136 エルン式の型 抜刀術……なんちゃって
美味しそうなケーキと紅茶が置いてある。
暖炉の火にあたりながら、外の雪景色を見る、優雅な一時だ。
もちろん宿ではなく、ガーラの家へ招かれていてガーラの帰りを待っている。
「戻りました」
私はガーラへふりかえる、練習後の汗ばんだガーラはちょっとえっちだ。
ちがう!
ちょっと色っぽい、あれ? 同じ……まぁ置いていて。
「おっかえりー、にしても毎朝訓練とか良くするわね」
「剣の素振りと走る事は習慣になってまして……何もなければ毎日します、あの突然呼んで、申し訳ありません。ディーオさんの看病もありますよね?」
「看病? ああいいのよ、あんな奴。おかけでこっちは変なのまで食べる羽目になったし……で、相談というのは?」
「はい、エレンさんは凄い錬金術師と聞きまして」
「やだ、誰が言ったのよ、嘘でも嬉しいわ」
「ええっと、ミーナさんです」
「…………そう」
なにか、嬉しいんだけど適当な気がするのよね。
「実は祖父の事なんですけど」
「あっ、もしかしてカルロスとの仲を認めてくれないとか?」
「べ、べ、べべべつに先生とは! その、あの! そ、祖父と先生の仲は良好です」
なんだ違うのか、じゃぁなんだろう。
「ええっとですね、魔物が大量発生してまして、その残骸というか、有効活用できないかと、もしくは何か無いかと言う話がでてまして、錬金術で何とかならないかと」
「ええっと……魔物の種類は?」
「はい、ゆきぽよぽよです」
ゆきぽよぽよ、寒い地方に生息する下級の魔物で、半透明の氷みたいな生物。
と、本で読んだ。
「うーん……」
正直何も思い浮かばない。
まぶたを閉じて腕を組んで考えているふりをして、ちらっとガーラをみると、凄い期待した目で私をみている。
まぶしい! まぶしいわ!
まぁこっちも、カルロスを借りて危険な山道登ったんだし何か恩返しはしたい。
「私一人じゃ思いつかないし、ディーオに聞いて来るわ」
「いえ、そこまで大事に……」
「いいのよ、どうせ寝てるだけで暇してるんだし」
私はガーラの家を出て宿へと足早に戻った。
◇◇◇
「と、いうわけでディーエモン何かない?」
私は宿に戻っており、ベッドの上で上半身を起しているディーオに聞いて見た。
「………………一応いうがボクはまだ病み上がりだぞ。あと【エモン】ってなんだ……」
「ガーラには一晩考えさせてって伝えておいたから。
あと、私の知っている話に、そういうお助けキャラがいるのよ」
ガーラは、無理なら大丈夫です! と言うけど、相談したって事は何かして欲しいというのは私にもわかる。
今日カルロスが居なかったのは、その討伐に出てるからってのも、ガーラにとって気になるでしょう。
「まぁいい、ゆきぽよか……その肉体は普通の氷よりも長持ちし、昔は食品を保存するのに使ったらしいな」
「今は魔石あるもんね」
「ああ、一般家庭にはまだ難しいが、飲食店などでは氷の魔石を使っている」
以前作った焼きに特化したのもそれの一種だ。
ただ、コストが高い。燃料に各種中和剤とかいるのでまだ一般的ではない。
だからといって、ゆきぽよぽよの素材を加工してまでは、また酷く面倒だ。
「ってか、そんだけ大量にいたら素材も余ってるわよね」
「そうだな、まずは調査だろう」
「やっぱり?」
「仕方が無い、ボクがいこう……世話にはなりっぱなしなんでな」
ディーオはヨロヨロと立ち上がろうとする。
「いやいや、行くわよ! そんな体で無理に立たなくてもいいわ」
「…………そうか。こう見えても体を鍛えていてな」
何所がだ! いくら鍛えていても、今は小枝のようだし。
「もう、その言葉が悲しく聞こえるから、とりあえず寝てなさい。ガーラのお爺さんって人に会ってくる」
「念のためだ、これをもっていけ」
私はディーオから細剣を貰った。
たしか妖精の粉がふってあり軽いとか聞いた事ある。
「一応いうが、上げてないからな、貸すだけだ」
「あ、そなの? くれるのかと思った……まぁいいや。じゃ」
ディーオと別れてガーラの屋敷まであるく。
でも何か嬉しいわね、こう剣を持つだけで一気に冒険者になった気分。そして、この剣。羽のように軽い軽すぎて不安になるぐらいに軽い。
私は辺りを見回す、街の中心街からはなれて人も建物もない。
整地された道の両側に木々が等間隔に植えられている。
もう一度周りを見る。
「よし誰も居ない。ちょっと木の枝を切ってもいいわよね」
…………。
………………。
程なくしてガーラの家へとついた。
カルロスはまだ帰って来ていないらしく、もうすぐ帰って来ると思いますと教えてくれた。
「悪いわね、何度も」
「いえ、こちらこそ。時間的にもうそろそろ帰って来ると思うんですけど……あの、その剣は?」
「ああ、これ借り物」
見せてくださいとせがまれて、細剣をガーラへ手渡す。
「材質はミスリル……? でも、信じられないぐらいに軽いです。少し失礼します」
ガーラは近くにあったテーブルを行き成り切りつけた。
テーブルは真っ二つなり再び剣をみて驚いている。
うん、この子もちょっと変だ。
「すごい刃こぼれ一つしてない」
「おう、もどったぞ」
「あ、先生!」
「よう、エルン」
カルロスは体についた雪を払いながら部屋に入ってくる。
ガーラの剣を見て、何やってるんだと、いいながら暖炉の前に行く。
「先生、先生! 凄いですこの剣!」
「剣がどうした……」
「はい! エルンさんの剣を見せてもらってます」
「借り物よ」
「先生、凄い軽いんですよ!」
どれといってガーラから剣を受け取った。
「これは珍しい……ミスリル、いやオリハルか、それにしては軽すぎる。何か細工してるな」
さすがのカルロスだ。
剣を確かめるだけで、その性能をあてていく。
そして、私と剣をみて黙っている。
「何、言いたい事あるなら言ってほしいんだけど」
「そうか、じゃぁ帰って来る途中で道に何本も綺麗に切られた樹木があってな……」
「……へぇ。あ、ガーラちょっと飲み物ほしいかな」
「足りなかったですか? では、持ってきます」
ガーラが部屋から出て行った。
私は直に財布から宝石を取り出すと、無言でカルロスに手渡す。
カルロスも無言で受け取ると、剣を返してくれた。
いやだって、あんなに切れるとは思わないじゃない。
一刀両断よ、三本ほど切った所で我にかえったわよ。




