111 星振って地固まる
場所はグラン王国の西門前。
心配そうなノエの顔と、まったく心配してない表情ほガルドが見送りに来てくれている。
一方こっちは、真面目な顔で腰に剣をつけたリュートと、笑顔の錬金術師のミーナ。それと私。
時刻は昼を少し回った所だ。
「ええっと、じゃぁ数日空けるから家の事とギルドの事は任せるわね」
「はい、任せてください」
「おい、エルン様。そいつと交代して俺がいこうか?」
「あらやだ、そんな表情して心配してくれた!?」
「腐っても雇い主だからな。そんな半端な剣使いが護衛で死なれては困る。それにいくら依頼といっても、こう未婚の貴族の女性が外泊するのはな……」
うおーい。
なんでガルドは喧嘩うるかなー。
「それは、俺の侮辱として取っていいのか? 悪いがエルンの召使いとして彼方の事を調べさせてもらった。
俺は彼方より剣の腕が弱いかもしれないが、主人にたいして剣を向ける事はない
それに、俺自身がいうのも悲しいが、エルンとは友人だ。
やましい事など何も起きるはずが無い」
うおおーい。
なんで、こっちも喧嘩を買うのよー。あと、リュート小さい声で、可能性としてこの冒険で起きてくれたなって言ったわよね? いや、起きないわよ?
その最悪の場合は仕方が無いけど、こっちもナナからもらったボムもあるし、ミーナだって居るんだから。
じゃなくて、喧嘩を止めないと、ええっと…………。
「好きにやらせればいいんじゃーん」
心を見透かしたように言うのはミーナで、私は思わず声のほうへ振り向いた。
さっきまで、リュートのお金でカフェで豪遊していた女性とは思えない顔つきだ。
「いやでも、怪我したら困るじゃないの」
「大丈夫だよエルン。奥義は使わない」
「奥義でもなんでも、当たらなければ問題は無いな。
あの試合を見ていたが、威力は凄くても命中率は無い。
エルン様。悪いが護衛を別に雇ったほうがいい、コイツが怪我で動けなくなる前に」
二人とも剣を抜く。
いや、町中で抜いたらだめでしょ! しかもここ門の近くで衛兵もいるのよ。
周りをみると、野次馬が遠巻きにみているし。
ほら衛兵だって駆けつけて…………来ないわね。
衛兵を探して辺りを見ると、私と目があった衛兵は即座に後ろを向いた。
ちっ、ああもう。
面倒な事には首を突っ込まないって奴?
そうよね、貴族の息子で天才剣士。
もう一人は、令嬢が雇った腕の立つ護衛だ。
関わったら面倒だもんね。
見なかった事にするのが一番かーって、いやいや。
「男の子は喧嘩した後仲良くなるもんって本で読んだ」
「読んだ! じゃないでしょうに。止めれるなら止めてよっ」
「止めれるけど……止めたらエルンちゃん怒るよね」
「お、こ、り、ま、せ、ん!」
「じゃぁ止めるよ?」
ミーナは、二人の間に何かを投げた。
二人とも当然その何かを見て距離をとる。
「そこの男子ー、それ以上喧嘩するとエルンちゃんが怒るからって。
あ、死にたくなかったら逃げてね」
「「「え」」」
私達の声が重なった。
ゴゴゴゴゴゴっと空が鳴る。
まるで雷のような音で、雷ならよかった。
私のすぐ隣に衝撃が起こった。
首だけ動かすと小さい穴が開いている。
「な、なに!」
「ミニ星の雫。効果は小範囲に小型の隕石をふらすの、よけるのに必死で喧嘩なんてとまるよー?」
「とまるよー。じゃないっ! ちょうわ。ガルド、ノエを。
リュート回りの避難をっ、うわ。
こっちにまた飛んできた」
私に当たりそうなのは、なんとミーナが弾きとばした。
「やるじゃない」
「まだまだくるよー」
◇◇◇
疲れ切った顔のガルドが、疲れ切ったリュートにがんばれよと声をかけた。
「そっちも頼んだ」
「ああ」
私は半壊した西門広場を見る。
偶然空から隕石が落ちてきて半壊した広場は、いまは大勢の人間がいる。
その偶然起きた災害の片付けという奴だ。
二人の喧嘩は止まったし、こんな危険な奴がいるなら俺は要らないなとガルドは引きつった顔で辞退した。
リュートも、エルンと一緒に旅をするのは後日のほうがとか小さい声で言っていた。
思わず、帰る? と聞いてしまったら、慌てて付いていくと断言した。
「じゃぁこれ以上ここにいると、犯人扱いされても困るからいくわ」
「そうしてくれ、こっちは旨く誤魔化す」
「むー、アタシ悪い事してないんだけどなー……」
「そうね。だから驚いた顔はしていても、ミーナを怒ってないでしょ?」
「おおおお、そういえば! エルンちゃんやさしー」
「ハイハイ」
適当に返事して門を抜けた。
もちろんバスやタクシーなどあるわけじゃないので歩きだ。
人ごみを別けて街道へでる。
先頭はミーナで、その横に私。
斜め後ろをリュートが付いてくる。
テクテクテクと。
いくつかの橋を越え、休憩をして、また歩く。
何時間も歩くと流石の私も疲れてきた。
「で、暫く歩いたけど。その場所ってどこ? この辺は精霊の森ぐらいしか採取する場所なかったような」
大きな川が見えてきて、橋を越えると森になる。
いやー懐かしいわね。
あのデブネコ元気かしら。
「はいこれ。入場許可書」
私とリュートに黒い指輪を手渡した。
「指輪?」
「そう、離したらだめだよ? で入り口がここ」
「どこ!?」
思わず口に出した。
だって、ミーナが指差すのは川なんだもの。
そこそこの流れがあり、川底もみえる。
「ほら、底のほうに見えるでしょ? よーくみて?」
「よーく見てって言われても私泳げないし冗談よね?」
しゃがんで確認する。
やっぱり入り口らしき門は何一つ見つからない。
しゃがみ体制から後ろを振り向いた瞬間、私はミーナに川へと突き落とされた。
落ちる寸前にリュートが私の腕を掴む。
「エルン!」
「引っ張ってっ!」
「すぐにっ」
私の目に映ったのは、私を助けてくれるリュートよりも、ミーナのほうへ目が向いた。
リュートの背後で、ミーナがリュートをひざかっくん。
「もう、抵抗しても意味無いよー?」
「なにを、うわバランスがっ」
体勢が崩れたリュートは私の体を守るように抱くと一緒に川へ……。
リュートを突き落としたミーナは、とても笑顔になっていた。




