102 「なるほどそういう事ね完全――」「あのー……?」
ディーオではない別な審判の旗がライデイのほうへ上がった。
そりゃそうよね、全試合一人で審判するわけじゃないし、一試合に審判が四人もいる。
ライデイは剣を振るうと、さっきみたリュートと同じように、いいえ、それ以上に大きな雷を出して相手を打ち倒したのだ。
直ぐに救護班が飛んで来て、黒くなった生徒にエリクサーを飲ませる。
あら不思議、あんな…………って通販番組かっ!
「エルンおじょうさま、エレファントさまから皆様もどうぞと」
はむ。
「ほえ、ありはほう」
口に突っ込まれたホットドックをもぐもぐと食べる。
あんななりして結構やるのね。
あ、カインの試合だわ。
「もひんー」
叫ぶと、ちらっとこっちを見て顔を背けた。
あれか、他人の振りしたいって奴? そりゃ衣装がちょっと際どいチアコスだからって他人の振りはないわよね。
カインと相手が礼をして、剣をクロスさせる。
二人が一歩下がった所で私は悪戯をする。
「カインー他人の振りしないで、こう応援するのだから頑張りなさいよー!」
大声で名指しをした、これなら振り向くだろう。
両手を腰にあて足を上げてポーズを決める。
ってか、実際やるとちょっと恥ずかしいわねって。
「あっ」
「え、エルンさん!」
「エルンおじょうさま!」
「息子の時もそう応援してあげて欲しいですわ……」
顔を真っ赤にしたナナとノエにスカートを押さえられた。
一応アンスコもはいてるし……そこまで過剰にしなくても大丈夫よ。
って、問題はそこじゃなくて、カインは私を見たまま固まっていた。
当然その間に騎士科の生徒に練習用の剣で横腹を殴られて負けた。
これって……私のせいなのかしら?
◇◇◇
昼休憩に入った。
他の試合も見ていたけど、あんな剣技を使うのはリュートと子ぶ……ライデイだけであった。
二人とも順調に勝ち残り午後のベスト八まで残った。
「本命は剣技使いの二人かしら。他はぱっとしないし」
「…………自分も……使える…………」
横にいたカインが落ち込んだトーンで喋りだす。
「そうなの? 使えばよかったのに」
早々に負けたカインは私達の応援席へと来たのだ。
「それは……」
「あーもう、悪かったわよ。ナナに聞いたけど、ああいうのって集中力いるんでしょ? 私が邪魔しちゃったみたいでごめんなさいねー。でも、無視するのがいけないのよ?」
「あれは……その」
顔を両手で隠して落ち込むだなんて、悪い事したわね。
心配事を聞いてみる。
「別に王位とかに問題ないわよね?」
好成績でなければ王位剥奪とかだったら、連帯責任になるかもしれない。
そうなったら、カインを雇わなくてはいけない……でも、男手余ってるのよね。
門番なんて、やらせるわけにいかないだろうし。
ガルドだって、あそこまでの地位の人を門番にさせるわけ行かないし、これでも私も考えているのよ。
「――――さ――。エルンさん――戻ってきてくださいー」
「はっ!」
気づけば、ナナに腕を引っ張られていた。
ってかナナも、私の扱いが上手くなったものだ。
「じゃなくて、何があったの?」
「もう直ぐ試合が始まりますので」
「ありがとう」
午後の試合が始まった。
負担も考えて一試合事に休憩をいれるだそうな。
最初の試合は一般市民から勝ち上がった青年と、騎士科の生徒。
二人はコートの真ん中で剣と剣を合わせる。
一瞬の勝負ではなく、中々の白熱戦になり会場も熱気に包まれてきた。
「あれって面倒な作法よね。ガーランドでも同じ作法あるの?」
振り返り、エレファントさんの両肩を無表情で揉んでいるガルドに聞いてみる。
あれだけ色気ある女性の肩を揉むチャンスなのに、表情を変えないとか、どうなってるのかしらね。
「こっちの顔を見て変な事考えないか? エルン様。ガーランドには無い、実践であんな無駄な作法をしていたら命を落とす」
「…………無駄ではない。あの作法は――」
一回戦敗北したカインがガルドの説明に文句を言い出した。
なんでも、勝っても負けてもお互いを認め合うという礼儀作法らしく、その作法はフロム家の家紋にすらなったとか。
「あー通りで剣をクロスしたカフスボタンが流行るわけね」
私が納得すると、周りの空気が微妙になった。
「「何の話だ?」」
男性二人に言われて、ちょっと考えたすえに口を開く。
「いやだって、剣をクロスさせたカフスボタンって流行ってないの?」
「流行るも……流行らないも、家紋は認められた人間以外が勝手に使って良い物じゃない……俺のだって……兄と自分だけだ……」
そういうと、カインはグラン王国の紋章が入ったボタンを見せてくれた。
だって盗撮犯は、剣をクロスさせたカフスをしていて、あのライデイ子豚も……。
んんんんん?
