151 暇人なので面白そうな事についていく
短めです、きりがよかったので・・・
来てくれたんだし、ディーオを家へと招き入れる。
「久しぶり」
暖炉のある応接間に入ると、軽く頭を下げて来た。
「ああ、火事の時には力に慣れなくてすまないな」
「うわ、謝ってくれるとは思わなかった」
「一応な、留守の時に尋ねてくれたと校長から聞いた」
ディーオは私がテーブルへとぶんなげた新聞を手に取ると、記事をよみ新聞をもどした。
「なるほどな」
「なるほどなって、感想それだけ?」
「他にいいようがないだろう、火事が起きてギルドマスターの任は辞退したまでしか聞いてないからな」
「ちょっと、鵜呑みにしないでよ? 私は別に恨まれて火をつけられたんじゃないですからね」
ディーオが立っていると、ノエがディーオ用に珈琲を入れてきた。
ちらっとこっちを見て、頂いていいのか? と目線で聞いてきた。
「別にいいわよ。折角来たんだしゆっくりしていきなさいよ。ってか何しに?」
「長期不在していたからな、先ほども言ったが戻ってきたらボクに相談もあったと聞いたし、その報告とお土産だ」
「わおっ。あっごめん、つい口に出た」
ディーオは黙ってポケットから小瓶を出した。
液体が入っており、色は薄い赤の半透明だ。
「んーなにこれ」
「妖精の血だ」
ドン引きである。
何所の世界に、女性へのお土産に生き血? いや死んだ後抜き取ったのしら。
なんにせよ、喜ばれる物じゃないわよね、なぜ送るのか。
「飲めと?」
「違う、まぁ飲んでも……以前ボクが作ったシルフの羽粉。あれは振りかけた物の物質を半分にする効果があるといったな」
「そうだっけ?」
「そのシルフから分けて貰った血だ。粉よりも強力で姿はそのままで物質の重さを減らす事が出来る」
「へぇ……貴重そうね」
「貴重だ」
悪趣味なアイテムであるが、貴重なら貰っておこう。
「これで君への借りは返したという事でいいか」
「ほえ、ああ……気にしてないのに」
「いや、リュート君と会ってな……君の借りはすぐに返さないと後に大変な事になると説明された」
「ほう……例えば? ディーオの事だから事例聞いてきたのよね」
「彼の名誉のために、詳細は言わないでおこう」
ちっ。
「はいはい、いいわよどうせ悪役令嬢なんだから」
「その前から思っていたが、君が時おり口にだす悪役令嬢とはなんだ?」
「何って……」
悪役だから悪役令嬢?
とはいえ、もう悪い事はしてないし、過去の話も我侭だったのは認めるけど、貴族とはそういうものだし、ナナとの関係も今では良好である。
じゃぁ、今の私ってただの令嬢?
「ああ、すまない。混乱させるつもりは無い」
「そ、そう? まぁその珈琲でも飲んでよ」
「飲んでる」
頭が混乱しそうになるので、私も考えるのを辞めた。
微妙な空気のまま沈黙が部屋を支配する。
うちのメイド達は頭がいいので、こういう時は黙って別な仕事をしているし部屋には居ない。
「さて、珈琲も頂いたので帰るとしよう」
「え、もう帰るの!?」
時間にして五分も居ない。
「用は終わったからな」
「なんともまぁ……これがリュートやカインだったらいつまでも居るのに、なんだったらご飯まで食べてくわよ。いやね、ご飯は大勢で食べたほうが美味しいし、私も嬉しいんだけど」
「暇なら貸本屋でもいったらどうだ?」
「寒いからパス」
錬金術でもしたらどうだ? と言わないのはディーオなりの優しさなのかね。
でも、外には出たくない。
貸し本ごときで家の中で暖かい暖炉の前から離れたくない、もっと楽しそうな事がいい。
「いいじゃない、だってこの家の主人なんだから」
「別に何も言っていない、他にもよる所があるからな」
「へぇ珍しいわね、どこに? あっもしかして女性に言ったらドン引きする様なところ?
ディーオもなんだかんだで好きな――痛っ。新聞で叩かなくても良いと思わない!?」
「自重しろ。ブルックスに呼ばれてな、クリスマスのサンタの話だろう」
ノエーと! 私は大声でノエを呼んだ。
パタパタと走って来たノエに、出かけるからと一言いうと、お気をつけてと返事がくる。
「…………」
ガルドもコートを取ってきてくれて、私に手渡してくれる。
「…………」
コートを羽織って、手袋をしてマフラーは……首元が寒いけど面倒だからいいか。
「さて、用意できたわよ」
「………………ついて来るきなのか?」
「これだけ用意して、違いますっていうわけないじゃない、暇つぶ……興味あるじゃない」
「君、いま思いっきり暇つぶしって言いそうになったなよな!」
怒りっぽい人間は嫌いだ。
「はいはい、いきましょう」
「まったく……まぁ君にも出来る事があるかもしれないしな」
「そうだナナも誘いましょうよ。そうね、そうしましょう」
雪がちらつくなか私は見送られて家をでた。
◇◇◇
151.5 『とある召使いの冬の話』
主人が出て行った玄関を黙ってみる。
主人とはエルン・カミュラーヌ。
俺の妹を助け、犯罪者の俺自身を助けたのに、ケロっとした顔で迎え入れた奴だ。
「なぁ先輩。どうおもう?」
「なにがですかー?」
先輩というのは俺より年齢が十以上も離れているメイドのノエ。
小さい体で大きい俺に命令するのは大変だろうと、最初は思っていた。
が、この家での実質の支配者は彼女かもしれない。
あのエルン・カミュラーヌですら怒った先輩こと、ノエには逆らわないのだ。
おっと、話がそれてしまった。
「あのご主人は、あの男の事をどう思っているのかって話だ」
「エルンおじょうさまがディーオさまをですか? エルンおじょうさまが、そう思っていれば、そうなればいいですね」
「意外だな」
「なにがですか?」
「いや、先輩はご主人には結婚なんてして欲しくないと思ってな」
「ふんすです。ノエはおじょうさまが幸せになって、おじょうさまの子供の世話をして、ゆくゆくは、おじょうさまの孫を世話するのが夢なんですよ。ガルドさんは将来どうなんですか?」
「俺か…………」
正直、将来の夢にかんしては興味は無い。
妹も結婚し、死刑だった俺に働き口を斡旋してくれた女王には感謝はする。
しかし、死刑でもよかったと思っているからだ。
だからこそ、いつ命を落としてもいい騎士団に入ったんだけどな……それも今は懐かしい思い出だ。
「ええっと、ガルドさん?」
「特に無い。先輩の夢叶うといいな」
「ふええ? よくわかりませんがありがとうございます。
じゃぁ決まるまで、一緒にがんばりましょう」
「一緒にか……その時はよろしく頼む」
「はいっ!」




