100 伝説の大樹
突然出てきた子豚青年をの袖を見る。
剣がクロスされたカフスボタンをつけている、なるほど流行ってるのね。
と、なると、ますます犯人探しは難しいわね。
さて、子豚青年の全体を確認。
コタロウは太っていて、汗もひどいしブヒブヒ言うし、シモネタもいうけど、憎めない奴だったけど。
なんていうか、反対に醜悪な顔だ。
顔はこっちのほうが整ってるような気もするけど、普通の女の子なら避けて通る顔ね。
いかにも、貴族の息子だから何でも好き勝手やってましたよーって言う典型てきなやつ。
「ふう、エルン・カミュラーヌ錬金術師見習いだな」
む、名乗っても居ないのに名前を呼ばれた。
「あら、良くご存知でええっと……」
「名前を知らないのか!」
初めて会った人間の名前を知っていたらそれはもう、神か超能力者か転生人である。
ってか、名乗れ。
私の前世の記憶にも、こんなキャラはゲームで出た記憶が無い。
「エルン、この人は生徒会補佐のライデイ・フロム。僕達よりも先輩だ」
「ふん。成り上がりな癖に、名も知らぬとは、やはりカミュラーヌ家は親もそうだが子も教養がない」
「ああん?」
成り上がり呼ばわりって事は喧嘩売られているのよね。
思わず出た声と睨みつけると、ライデイはふんぞりかえって来た。
「そ、そんな睨みつけても、怖く無い!
聞いて驚け! かのフロム家の未来の当主様である」
「驚くも何も、そのフロム家ってのが知らないんだけど……」
私が呟くと、リュートがそっと耳打ちをしてくれる。
「エルン……ライデイ先輩の祖父はガール補佐官だ。君も少なからず知ってると思うんだ」
「あああああ! あのまったく役に立ちそうにない人の孫なの!?」
「え、エルン声が大きいし、言い過ぎだ」
「おっと、ごめん。思わず心の声が」
リュートに注意され周りを見ると、騒ぎを見守っていた女生徒が小さく頷いているのがわかる。
言い過ぎなのかしら。貴族にとって名は命って教わったような。それを侮辱したんだしー
私の言葉に反応したライデイが、げきおこになってくる。
「祖父を侮辱して……」
「いやいやいや、そもそも先に侮辱して来たのはそっちだし、ってか、ええっとライデイ…………さんだっけ? 結局何しに来たのよ。
こっちはリュートとマギカと学園祭を楽しんでいるだけよ」
リュートの腰に付きまとっているマギカも、そうよ! そうよ! と声を大きく反論する。
怒っていたライデイが急に咳払いをして始めた。
「い、いやその。この時間はこの女子更衣室は……女子更衣室前は誰も来ないはず。
で、そのなんだ。
…………とにかく人が来ない場所なのに、人がいるから来たんだ!」
「あー……それは見回りご苦労様。騒ぎになったのは謝るわ」
そりゃ、こんだけ女生徒が居てキャーキャー言っていたら不審よね。
見かけで判断するのは私の悪い癖ね、アレだって警備の為に来たのだろうし、ここは素直に頭を下げるわ。
「エルン、謝るのは俺の役目だ。ライデイ生徒会補佐。
騒ぎは俺の責任である。謝罪を受け取って欲しい」
「ふ、ふん。最初から素直に謝れば、か、感謝するんだな! そ、その早く解散するように!」
何か言うだけ言うと帰っていった。
一言多い奴だ、ああいう奴はモテナイ典型よね。、
ゴーン。
と、学園の鐘がなった。
「あ、もうそんな時間たったのね。鐘が鳴ったので帰るわよ」
「な、なん」
「あれ、言ってなかったっけ? 四時からナナ達と交代よ」
私一人が遊ぶわけにも行かない。
ちゃんと交代で休みは取るのだ。
「最後に、最後に珍しい大樹があるんだ。そこにいかないか?」
「珍しい大樹?」
それまで、リュートさまーって騒いでいた女生徒が一歩引いて、なぜか驚きの声を上げた。
中には、悔しいですわ!
やっぱり顔よりお金なのね。
良く見ると、かっこいい顔してますわよね。
名門には勝てませんでした。
リュート様が未練ある噂って本当だった……。
やっぱ女性は胸よね!
美乳が好きな男性だっています!
などが聞こえて来る。
周りの雑音は置いておいて、大樹ってあの大樹の事よね。
ナナのアトリエ学園祭イベで、パーティーキャラの親密度が高いと起こる告白イベ。
伝説の木の下で告白すると、将来結ばれるという定番のイベントだ。
なお、CGがあるだけで別にEDには影響しない。
なんだったら三年連続違う人に誘われたりもする。
「まー化粧室ばっかりでリュートも暇してただろうし。
お詫びとして、そうね、友達としていいなら見学に付き合うわよ?」
「うっ…………それでもいい」
「リュートお兄さま、大樹って伝せもごもごもごも」
「マギカちょっと黙っていてくれ、後で沢山付き合うから二人にしてくれないかな?
周りの人も付いて来て欲しくない」
リュートがはっきりと言うと、私の手首を突然に掴む。
あー懐かしいわね、昔はリュートの手を無理やり掴んで回ったものだわ。
ってか、転ぶ。転ぶから!
◇◇◇
「で、何も無かったんですか!?」
そう興奮するのは、エプロンを外したナナである。
現在私は模擬店へと戻って来て、先ほどの事を少しだけ話している。
「無いわよ、伝説の大樹だっけ。そこで告白すると結ばれるって話は知っていたけど……二時間まちよ。行列過ぎるわよ」
そう、リュートに引っ張られて大樹の近くまでいくと、長蛇の列だった。
最後尾には看板を持った学生が『最後尾』と書かれた看板を持ち、大よその時間を聞いたら二時間弱待ちと教えてくれた。
学生だけではなく、見学に来た一般の人も多く、年齢層が様々なカップルが並んでいた。
毎年妻に告白するんですよと、聞いても居ないのに自慢してくる男性に教えて貰った。
奥さんは、照れたのか顔が赤く応じてくれる。
対照的に青ざめるリュートへ、交代の時間だから帰るわよって言って置いて来た。
運の無い男だ。
時間が出来てたら明日の応援してあげるわよと、慰めたけど大丈夫かしらね。
「変わった事はー?」
「あ、はい。カインさんがエルンさんを探しに……」
「あー……居たわね」
ちょっと酷いです。と、ナナが呆れ続きを話してくれる。
「ええっと、リュートさんの事は伏せて置きましたけど、学園祭を回りたかったようです」
「ありがと、じゃっナナも休憩にーいってきてー」
「はい! お土産沢山買ってきます」
私はナナを見送り、エプロンを付け直す。
「さて。今日は残り六百本ちょっとね、頑張って売りますかっ」