ええっと、おちつけ私。
遠見の水晶の最後にみた映像は、剣をクロスしたカフスボタンが付いていた。
で、昨日あった時のライデイの袖にも同じのが付いていた。
え、という事はあれが犯人?
私は会場をみてライデイを探す。
椅子にふんぞり返って、周りの生徒と何か話しているのが見えた。
周りの生徒が四角い封筒みたいのを胸ポケットにいれているのも見えた…………ようなきがする。
いやだって、遠いから。
変わりに小石みたいのを……ああ、もう周りに居る壁みたいに大きくて腰にムチを着けている大男が邪魔でっ見えないっ。
もう少し近くで見たいわね。
あの通行口の横なら隠れて見えるかしら……よし。
「ちょっと行ってくるわ!」
「え、どこにです」
「…………け、化粧室よ!」
「エルンさん声がその大きいです……」
年頃の少女であるナナは、大きな声で言う私の言葉に赤面する。
かーこれだから、ナナは可愛いわね。
じゃなくて、早く行かないと試合が始まる。
他の応援団や、観客の隙間をごめんなさいねと通り抜ける。
廊下に出ると、試合中という事もあり人もまばらだ。
そのまま階段をコの字型の階段を駆け下りて――――。
ドンッ!
「いてえええええ」
体の大きい男子生徒とぶつかった。
私は手すりを掴んでいたけど、男子生徒は階段の下で尻餅をついている。
と、いうかさっきみたムチを着けている大男だ。
雑魚にはようはない。
「ご、ごめんー! ぶつかったかも」
「かもじゃねえ。ぶつかったんだよ! この女……お、お前一年のエルン・カミュラーヌかっ!」
「それが何よ」
「悪女で有名……いや、俺のほうこそ悪かったな。さっきまで客席に居たよな? なんだ一階まで来て……あっそうか試合を特等席で見たいんだな? いい場所を知っているんだ」
男は勝手に喋りだすと、私の肩になれなれしく手を回してくる。
跳ね除けようと思ったけど、ライデイの近くまでいけるなら良いかもしれない。
◇◇◇
102.5話 ナナの悪寒
エルンさんが、お手洗いに言ったまま戻ってきません。
ノエさんはエレファントさんが食べるホットドックを焼き、カインさんはエレファントさんに捕まっています。
ちらりと、ガルドさんを見ると、ガルドさんと目が合いました。
小さく頷くと、燃料の中和剤を取りに行くと。
「ナナさんだったな。俺は錬金術師ではないから、粗悪品や間違えた中和剤を持って来たら困る。一緒に手伝ってくれないか?」
「ガルド……君はさっきから中和剤のしなさだめを完璧に――――」
「はい、任せてください!」
カインさんが空気読まずに、何か言おうとしたのをねじ伏せます。ごめんなさいごめんなさい。
そんな子犬みたいな顔をして落ち込まないで下さい、心の中で謝ります。
二人で廊下に出ると、近くのお手洗いを確認しました。
やっぱりというか、当然居ません。
ガルドさんに伝えると、小さく舌打ちをし中庭のほうを見てくると走り出しました。
私は…………どこを探せば。
「嫌な予感がするんです。そ、そうだディーオ先生なら……」
「おや、ナナ君がボクの名前を言うとは珍しい。問題児は一緒じゃないみたいだなって、顔が青い、気分が悪いなら――」
「ディーオ先生っ!」
振り向くと居ました、幸運な事です。
先生は試合中ですけど、緊急事態ですよね。
エルンさんが姿が見えない事を私は先生に…………。




