140 錬金術師の発明品事情
特に変な事を言ったつもりは無い。
詰まったらカッポンよ! ぐらいだ。
ディーオが不思議そうな顔で私に、カッポン? と聞いてきた。
「そうカッポン。あるじゃない、どんぶりみたいなゴムので棒がついてる奴」
「…………なるほど。言いたい事はわかったが、その君はそれを見た事があるのか?」
「そりゃ……どこの――」
ん?
どこのトイレにもあるでしょ! と言おうとして止まった。
王都の貴族街などは水洗式だ。
その技術は凄く、魔石の力をつかってうんちゃらかんちゃら。
でも、水道と言うのは無く、生活水は井戸や最近はポンプ式のがあるとかなんとか。
つまり、配管というのがない。
と、思う。
じゃぁ、貴族の家にあるトイレはどうなってるのかというと、良く知らない。
「イメージよ! イメージ!」
「絵で描けるか?」
「そりゃまぁ……」
簡単だし。
私は地面に木の棒を使って形を書いた。
ディーオとヒヨコはそれをみて腕を組んでいる。
「よし、理論はわかった。問題はこれを誰か作るかだ!」
「だれって、ディーオが作れば」
「鳳凰の大きさを考えるとな」
たしかに。
使う人間の事考えて無かったわ。
そもそも、ゴム製品って貴重なのよね。
皮や金属メインな物が多いし、ゴム紐などはあるんだけどゴム単体となると町でもあまり見かけない。
私の考えをよそにディーオが熱弁をふるっている。
「ここまで大きいゴムを使うとなると無理だろう、材料も足りない、型は金属がいるな……まて、ゴムにする必要もないか、用は圧力の応用だ……」
「え、もしかして大変な事を私言った?」
腕を組んで計算しているディーオが振り返る。
「現在は棒を使って詰まりを直そうとしている。が無理だからな、この案は素晴らしい、
カッポンといったな……。エルン君、君の名前を付けたらどうだ?」
「名前?」
「ああ、世に出てない、いや、出ていても僕はこのアイテムを見た事がない」
「それって凄いわね! 使用料とかもがっぽがっぽで是非っ…………」
なぜか脳内に図鑑が出て来た。
エルンのカッポン。 レア度☆☆
水の抵抗を圧力でピストンし詰まったトイレなど直せるぞ!
「辞めとくわ、かっこ悪いじゃない! ゆくゆくは別な場所で使われていくと、詰まったらエルンのカッポン取ってこい! って言われるのよ、最終的にはトイレにエルンじゃない!」
「ま、まぁ……可能性は……」
「絶対あるわよ! 全世界のエルンのためにも絶対に名前をつけない。ディーオに権利あげるわよ」
「む、ボクは別に他人の功績に乗りたくは無いからな」
「どうでもいいから、早く作ってくれピヨ」
おっと、ひよこが困った顔をして入ってきた。
「「たしかに」」
これだから錬金術師はなんちゃらピヨと聞こえてくるけど、私もディーオも特に何も言わない。
「でも、解決は出来そうだしー……解決したら何くれるのかしら」
「ピヨっ!」
「なに驚いた顔してるのよ、当然の権利を言ったまでですけどー宝の一つや二つ持ってるんでしょ?」
「無い事もないピヨ……でも、そういうのは成功してから言うピヨ! 失敗したら責任取ってもらうピヨ!」
「なーんで私が責任問うのよ。温泉に鳳凰のふ……鳳凰の排泄物があるから問題なんだから、その原因を――」
「エルン君、すぐ帰るぞ」
話の途中でディーオに引っ張られる。
時間が経てば経つほど、ゆきぽよぽよは増えるだろう。と、言って来たので私も仕方が無く話を打ち切って帰る。
霊山を下ってアトラスの町へと帰った。
そのままガーラの家へと行き事情を説明する。
腰に剣をつけたカルロスとガーラが丁度家をでる所に出くわした。
「っと、カルロス!」
「よう、お二人さん。町のためにすまねえな」
「え、別に町はどうでもいいわよ。温泉入りたいだけだし」
「「「………………」」」
は! いつの間にか、すり替わっていた本音が!
ええっと、借りを返そうとしていたけど、温泉の魅力がちょっとでちゃっただけよ。
う、うん。町も大事よ。
「じょ、冗談よ?」
「そうですよね。エルンさんって貴族なのに面白い人ですよね」
「あ、ありがとう。ガーラ」
ガーラが笑顔に戻るけど、男性二人が私を白い目で見てくるのは気のせいか、うん、気のせいね。
そう思いたい。
「所で、ひよこから話も聞いて来たし相談あるんだけど……カルロス達は出かけるの?」
「いやな、温泉の近くにゆきぽよぽよを食べる冬将軍が出たって話で、その討伐だ」
「随分寒そうな将軍ね、強いの?」
「それなりにな、ダンの親父だけじゃちょっと危ない」
うわ、ダンさんって凄い強いのにそれでも危ないって。
結局カルロスは、私達の話を聞いてダンさんに伝えとくと手を振って別れた。
ガーラが残ってくれて工房もなければ材料もない私達は、予定通りマドックさんのお店へと、足早に進む。
相変わらず品物が整頓されて無い店へと入って、マドックさんを呼びつけた。
若干酒臭い息で奥からでて来た。
「よう、新顔もいるな、グレート皇帝ペンギンスーツ壊れたか?」
「まったく壊れないわ、それよりも相談があるんだけど、ディーエもん説明よろしく」
「君なぁ……まぁいい。ディーオ・クライマ一応錬金術師だ、最近――――」
ディーオが代表で鳳凰の巣で起こっている事を話した。
マドックのお爺さんは全部を聞くと、なるほどなぁと呟く。
「と、いうわけなのよ。出来そう?」
「そこまで大きい物は作れないが、あんたらが言っている応用品ならまぁ、なんとか」
応用品。
そう、巨大カッポンは諦めた。というか無理。
金型もいるし大量のゴム液もいるし、木の棒の部分だってそこまで巨大なら丸太がいる。
私とディーオ、そしてガーラと相談した結果、大きなカサモドキを作って貰う事になった。
開く部分は皮。
柄の部分は無く、パラシュートのような感じにして、紐は太い縄をつける。
それをトイレに流して、途中でカサの部分を開いて引っ張る作戦。
水の流れを強引に変える。
水中で何度もカサを開く閉じるでやるんだけど……問題は沢山。
まぁそれは置いておいて、どっち道、他に思い浮かばないからそういう事になった。
「そりゃまぁ仕事なら作るけどよー……期日はいつまでだ?」
「明日!」
私の言葉にマドックの爺さんが、咳き込む。
「ば、ばかやろう。半月はかかるわ!」
「と、いっても半月もまったら町が魔物だらけになるわよ」
まぁ半分嘘だけど。
いくらなんでも、そうそう魔物だらけにはならない。
でも、連鎖的に魔物の数は多くなるし、犠牲者もでるかもしれない。
そうなると、交通も止まるし、余計に困るだろう。
ガーラもマドックの爺さんにお願いをし始める。
「マドックさん、一人ではなく組合員でパーツをバラバラに作れば……組み立ては現地でやりますし、それと、賃金のほうなら……」
「そう、これだけあれば足りるでしょ?」
私は悪役令嬢? らしく美しい笑みとともに財布をマドックの爺さんの前に置いた。
軽くなったとはいえ、手持ちの全財産である。




