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第五話 優真武勇伝

「剣も手に入ったことだし、訓練でもするか」


まぁ、いつか言われると思ったさ。


何とか優遇してもらった僕の家。住み心地抜群です。

ゲーム機あればもっと良いんだけど…そこは仕方がない。


何か、初めてこの世界において勇者の優遇が起こった気がする。

というもの何の偶然か、この世界において我が家に住んでいた住民が二日程前に他界したらしい。


うん、雪ちゃん。君、此処に住んでたね?君のお家は隣だよ。


ゲーム機の置いていない我が家は実に殺風景だ。

取りあえず僕の指定地に、僕に巻き込まれて召喚されたソファーを置いてみる。台所とか風呂とかは元からあるので一安心だ。


「別にそれは良いよ。だけど、どうしても解せない」

「何が?」


カインが不思議そうに僕を見る。僕は溜息を吐いて、カインを二階の部屋に連れて行った。奥の部屋の前に立ち、無言でドアを開ける。


「三嘉ヶ崎では、此処が僕の部屋なんだけど…」

「おかしな所は何もないぞ。ちと、殺風景だが…。普通の部屋だ」

「うん、普通の部屋。本来ならこの本棚にはゲームのカセットが並んでるのだけれど、集めようが無かったんだね…。ベッドの位置からカーテンの柄、本棚の角度まで見事に再現されてる。雪ちゃんが家に遊びに来ることはたまにあったけど、僕の部屋に入ったことないのに何で知ってるんだろうね…」

「……それは、恐いな…」


雪ちゃん、恐ろしい子っ……!


まぁ、そんなような会話をしながら傭兵所へと続く坂道を下る最中です。


此処ミケガサキは、唯一魔王の支配から逃れた国らしく、世界各国から我が物にしようと企む輩に狙われるらしい。と言っても、ミケガサキの戦力は支配下にされて逃げてきた丸腰の兵たちが敵う程弱くは無い。よって、市場がある場所とか、皆が住む住宅街とかを狙うらしい。それらの小分けされた土地は『領土』と呼ばれ、場所により人気が異なり、警備の数が増減する。


今回向かうのはランクBの成り立ての兵士達の訓練場という訳だ。ちなみにランクはD~S。城とか王宮とかはもちろんSランク。兵士の数は万越えとか…。おかしいな、そんなにミケガサキの人口って多かったっけ?まぁ、それくらい多いってことだよね。


「傭兵場か…。ゲームでは見れない場所を拝めるなんて、夢みたいだ…!」

「撮影は禁止だぞ。目に焼き付けておけ。あそこの教官は怖いから大人しくしとけよ」

「了解!!」


ゲームによっては、鍛え方とか性格次第でステータスが異なるっていうシステムがあるじゃない?そのシステムが生でしかも本物の鎧とか剣とかまで見られるんだよ?な、何てすばらしいことなんだ。こっちのミケガサキはゲーマーの聖地だ!


「そういや、ゲーム好きなんだろ?どういうジャンルが好みなんだ?」

「アクション一筋だよ。ストーリー要素とかのやつはさ、皆、キャラ目当てとかストーリーを重視するでしょ?僕はそうじゃなくて、装備とかさ、どれだけダメージを与えられるかとか…何て言うんだろ、どれだけ設定が充実しているか、かな…。とにかくそういうやりがいのあるのが好き。バーチャルリアルなんて結構面白いんだけど、陽一郎さんああいうの嫌いみたいで…。禁止になった」


