでもありましたか!? す、すぐに取替えを」
「え、いやいや違うわよ。あ、そういえば当日は地味な服装でお願いしますって言われたわ……ノエもメイド服じゃ駄目よね」
「そりゃそうだろ」
む。横から声が聞こえたかと思ったらガルドだ。
手にはワインを持っている。
この雪で今日来るはずだったワインが来なく、俺が数本買ってくるといって外に出てたのだ。
「ありがとう! 買ってきてくれて、寒かったでしょ。一緒に飲む?」
「何所の世界に召使いと酒を飲む主人がいるんだ」
「ここ。ガーランドでは一緒の飲んだ仲じゃないの」
お互いに数秒固まった後にガルドが咳払いをしてきた。
優雅に一歩下がると、美しいぐらいの礼をして顔をあげてきた。
「ご主人様、心使い感謝いたします。ですが、この場では主人と召使い、場のわきまえをお願いいたします」
「ぶー、二人とも変な所ですーぐそれだもん。
いいわよいいわよ、部屋いって飲むわよ!」
はー、気軽に遊べる友達が欲しい。
そりゃ、ナナは友達と思っているわよ、なんだったらノエもそう。
でもなぜか一歩引くのよねぇ。
この辺は私の身分もあるからそうなんだけど……でも、貴族の友達は要らない。と、いうか悪評がありすぎて無理。
サンタさんに頼もうかしら、可愛いエルンさんが友達を欲しがっていますって。
紙に書いて枕元に置けばいいのかな。




