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第四話 吉田雪

あれ、僕。今、キスしてる?


口の中、鉄の味する。

そーいや、僕の友達。初キスはトンカツの味がしたらしい。…どうでも良いけどね。


唾なのか血なのか分からない液体をそのまま飲み込む。

一気に血圧が上がった気がした。


「ほぉ…。娘に手を出すとは、余程死にたいようだな」


いやいや…見てたでしょ、吉田…いえ、魔王様。

あー、もう面倒いから吉田魔王様でいいや。


手を出したの、彼方の娘ですよー。

というか、意外に親馬鹿なんだな、吉田魔王様。


「さぁ、優真様。剣を…」

「………。」


そしてもう一つ。

うーん、さっきからノワールの姿がやけにあやふやなんだよね。


はっ……、実は蜃気楼?

全部夢オチ?

いやいや、これだけ死にかけて夢オチはない。

なんだろ、このもやっと感。


「どうしたの?今、見ている姿が優真様の望む姿なのよ?」


いや、そうなのかもしれないけど。

今、僕の目に映っているのは真っ黒な人型の影。


僕ってこれを望んでいたのかな…。何か悲しいね。

いや、元から地味だけど、影になりたいなんてことは断じてない。空気にはなったけどね。


「『死の夜(ノワール)』、どうやら勇者は気付いた様だぞ。その魔眼もお飾りでは無い様だな」


マジで!?何で分かるんだ、吉田魔王様!うわー、恥ずい…。こんな姿が僕の願望なんて…。他言無用でお願いしますよー。


…というか、『魔眼』がお飾りなんて、すげーファッションセンスだな。こっちでは普通なのか?それとも魔王クオリティーの高さから来るものか…。うん、絶対そうだな。


「あら…残念ね。せっかくご馳走が頂けると思ったのに…。見た目より馬鹿じゃないみたいね」


いえいえ、馬鹿ですよ。喰っても美味しくない。きっと、カビの味がする。まだ人面パンを食べたほうが良いと思う。あのヒーローは自ら進んで喰われに行くぞ。


見た目よりって、そんな一目で分かるほど馬鹿オーラ丸出しですか、僕。


「勇者に一目会えただけでも良しとするか。帰るぞ、『死の夜(ノワール)』」


会えただけでも…って、僕が召喚したんだけど…。

偶然だけど、故意ですよー。


そんなことはお構いなしに魔王達は黒い霧と共に去って行った。


さて、ハゲ筋肉君とその他諸々は無事かな。無事じゃなかったら色々と困る。ハゲに至っては無事だったら僕が困る。


照明が会場を照らす。

あー、久しぶりの光だ。何か安心。


「うーん、これは皆さん無事なのか?やけにぐったりしてるぞ。ハゲは泡吹いてるし。蟹なのかお前。水が無いと生きられないのにわざわざこんなところに腕試しに…。何だかんだ言っても吉田魔王様、ちゃんと助けてくれるから偉いよな」


うんうんと一人納得していると、カインが入り口から猛スピードで向かってくる。


「これって勝ったことになる?」

「この馬鹿が!何処の世界に魔王を召喚する勇者がいる!?とっとと剣頂いて帰るぞ!」


此処に居るじゃないか。魔王を召喚した馬鹿な勇者が。

まぁ、この人達が記憶喪失になることを切に願うよ。…無理だけど。いや、だけどマジで。


チカッ…。

瞳が光る。観客達の足元に魔法陣が浮かんだ。

あー…、やっちまった。発動しちゃったよ、『魔眼』。


「まぁ、今回は大目に見てやろう。さっさと帰るぞ」

「あー…、何か凄く疲れた…。吉田魔王様とその娘召喚しちゃうし……。けど写真撮れて良かった」

「吉田魔王様?その娘って『死の夜(ノワール)』か?」


驚いた様にカインが僕を見てきた。

「そうそう。ノワールって言ってた。キスされちゃった。五分で別れたけど」

「お前、よく死ななかったな。あれ、死喰い人だから相手の望む人を見せて惑わせ、魂を吸うんだ。

本来の姿は人形の影と言ってたが見たことないから何とも言えないな」


わーお。凄いな、僕。

にしても、昔から人じゃないものに好かれるよな、僕って。


「相手の望む姿かぁ…。道理で似てるわけだ。僕の記憶があやふやだったから完全にその姿じゃなかっただけで…」

「おっ、何だ。彼女でも見たか?」

「うーん、彼女っていうか。初恋の人っていうか…。今はさ、行方不明なんだけどね。僕が中学の頃だったかな、突然居なくなった。吉田雪って言って、吉田さんとは全然似てない」


その名前が告げられた途端、カインが固まった。

「吉田、雪…。知り合いだったのか、お前」

「うん。お隣さん。カイン、知ってるの?もしかして、こっちの世界に来てたりする?」



「お前が来る前の『勇者』だ」


つまりは、この二日目に売却された剣の前の持ち主。

二日前に死んだ勇者。それは、雪ちゃんだったんだ…。


****


「おいおい、お前が弱ってちゃ話にならないだろ」


カンッと缶ビールが机に乱暴に置かれる。


三嘉ヶ崎、吉田宅。


「誰も見てないって言うし、先生たちも補習から帰ったのが最後だっで…。

けど、少し安心したのあ…優真君、ソファーごと居ないんだねー」

「大丈夫か、よーちゃん。あー、大分酔ってんな…。ほれ、これ優真から届いたメール。一応は無事みたいだぞ」


本文

今、パラレルワールドに来てまーす。

ほら、証拠写真!結構似てるよね。


「あー…、コスプレしてる吉田さんだー。この隣の子、確かに、雪ちゃんに似てますねぇー」


にこにこと笑いながら写真を見る陽一郎。


「雪ちゃんもそこに居るんでしょうかね…?」

「此処、唯でさえ行方不明者多いからな…。優真の馬鹿が乗り移ったわけじゃないが…、本当に此処では無い世界に呑まれちまったんじゃないかって思う時がある…。早く帰って来るといいな…」

「優真君も雪ちゃんも、しっかりしてますから、大丈夫ですよ…。私達は、頑張って待ちましょう。歯がゆいですが…それしか出来ませんから」


ちょこっとシリアスにしてみました。

次回は多分、ボケる。

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