聖女候補と王妃
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世界樹の塔に入ると、フローラ王妃殿下がいらしていた。
「あら、フォリア様。お元気そうですね」
白を基調にしたエンパイアラインのドレスを着たストロベリーブロンドと蜂蜜色の瞳の王妃は、あまりに神々しく美しい。
国民のだれもが、彼女の事を敬い、慕っている。
しかし、彼女の二つ名は武闘派聖女とか、最前線を走る聖女とか物騒なものが多い。
今日もなぜか、トレーニングルームと母が言っている部屋で己と向き合っていたらしい。七色の瞳をして「まだ、高みは遠い……」とつぶやいていたのを聞いてしまった。
「フォリア様は、また一段と強くなったみたいですね?」
「そうですか?でも、私は魔法は使えても近接戦はいまいちですよ」
「そうですね。魔法はマルク魔術師団長に教えて頂いているんでしたか?」
そう、私の魔法は光となぜか闇を併せ持っている。闇魔法がどこから来たのか分からないけれど、母には思い当たることがあるようだ。
その結果、回復魔法と攻撃魔法の両方が使えるけれど、残念ながら自分に光魔法を使うことができない。闇魔法のせいか、はじき返されてしまうのだ。
攻撃魔法と回復魔法両方が使える代わりに、回復魔法の恩恵が受けられない。
前線に赴けない聖女候補と揶揄されているのは知っている。
ならせめて、圧倒的な攻撃力を身に着けるしかない。
本気になると瞳が光を失うマルク魔術師団長の訓練は、過酷だけれど負けたくなかった。
まあ、私は聖女にこだわりがあるわけではないのだけれど。
「そういえば、ギルバート王太子殿下は」
「ギルは元気よ?元気すぎるくらいだわ。誰に似たのかしら」
――――フローラ王妃を疲れ切った顔で諫めつつ、それでも時々愛しくて仕方ないという顔で見つめるライアス陛下の顔が浮かんだ。
つまり、ギルバート様が元気すぎるという一点で言えば、あなた様に似ているとしか言いようがないのだ。
少し会話をして「またうちに遊びにいらっしゃい」といって去っていったフローラ王妃。
王妃の自宅って王城ですよね?遊びにいらっしゃいで、気軽に行ける場所でもないです。
良かったら、今度正式なお茶会の招待状を送っていただけると幸いです。
フローラ王妃の性格のせいか、最近の王城は雰囲気が変わったと良く聞く。それでも、やっぱり好んで出かけたい場所ではないのは事実だ。特に私は、公爵家令嬢であり聖女候補。
出かけるにしても、面倒な手続きをいくつか踏む必要があるのだから。
そんなことを思いながら、階段を駆け上がる。
最上階には今日も大好きなあの人に会うための扉があった。
そっと扉を開ける。古い本のにおい……。いつの間にか、この香りも好きになってしまった。
「フォリア、勉強や聖女の修行終わったの?」
そう言って振り返るのは、この場で唯一美しい色のアイスブルーの瞳。
「ミルフェルト様に会いたくて、速攻で終わらせてきました」
「――――はあ。キミという人は相変わらずだよね。でも、キミが自分に課している課題の量は少しおかしいことを自覚した方が良いよ」
でも、お父様にお母様をどうやって手中に収めたか聞いてみたら「努力の一点だ」と笑っていた。宰相でありながら騎士団最強の名をほしいままにしている父が、本当に誰より努力家なのを私は知っている。
「残念ながら、私は母や父みたいに剣をもって戦うことができませんから」
「闇魔法を使いこなせばかつての勇者のように戦えるよ。でも、キミは傷つけば癒すことができないんだからボクはお勧めしないね」
「心配して下さるんですか。うれしいです」
「フォリアはボクのペースを崩してくるよね」
ミルフェルト様は何でも知っている。最近では私の周りの人たちは、私の事を父と母の威光だけで聖女候補になったとは言わなくなった。
「でも、その闇魔法。キミが制御できる範囲で良かったと思うよ」
「……え?」
ミルフェルト様は、そうつぶやくと少しだけ口の端をゆがめた。
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