133 鳳凰にあえたわよ!
「とまぁ、終わらないんですけど」
「何言ってるんだ?」
「別に、独り言」
そうか、と言うとカルロスはドンドン山道を登っていく。
今年は山を閉じようって言っていただけあって、足元もわるく何度も転びそうになっている。
カルロスが。
前にもこんな事を思ったような、いやだって私の場合全身ぬいぐるみだし足は全然滑らないし、何所までも登っていけそう。
クチバシを閉じて顔を隠せば、水晶体を通して吹雪だって減っちゃらだ。
現に、向かってくる魔物の群れが見えて来た。
カルロスが剣を抜く、犬みたいなオオカミ、たしか雪オオカミというやつだ。
かわいそうだけど、一匹、二匹とカルロスが退治していく、私は後方でぼーっとする、だってペンギンだし。
「エルン! そっちに二匹行った防御しろ、すぐに助けるっ」
「りょうかい!」
あのお爺さんの話によると、鳳凰でも打ち負けないって意気込んでいたし、これぐらいの魔物には大丈夫でしょ。
防御じゃなくて攻撃の姿勢にうつる。
一、二の三!
グレート皇帝ペンギンの平手打ちを、雪オオカミのお腹にあてる。
キャインキャインという声と共に、十メートルぐらい飛んで行った。
「「………………」」
いや、飛びすぎでしょ。
私もカルロスも無言だし、もう一匹の雪オオカミも仲間の飛んで行ったほうをみて固まる。あ、逃げた。
「助けは要らなかったな、一応聞くが怪我は?」
「あら、気持ちは嬉しいわよ。まったくないわね」
散らばった荷物をまとめるカルロスを待って再び進軍する。
ってか、最初の襲撃以降魔物が襲ってこなくなった。
カルロスがペンギンさまさまだなと、冗談を飛ばしてくる。いや、私って魔物にも嫌われてる!? こんなに愛くるしいグレート皇帝ペンギンの着ぐるみ着てるのに。
予定より早く休憩ポイントについた。
大きな洞窟になっていて、カルロス用の焚き火を作り、カルロス用寝床を作る。
私は寒くないし、寝るときもこのままだ。
「なにか、もうエルンお前一人でもいい気がして来たな」
「でも、道知らないし。あっ冗談でも途中で死なないでね、せめて鳳凰に会ってから死んで」
「おまっ……」
「まぁ冗談なんだけど、やーよガーラになんて説明していいか」
焚き火で焼いた肉をもらって休憩する、洞窟の外では吹雪が強くなって来た。
例年なら、この雪でも雪男などが出るらしいけど、まったくでない。
「明日の予定は?」
「この先にいくつかの洞窟があってな、そこを抜けると鳳凰の巣に行く道だ。
前にも行ったように男女のペアじゃないと戻される、そして道中は魔物が多い。
今回は楽だけどな、遭難だけしないように気をつければ大丈夫だろう」
◇◇◇
鳳凰に会うために二日目。
ってか、今思ったんだけど時間が結構やばくない?
行きに四日掛かったら、帰りも四日で、ディーオの寿命は二日もない。
猛吹雪の中、カルロスは必死に前を歩く、その足取りは思った以上に重い。
そりゃそうなんだけど。
一方私は、カルロスの後ろをペタペタとついて行く、こっちは軽い。
「ねぇ」
「なんだ、休憩所まではまだだぞ」
少し髭が伸びてきたカルロスが振り向いて、心配してくれてるけど、別に休憩はいらない。
むしろカルロスのほうが休憩したほうがよさげだし。
「私が前に行こうか?」
「道案内はどうする?」
「背中にしがみ付いてみる?」
カルロスが暫く黙った後、案を実行する、グレート皇帝ペンギン第二形態が完成した。
カルロスその方がいいって思ったんでしょ。
ペンギンのお腹の部分に長い紐を巻いて、背中にカルロスを背負う。荷物は私がもって後は走るだけである。
「やべえな、このもふもふ……この歳になって何かに目覚めそうだ」
「はいはい、そういうのはガーラとやって、次の道は?」
「右だ」
ズサアアアアアアアアアッ! と ドリフドをかまして急ブレーキをかける。
「左だ!」
反対にブレーキをかける! 面白い。スキー選手になった気分である。
「そこは直進だ!」
ズササササササッササ!
こうして、日没前に目的の洞窟についた。
途中で白熊さんと出くわしたけど、手で跳ね除けたら飛んでいった、南無。
問題の洞窟ってのも、二人で通る。って、ペンギンのままで、進んだら通れた。
カルロスの説明どおり、洞窟内の壁の色が変わってきた。
「失敗したら、どうなるの?」
「ふもとまで戻される」
「まじで?」
「ああ、だから余計に希少価値が高い。予定よりも数日早いし、そこを曲がれば鳳凰の巣だな」
「早いほうがいいわよ。って洞窟を抜けると雪国だったって、言葉知ってる?」
カルロスは聞いた事ねえなと首を振る。
「まさか夏とは思わなかったわ……」
東京ドームぐらい大きい丘があって、真ん中に大きな木が生えている。
その下に肉眼でもみえる、巨大な【ひよこ】がいた。
「ねぇ、アレが鳳凰?」
「お、もうヒナだな」
そりゃひよこだからヒナなんでしょうけど、なにあれ、大きくなったらニワトリにでもなるの?
「さていくぞ」
「いや、いくぞってめっちゃコッチ見てるけど……ってか暑い」
「あー初見は皆そういうな。何、慣れると話のわかる奴だ」
私は、着ぐるみの中にあるレバーを思いっきり引く。
この着ぐるみ持って帰ろうと思ったけど寒冷地専用ね、グレート皇帝ペンギンの着ぐるみの背中がぱっくり割れて、私自身が外にでた。
あーやっぱり夏の空気ねこれ。
前を見ると、既にカルロスは歩き出してるし……慌てて私もついて行く。
でっかいひよこ……じゃない鳳凰がピヨピヨと鳴き声だしてよって来る。
「わぁかわ…………いくないわね。何でもでかけりゃいいってもんじゃないわよ。四メートルぐらいあるんじゃないの? 餌は何食べるのよってか、卵って大きいのよね、どうもっていくのよ!」
「酷いピヨ!」
「うわっ喋った!」
私が驚くとカルロスが、豪快に笑う。
「そーいや、鳳凰は代々記憶を受け付いて喋る」
「早く言いなさいよ! 良く見ると愛らしいわね、その真っ黒な目がキュートと言うか」
「今更いいピヨ。で、久しぶりピヨ、羽ピヨよね、もっていくピヨ」
「あら、わるいわね」
私は鳳凰の足から毛をむしった。
ピヨヨヨヨヨヨーーーーーーーーーー!
ピヨ!!
「い、痛いピヨ!!!」
「持ってけっていうから……」
「馬鹿ピヨ! この人間は馬鹿ピヨ! 寝床にあるから持っていけってピヨよ!!」
「三歩歩いたら忘れるような鳥の癖に、そんな話聞いてないわよ! さっさと卵も寄こしなさい!」
「鬼ピヨ、鬼が来たピヨ」




