105 二日酔いの朝
しょうがないから、教員室までは付いてく。
時間の指定はしていなかったが、夕方まで来ないから様子を見に来たと、ありがたいお言葉を貰った。
「用だったら、さっさと言えばいいのに」
「一応部外者もいるからな、それと君のためを思って人払いをした。感謝して欲しいぐらいだ」
教員室の扉を開けて、私に座れと椅子をだしてくる。
もちろん座ると、ディーオも座りだした。
そして、引き出しを開け書類が重なる机の上にひび割れた遠見の水晶と、無地の転写のカードを置いた。
「あーそういえば、盗撮問題もあったわね。でも、犯人もやっぱりアイツだったんでしょ」
「いくつかの証拠品を押さえた、この割れた水晶に見覚えはないか?」
「無いわね」
そうか。と、言うとディーオがカチカチと遠見の水晶を操作する。
そこには着替え中の女子生徒が映りだした。
いやいやいや、欲求不満だからって何みせるのよ! こっちは一応女性なんですけどー。
「やだ、何見せるのよ!」
「操作してるだけだ! 問題はここだ」
怒りながら水晶を見ろといわれて、私も仕方が無く見る。
早送りで動いていき、最後に私の綺麗な顔が出て映像は止まった。
……。
これって、あの時の遠見の水晶だったのね。
割れているから解からなかったしー。
「なぜか、君が見覚えないの無いのに映っているな。発見場所はライデイの専用ロッカーだ。女性職員に確認してもらったが第二更衣室だろう。何がいう事は?」
「ええっと……あら、やだ枝毛あったわね手入れしなきゃ」
「はぁ…………もういい。
とにかく、証拠品を見つけたのなら直ぐに知らせるべきだろう。
女性職員から、これってディーオ先生の所にいる生徒ですよねって言われたボクの気持ちも考えてくれ…………」
「悪かったわよ、そのカフスボタンが量産されている奴と思って犯人を捜そうと思ったのよ」
本当は弁償したくなかったとか言えない。
「なるほど、君の事だ。遠見の水晶が壊れて弁償したくないからと言うのかと思った」
鋭い!
「やーねー、そんな事思うわけ無いじゃない。
あっそうだ。打ち上げあるけど一緒にいかない? どうせもう仕事ないんでしょ?」
「別に無いわけじゃない」
「じゃ、終わったら熊の手で、別にそんな顔しなくても大丈夫よディーオなら皆知ってるし、手伝ったのも知ってるから」
ディーオは、思いっきり息を吐くと私を見る。
そういう長ーい、溜め息は辞めたほうがいいわよね……。
「そうだな。結局盗撮に関しては、それより上の行為が問題となりあやふやで終わった。
ボクの用件はそれだけだ」
猫を追っ払うかのようにシッシと手で合図してくる。
「はいはい、帰りますわよーっと。じゃぁ熊の手で」
「おい、ボクは行くと――――」
そのまま最後まで聞かずに扉を閉める。
年取ると怒りっぽくなってやーねー……でもまぁ、原因は私にも少しはあるんだし、酌の一回、二回ぐらいはサービスしてあげますかね。
◇◇◇
「と、言うわけで子汚い場所だけど、お疲れ様ー」
私が乾杯の音頭を取ると、カウンターで料理をしているブルックスが、余計なお世話だ! と唾を飛ばしてくる。汚いなーもう、事実しかいってませんしー。
場所は既に、酒場熊の手。
メンバーは、私、ナナ、リュート、カイン、マキカ、ガルドにノエ。なぜか懲罰から逃れたジャンベルに、開始直前に滑り込んだディーオ。
料理を作るのはブルックスに、その若奥さんであるソフィーネさん。
商人のミーティアも誘っては居たけど昨夜から仕事で無理だった。
たまには休めば良いのに。
「って、事でじゃんじゃん飲んで、じゃんじゃん食べてね。支払いは私が持つわ」
「エルン君の奢りと言うと、一口も食べれそうな気がしないな」
「ディーオ先生どういう意味よ!」
「…………怒る時だけ先生をつけるな。何、冗談だ。
周りの生徒から文句が出るほど稼いだらしいな……ここは素直に奢られよう」
ぜんっぜん、素直じゃないんですけどー!
ディーオだけ別会計に、いや、流石に誘った手前も悪いわね……まったくもう、素直に飲みなさいよ。
そこそこの時間が立つと、それぞれいい雰囲気になる。
ちらっと見るとリュートの腕にマギカがしがみ付いて離れない光景や、酒場の若女将であるソフィーネさんにムチを振るって貰うジャンベルなどが見える。
ナナのほうを見ると、ノエと共にカインとガルドの腕相撲を見守っていたりだ。
私は一人離れてカウンターで飲んでいる男の横へと座った。
「暗いわよ? 楽しんる?」
「暗くは無い、元からだ」
「ならいいけど、私にも一杯」
出てきたアルコールを飲むと一気に流し込む。
「……酔わないのか?」
「んー酔うわよ。でも、この半年で記憶無くなった事ないわね」
「アマンダが酒飲み友達として付き合いたいというわけだ」
私の前に小料理が運ばれた。
「よう、頼まれた物が届いたぞ」
隣に居たディーオが眉を潜めて鼻を押さえる。
「ナットウか……」
「す、すごい! 知ってるとか」
「一応国外にも行った事があるのでな」
そう、納豆だ。
ガーランドから戻ってきた私は東方の料理を食べたくて、何か無いかと頼んでいたのだ。
そこで、保存が効く物として選ばれたのがコレである。
なお、私意外全員嫌な顔をしている。
木製のスプーンでかき混ぜて食べると、納豆の匂いが鼻を通り抜ける。
美味しい……、ただ醤油が無いのが辛い。
粘りが嫌いな人だったら天ぷらとかでも美味しい。
そうよ、天ぷらにすればいいんだわ。
「お酒の追加と、これ揚げて欲しいんだけど」
……。
…………。
気づいたら白い天井が見える。
「軽く頭痛いわね……ええっと何で寝てるのかしら」
天井を見ても自宅じゃない。
ベッドから出ようとしたら、裸なのに驚いた。
「げ、何で裸……こういうのって、隣に裸の男が寝ていたりするのよね」
私はベッドの端をおそるおそる見る。
良かった誰もいない。
ベッドの周りに衣服が脱ぎ散らかせあった。
暑くて脱いだんだろう。自分の事ながら溜め息つくわね。
衣服を選択していた所にノックもなしに扉が開いた。
「…………起きたか、ノエ君とガルド君が迎えに来た。服を着たら帰ってくれ」
言うだけ言うと扉が閉まる。
ちょ、ここってディーオの家!? ってか、こっちは裸なんですけどー!




