113 魔界流のおもてなし
あれから徒歩で二時間ほど歩いて塔の前へ着いた。
道中の話す内容といえば主に魔物の事だった。
森から飛び出してきた大きな鳥や、大きな目玉に触手が付いた魔物など、森や岩の影から飛び出してはリオに斬られていく。
その度に、この魔物はコカトリスの亜種だとか、イービルアイだったなど説明をうけるだけである。
あまりに簡単そうに倒すので、リュートも倒せるんじゃないの。と、聞いた所、リュートではなく前に歩くリオが鼻で笑っていた。
次に魔物が出てきたら譲ってやろうというリオであったけど、結局全部の魔物を倒して護衛してくれた。
もしかしていい人? かもしれない。
リオが手を前にかざすと音を立てて門が開く。
尻尾の生えたメイドや、単眼のメイド、耳の長いメイドもいれば、人間にしかみえないメイドが並ぶ事十数人。
頭を下げて二列に並んでいた。
「亜人……? 人間っぽいのもいるわね」
「亜人というよりは魔族その者だ。地上に出た者よりも血は濃い。
ああ、人間もいる。
たまに地上から落ちて来たり帰りたくない者などもいるからな」
保護してるという事なのね。
「へぇ、立派……なんですね」
「無理に上品に喋るな……普通に喋って構わない」
その間にも、何人かの魔族がリオのまわりに集まっては、なにやら報告をしている。
よくわからないけど結構偉い人っぽい。
若そうに見えるのに凄いわね。
「あれ。リュート顔色悪いわよ」
「いや……魔界の塔に住む騎士と思って着いて来たけど……これは」
「おい、こっちだ。料理を出す」
リオが振り向き会話を止めた、それまで喋っていたリュートが黙る。
なぜ黙る……まぁいいけど、ともあれ魔界での料理は興味がある。
「はいはいー! ほらリュートいくわよ」
「あ、ああ……」
リュートの手を握って歩き出すと、前にいたリオが私をみてポカンとしてる。
口なんて半開きだ。
「何?」
「いや、魔界に迷い込む人間は数多くみているが、ここまで物怖じしないのは珍しいと思ってな」
「してるわよ、でも殺すつもりだったら、私達もう死んでると思うし……もてなしてくれるなら、もてなして欲しいし、尚且つ今は料理が気になる!」
「………………はっはっはっはっは」
「な、なにっ!」
リオが突然大声で笑う、別に冗談言ったわけじゃないのに感性の違いなのかしら。
「悪かった、お前は面白い奴だ。こっちだ」
塔の三階部分までついていくと見晴らしのいい部屋へと通された。
既に料理は並んでおり、スープが入った寸胴鍋や、何かの肉などが置かれている。
「人間の礼儀作法は覚える気にならん、好きなように食べてくれ」
リオはそういうと、近くにあった骨付き肉を手にとって丸かじる。
それと同時にテーブルに置いてある酒瓶をラッパのみし始めた。
私も真似しようした所で、リュートが待ったをかける。
「なに?」
「行儀が悪い」
イラ。
「郷にはいれば郷に従えよ!」
「聞いたことない言葉だな……」
私が肉をかじろうとした時に外が光った。
伏せろ!
誰かかそういった。
私の体が何かに押しつぶされると、遅れて突風と爆音が響く。
天井にあった灯りが消え、暫くした後につきだした。
「エルン、大丈夫か」
「いたたたた……はっ! 手に持っていた肉がない!」
「肉より体の心配だっ。怪我はないか」
体を起すと、テーブルや料理が床にばら撒かれていた。
「な、なんて事を! せっかくの料理が。
あ、これ食べれそう」
砂埃のついた肉を拾うと、リュートに取り上げられた。黙って首を振る。
まだ一口も食べてないのよ! リオを見ると、しゃがんだ体勢から立ち上がる。
廊下からメイド服を着た魔物達がリオのまわりに集まって無事を確認していた。
唐突に目が合う。
「人間よ。お前達に害を与える気は無い」
へ? ああどうみたって事故なのに、リオ仕組んだ事と思われたくないという奴よね。
「大丈夫よ、そんな事一ミリも思ってないし。それよりこれって」
「結界が破られた衝撃だろう、現在この周辺には六枚の特殊結界を張ってある。
忌々しい……ノリス、カガミ。剣を持て。
事故も含めて確認する」
単眼のメイドとリザードマンに見えるメイドが既に武器を持っていた。
「えっえ?」
「別の部屋に料理を作らせる、せっかくの客人相手に私の持て成しを台無しにした礼はしないとな」
「あ、ちょっと」
「なんだ?」
「私もいくわよ」
リュートが無茶だ! と止める中、リオが私を見ている。
その顔は感情が読み取れない真顔に近い。
「お前、変わり者って言われないか?」
「全然? ねーリュート」
「え、あーー昔から好奇心だけは変わらず強いんだ」
何か引っかかる言い方をされた。
人間好奇心が無くなったらボケの始まりよ。
「いやだって、これだけの料理をだめなった原因知りたいじゃない。
私の料理が消えたのよ」
エルンのじゃないけどなと、小さい突っ込みを喋る男は無視する。
「いいだろう、何があっても責任はもてない」
「ええ、それぐらい解ってるわよ」
隣で、何だか昔に戻ったみたいだなと聞こえた気がした。
流石に振り向くと、少しだけ笑顔のリュートがいる。
いやいやいや、昔に戻ったって冗談よね。
昔って悪役令嬢時代って事よね、なんでリュートが嬉しそうな顔なのよ。あれもしかして悪事を密告して私をギロチン台に後れるから?
「おい」
「はっ! なにっ!? ギロチンは嫌よ!」
「……何の話だ。着いて来い」
◇◇◇
「エルン、しっかり捕まって!」
「大丈夫だって、落ちはしないわよ」
たのしいー! 星空の光した私は空に飛んでいる。
乗っているのは、馬でもなく、飛んでるホウキでもなく竜。
紛れも無い小型の竜に乗せて貰っている。
着いて来い。そういったのはリオでそのまま塔を登る物だから、人間は嫌いだ! って、わんちゃん塔から突き飛ばされるのかと思っていたけど、いやー竜に乗れる日がくるとはエルンさんもびっくりよ。
操作の仕方は馬より簡単で、手綱の代わりにあるレバーを上下左右に動かすだけという、現代のバイクと飛行機ゲームのレバーを足したような奴で操作するだけだ。
たしかガーランドの砂オオトカゲも、これと似たようなのがついていた。
確認した所、こっちが本家だといわれた。
なんでも、元々ドラゴンの子育て用の道具だったのをはるか昔に地上に持って行った魔族がいたとかなんとか。
いろんな生物に試した結果砂オオトカゲにヒットしたと。
祖先が同じドラゴン族だからだろうとまで教えてくれた。
ってか、話して思ったけどリオ達って地上の事詳しい?
「エルンー! あれを」
練習で一度墜落しそうになっていたリュートが私の横についた。
大声で前を見ろって、叫ぶので前をみると、星空の下に会いたかったけど会いたくない人がホウキに乗って浮かんでいる。
今は会いたくないような女性は私達を見て手を振ってきた、そして大きな声で……。
「あーリオちゃんに――」
「死ね」
その言葉を最後まで聞かないでリオが叫ぶ。
リオの乗っているドラゴンがリオの命令で口を開く、瞬く間に炎を出すとミーナへと攻撃しはじめた。




