115 水洗トイレ
塔は上半分が崩壊し、いまは様々な魔物達が修復に励んでいる。
私とリュートは単眼のメイドに助けられて外にいた。
暫く休憩した後に、こちらへどうぞと誘われていくと。
満天の星空のした。簡易テーブルには目の前には黒い鉱石と紫の草など様々な材料が詰まれているのがみえる。
「ええっと?」
先に来ていた包帯まみれのリオに目を向けると、不機嫌そうな顔でこっちをみる。
「アレから聞いた、素材が欲しいんだろ。さっさともって帰れ」
「あ、ありがとう。その傷は大丈夫?」
「心配いらん、部下が大げさに巻いただけだ」
リオの背中にそっと忍び寄る影が見えた。
私が注意するまもなく、ミーナはリオの包帯をツンツンする。
「いっ!」
「うわー、痛そう」
「コロス!」
まったく傷がないミーナが走り、包帯だらけのリオも走っていく。
「仲いいわよね」
「はい!」
「うわ、びっくりした」
単眼のメイドが私の横に立っている。
「リオお嬢様は過激で馬鹿ですけど、人を見る目は確かです。ああやって、うさんくさい錬金術師ミーナへ攻撃してますが、どれもこれも最後は手加減しています。
別に、この素材だって用意する必要すらないのに手配はしますし、指輪だって取り上げればいいのに絶対にそれをしません。
毎年毎年結界を強化とか、本当愛らしいです」
「そ、そうなの?」
私が疑問を口にした瞬間、空が光る。
立て直している途中の塔が吹っ飛んだ。
ここまで飛んでくる瓦礫を単眼メイドは弾いてくれる。
「少々喧嘩癖もありますが、あれで、あのえたいの知れない錬金術師がこなかった数年など妙にソワソワしてたりもするんです」
「おい、ノリス! 私は別にそんな事思っていない」
「ありがとうリオちゃん、今度はマメに魔界にくるね!」
「来なくていい!」
「えーっと…………ご愁傷様」
かける言葉が出なくて精いっぱいの慰めをすると、頬を膨らませて離れていった。
単眼メイドがテーブルにあった素材を鞄に詰め込むと、それらをリュートへと渡す。
「お帰りは、あちらの小屋から帰れます」
あちらと言われた小屋をみると、ゴミ捨て場と書いてある。
「ゴミ捨て場ってみえるですけどー」
「はい、地上から降ってきたゴミを捨てる場所です。
前回の教訓を生かし一方通行ですが、中の魔方陣に乗っていただくと、外からレバーを引けば戻れますので」
何かを思い出したように、単眼メイドは手を打った。
「お二人とも指輪を」
「げ、ばれてる!?」
「エルン……」
「は、口にっ」
私とリュートは指輪を渡した。
これでもう魔界には来れないだろう……単眼メイドは指輪を受け取ると大きな瞳で宝石を覗き込む。
「なるほど、複製されてます。これなら結界を通れたのは納得します。
こちらをどうぞ」
単眼メイドは私達に黒い宝石がついた指輪を渡してくれた。
「え、回収してもう魔界にはこれないんじゃないの?」
「その宝石部分をおしゃぶりのように舐めてください、舐めまわしてください、もうねっとりと」
「え。いやなんですけど」
ちょっと引く。
なぜに、舐めまわさないといけないんだってか、顔を合わせたリュートが少し赤面してるし。
「いたっ」
「別にそこまでしなくていい」
「あ、リオ」
包帯だらけのリオが単眼メイドの頭を叩いて立っている。
周りにミーナが居ないという事は……?
「アレは西の山まで吹っ飛ばしてきた、数時間は起き上がってくるまい。
その指輪に唾液や血液をつけておけって意味だ。
一舐めでいい、魂の情報が記憶され、今度はその横に出るはずだ」
リオは小屋の横を指差す。
なるほど、それなら安全だ。
「また遊びにこい、今度は持てなす」
「訳すると、遊びに来ないと寂しくて死にそうです」
「ノリス……」
「なんでしょうか? 主人様?」
「減給」
「そ、そんな、こんなにも主人の事を思っているメイドは魔界といえと居ませんよ!」
「カガミがいる」
たぶん、リザードマンの人ね。でもメイド服着ていたからリザードウーマン?
っと、漫才が終わらないので一声かける。
「で、これでいい?」
指輪の宝石を小さく舐めると、リオも単眼メイドも頷いた。
「ああ、何時でもこい。割と暇だ」
「思ったんだけど、そんなに暇なら地上にくればいいのに……そりゃ人間に近いタイプじゃないと問題あるだろうけど。
亜人もこれるギルドも作ってる途中だし、リオなら耳さえ隠せば平気なんじゃないの?
それに、その……ヘルン王子とも会えたんじゃ……」
「エルン、リオさんには深い事情があるんだ。そういう事は」
リュートに注意された。
そうよね、地上にいけるなら言ってるだろうし。悪い事を聞いた。
「あ、ごめん。地上に出れない決まりもとかもあるのよね、よくしらないのにごめん」
「なっ」
私とリュートの謝罪にリオは固まっている。
なぜに?
単眼メイドが、うんうんうんと何度も頷く。
「流石は、ご主人様が目をつけた人間です。
そうなのです、ご主人様は馬鹿なので、そんな事も気づかなかったのです。
今はショックで固まっているだけなので時期に解けるでしょう。
ささ、その材料を取りに来たという事は待っている人もいるのでしょう、どうぞお急ぎを」
私達は小屋に中に通された。
魔方陣が書いてありその上に立つ。
小屋の窓からレバーをもった単眼メイドがいきますねーと言うとレバーを引いた。
なんとまぁ、トイレを思い出す。
汚いし口には出さないけど……ってか、なんであの単眼メイドは鼻つまんでるのよ!
「臭そうですし」
「臭くないってか、なんで考えてる事わかるのよ!」
「メイドですから」
「エルンそれよりも、視界が」
リュートの言葉どおり、景色が揺らぐ。
水中にはいって目を開いた時に似てる感じだ、それが段々と酷くなり酔ってくる。
「きもぢわるい、吐きそう」
「ちょ、エルンここで吐くのは……」
気づけば、川沿いに座っていた。
直に水面にいくと、胃の中身を出す。
「ふー…………すっきりした。ここはどこよ」
「精霊の森の南かな、この先に滝がある」
やっぱりゴミ捨て場というより水洗トイレ。
「なるほどね、ゴミを流すには便利な所ね……いつの間にか太陽も上がってるし帰りましょう。ミーナは放置しても大丈夫でしょ、材料は貰ってきたし」
「そういうものかな?」
「そういうもんよ」
鞄を背負ったリュートと共に学園目指して歩く事にした。




