エピローグ 春の訪れを君に告げる
光と闇の渦が過ぎ去って、目を開けるとそこには世界樹と竜の形をした魔力だけが残されていた。その魔力も先ほどの半分くらいになっている。
ミルフェルト様とディオ様の姿はそこにはなかった。
そのことを、深く考える隙を与えないとでもいうように、黒い竜が一点を目指していく。
その先にいるのは、ライアス様だった。
「やはり、元の持ち主へと戻ろうとするか」
「ライアス様は、私が守ります!」
フローラがライアス様の目の前に飛び込むのをスローモーションのように私は見ていた。ここからだと、距離が少し離れているから見ていることしかできそうもない。
「この馬鹿フローラ!!お前のことを守りたいから強くなったんだ。いい加減気づいてくれ!」
そう叫んだライアス様を、信じられないような顔をしたフローラが見つめる。
その隙に主導権を取り戻したライアス様の黄金の光を纏った剣が、黒い竜に襲いかかる。
そして、我に返ったフローラの七色の魔力がその金色の軌跡を追いかける。
その直後、強い衝撃とともに、黒い竜は姿を消す。それでも、完全には消えることがない。霧のようになった闇の色をした魔力が、再び中心に集まろうと蠢きはじめる。
「――――させない」
トア様が、その身に纏った闇色の魔力を放つと、集まりかけていた霧が動きを止めた。
兄に手を引かれて、私はその霧へと近づいていく。
「お兄様、どうなるかわからないので手を離してもらえませんか」
「……俺でもあの大きさなら抑えられそうだけど?」
「いや、お兄様なら出来るかもしれないのが怖いですけど。それ、絶対無事に済まないやつなので。……聖女に任せてもらえませんか?」
「分かった……でも、最後までこの手を離さないことだけは赦して」
兄はいつも私のそばにいる。本当はこの手を離すのが正しいのかもしれない。それでも、この手が繋がれている限り、私は持っている力をすべて出せる自信があるから。
「お兄様、それでは最後にいいですか」
「最後なんて言うなよ。で、なんだ?」
「兄としてではなくお慕いしています」
「え……?!今なんて言った?」
こういうことはさらりと言ってしまうに限る。
ずるい私は、もう一度言ったりしないし、兄の返答を聞いたりもしない。
それでも、あと一つ、願い事だけは言っておこう。
「ずっと私のそばにいてください」
「……約束する。永遠に傍に」
「重いです……フリード様!」
その瞬間、私の七色の魔力と闇の魔力が混ざって一つになる。それは、闇の中に現れた太陽のように輝いて、聖域全体を包み込んでいく。私の魔力が完全に枯れてしまう瞬間に、唇に温かく柔らかいものが触れる。
意識がなくなりそうになるのを叱責して、もう一度目を開く。
「もう、いつ死んでもいい」
私から顔を離しながら、そんな不吉すぎることを言う兄。
その身に纏う風の魔力に、残された闇の魔力が取り込まれていく。
兄の周りを、嵐が来る前の雲と風のような魔力が吹き荒れる。
たぶん、ここにいるメンバーは通常の『春君』の世界なら最高火力だ。
その中でも、きっと兄はレベルもバランスもすべての能力が秀でていて……。
「……大丈夫だリアナ。俺の人生全てをかけてお前を守ってやるから。俺より先に死なせたりしない」
「お兄様!!」
「それに……こんな場面で死んだりしない。約束の春をリアナと見たいから」
兄の纏う魔力は、すっかり色を変えてしまった。闇のような色をした魔力。
それでも、私の大好きな人は少しも変わりなく私に微笑みかけた。
零れた涙をそのままに、愛しい人に抱き着いて見上げた世界樹は、元の輝きを取り戻して青い空に枝を広げていた。
最後までご覧いただきありがとうございました。本編完結です。
『☆☆☆☆☆』から評価いただけるとうれしいです。
不定期になりますが、黒リアナとディオ様、フローラとライアス様、ミルフェルト様のその後などSS更新予定です。