ちょっとしょんぼりしながら言うと、カインは苦笑する。


「お前、戦闘とか向いてそうだな。狂人者とか言われそう」

「うん。陽一郎さんもそう言ってた。目がマジだって。だから駄目だって…」

「…にしても、よく約束守ってるな。それだけ熱意があるのなら買い戻ししそうだが」

「そうしようと思ったけど…陽一郎さんの方が一枚上手だったよ。ゲーム機を含めて全部売られた」

「…本気を出したな」

「僕もそう思う」


あー、早く着かないかな。傭兵所ってどんな場所か見てみたい。

やっぱり抜け出せない様にそれなりの警備がしてあって、柵とかに障ると電撃走ったり…。


「ほら、着いたぞ」

「こ、此処はっ………!!!」


もう、オチが分かって来たよ。久しぶりだね、我が母校。


まぁ、確かにさ…校門とかの柵を跨いで入ると警報は鳴るし、火事とか起きたらスプリンクラーが稼働するよ?そうそう壊れるような建物じゃないし、非常食だってある。


「やけにテンションが低いな?」

「…何となく、坂道下る辺りから予想してたからね…」


カインが門の前に立っていた兵士に何か話し、兵士は敬礼すると快く門を開けてくれた。


これで兵士たちが制服とか着てたらどうしよう…。

シュ-ル過ぎて泣く。


「さて、俺は教官に話してくるから、お前はこいつらにでも案内してもらえ」


カインはぽんっとすぐ横に居る兵士の頭に手を置く。


「案内頼んだぞ」

「は、はいっ!」


またもや敬礼してカインを送り出す兵士達。人気あるんだな、カインって。そういや、次期騎士隊長候補って言ってたな。


「えっと、よろ………ああああああああああっ!!!!」

「ど、どどどどうしましたっ!?」

「右から順に、山田、佐藤、鈴木、伊東、安田ぁー!!」

「大変だっ!勇者様がご乱心ですっ!!」


懐かしい顔ぶれだな。夏休みだから全然会ってないけど、この人達皆、僕のクラスメイトだよ。三年前のね。五年留年してるけど、僕、身長小さいから全然問題ないんだ。ほんの少し童顔だし。


春になると必ずと言っていいほど、新入生が僕に会いに来る。

何でも、実在する学校の怪談の栄えある(?)一人なのだとか…。


一人も何も、僕しか居ねーよ。しかも都市伝説じゃなくて怪談なんだよ。別に悲しくないもんね、ぐすっ。怪談どころか、留年しても退学しない子が増えたんだよ!?僕の存在って偉くない!?

終いには先生たちも語り継ぐようになってさ…。この前話声が聞こえたんで、空き教室覗いた時…。


『残念ですが、この成績じゃ留年です…。来年は頑張るんだぞ?』

「りゅ、留年っ…?先生、俺、退学しようと思うんです…。親ともそういう約束だから」

「はい…。残念ですが、家業を継がせようと思うんです」


おぉ、三者面談か。あれは数学教師の山先生。若くてカッコいいから女子生徒に人気なんだよね。気弱で、たまに胃痛で学校休むけど。


あー退学かぁ…。そうだよね、気不味いもんね…。まぁ、僕はそんな視線に五年も耐えてるけど!!…自業自得だけどさ。


『継ぐも何も、後一歩なんですよ…?来年、しっかり勉強すれば進級できます。お母様も知っての通り、田中優真という五年間卒業できずにいる子だっているんです!…希望を持って下さい』


何処に希望を持てる要素があるんですか、先生。

というか、生徒のプライバシー駄々漏れじゃないですか。


「そうですね、優真君が居ましたね…」

『そうです、お母様。彼のおかげで留年生に対して差別する生徒なんていません!むしろ、留年生を応援する生徒しかいないと言っていいでしょう。安心して下さい』

「分かりました…。そういうことなら、もう一年だけ…」


ぐっ…。

先生、静かにガッツポーズ。


色々と失礼だな、先生。

馬鹿は傷付かないと思ってんのか、思ってるだろ。


三嘉ヶ崎は広い様で狭いんだぞ!またお礼の品が贈呈されるじゃないか!


ある年を境に、僕の自宅のポストや机に丁寧に包まれたお菓子とか、お菓子とか、お菓子とか…。タチが悪いのとしては、丁寧に包装されたプリントの束とか問題集とか。それでもお礼の手紙が添えられていたり、提出期限がしたためられていたり…。


つーか、先生方。悪乗りするなよ。ときめかないよ、こんなの貰ったって。


「それは色々な意味で凄いですねぇ…。尊敬します」


そんな様な事を話すというか愚痴りながら、傭兵所という名の学校を案内してもらっていたのだった。

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