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第三話 魔王召喚しちゃいました

ファァァァーーーーン!!


 何処からか響くラッパなのかシンバルなのか分からない楽器の音が『闘犬場(コロセウム)』に響いた。

 音が止むと同時に始まる歓声と言う名のデスコール。

 僕の前に立ちはだかるのは、茶色のロングコートに身を包んだ顔にタトゥーの入った筋肉ムキムキハゲ。


正直に言おう。


「勝てる要素無くね?」


何故僕がこんな所にいるかと言うと、時は一時間ほど前に遡る。


「カイン、何処に売ったのさ?」

「売ったのは俺じゃない。だが、噂によると、どうも『闘犬場』の優勝賞品にされたらしい。だが、困ったことに『勇者の形見』は勇者であるお前じゃないと触れるのは無理だ」


いやいや、その設定は初めて聞いたぞ。そんな代物が優勝賞品になるわけねーだろ。こじ付けだろ、そうだろ。何だかんだで出たくないんだろ、お前。


「僕に出ろと?コントローラーしか握った事の無いこの僕に」

「自分の非力を自慢するな。ということで…、召喚の方法を教えまーす」


超棒読み。

カインは道端に落ちていた木の枝を握ると円を描き、その中に五芒星を描いた。


「そして自分の血を流し、『召喚』と言えば自身の魔力に相当するだけの何かが出てくるだろ。ちなみに交渉に交渉を重ねた結果、お前、勇者ってことでいきなり決勝戦出場ってことになったから」


そこまでやれるなら、賞品盗めよ。


「もし、僕の魔力が笑えるくらいショボくて、ボコられて死んだらどうなる?」

「その点なら心配するな。次の勇者を召喚するまでだ。潔く逝ってこい」


勇者の扱い酷いだろ。滅ぼすぞ、この世界。


で、今に至る訳。


「始めっ!!」


あぁ、始まっちゃった…。


「死ねぇ!」

「だが、断る!!」


円を描いて…、あっ、ブレた。まぁ、良いか。五芒星…描いたことないな。唯の星で良いか。あぁ、星ですらないな、これ。最後にカインから貰った小刀で腕をえいっと…。


あわわわ…、思った以上の出血だ。この量ヤバくね?大量出血の部類じゃね?だって、五芒星が見えなくなってるもの!!円一杯に並々と満たされてるもの!!


「おーっと!何と言うことだ!勇者の魔法陣が血塗れだぁー!一体何を召喚する気だ!?」


僕が聞きたいくらいだよ。何を召喚するつもりだ、僕。というか、何か召喚する前に僕が昇天するわ。


「とりあえず、何か『召喚』」


はははっ!来れるものなら来てみろよ。…色々な意味で。完全に自暴自棄だ。


途端、目の前まで来ていたハゲの姿が暗闇に飲まれる。

というか、『闘犬場(コロセウム)』全体が真っ暗だ。


ま、まさか…。照明落しただけ?まぁ、僕に魔力なんてものは存在しないからね。多分。照明消せただけでも良しとしよう。


「大丈夫ですか、勇者様」


鈴の様な声。

頭を上げると、黒髪の美女が立って僕に微笑みかけていた。


「はぁ…、大丈夫、だと思います」

「まぁ…。お顔が真っ白よ。けど、そこまでして下さったからこそ、私を呼びだせたのね。私は『死の夜(ノワール)』。魔王の娘。勇者様に呼ばれるなんて驚いたわ」


透き通るような白い肌。紫色の瞳。上品な漆黒のドレス…ゴスロリだっけ?微笑みかける姿は乙女の様に可憐で麗しい。…って、乙女だから当然か。


にしても、最後。聞きづてならないことを聞いたぞ。


魔王の…娘?


「僕、ピーンチ!」

「あら、大丈夫よ。父さんじゃないから、殺したりしないわ。だって私、貴方のこと好きになってしまったんですもの」


わぉ、いきなりの告白。

生涯初の告白が魔王の娘からとは…。やるな、僕。


そんな僕の心中を知ってか知らずか、ノワールはくすくすと楽しそうに笑った。


「問題はここからよ。貴方は父さんも呼びだしてしまったの。でも、私が何としても貴方を守ってみせるわ」


何と勇ましい…。けど、こういうタイプ割と好みです。はい。


「『死の夜(ノワール)』…。何処だ?」

「「!!!」」


こ、この声は……!!!


暗闇から『魔王』が姿を現す。

髑髏の首飾りにノワールと同じ漆黒の髪を後ろで一つ結びにしている。威厳を表した鷹の様な鋭い金色の目。


「その顔、間違いない!吉田さん!!」

「…誰だ?」


訝しげに眉をひそめる吉田さん…じゃなくて、魔王。


そっかぁ…、こっちの世界の吉田さんは『魔王』かぁ。天職だね、僕個人の意見だけど。母辺りを期待してたんだけど、これはこれで良い。

 吉田さんは僕の家のお隣さんで、陽一郎さんの酒飲み仲間。娘が大好き、三十一歳のおじちゃん…いえ、おじさま。職業は宅配屋で煙草愛好家(ヘビースモーカー)。仕事中はにこにこしてて怖さの欠片もないけど、一端オフモードに入ると超怖い。


「吉田さ…いえ、魔王様。写メ撮っても良いですか?ほら、ノワールも隣に並んで」

「写メ?…勇者にそんなことをお願いされたのは初めてだ」


困惑を隠しきれずにそっと娘を傍に寄せる魔…吉田さん。あっ、間違えた。魔王様。うんうん、吉田さんに後でメールで送ってやろう。喜ぶ…か?いや、しかし…念願の再会というか娘の成長が見れたわけだし。


ピロリロ~ン…。


「ありがとうございまーす」


保存してから、メール画面へ。本文書いて、ほい、送信。

…電波届いてんのか、こっち世界。


「用は済んだか?」

「あっ、大丈夫です。お忙しい所ありがとうございます」


ふぅ……、この勢いでお戻りください。吉田さ…いえ、魔王様。


「いいえ、お父様!まだ、済んでおりませんわっ!」


そう言って僕に駆け寄るノワール。そしてぎゅぅぅぅーと抱きついてきた。もちろん、彼女のそんな大胆な行動をこの人が見逃すはずもなく、僅かに魔王様の眉間に皺が寄るのを僕は見逃さなかった。

やめて、やめて。空気呼んで!あれは吉田さんが少しイラついている時にする表情だから!


「私達、結婚しますっ!」


待て!それは僕が言うべきセリフでは!?いや、そうじゃなくて、とにかくそうじゃないだろ!何とか弁解するんだ、僕!お前はやれば出来る子だ!


「必ず幸せにしてみせます!」


だからそうじゃなーい!いや、そうなんだけど。セリフを間違えてる!何を口走っているんだ、僕!


「死にかけの人間勇者がか?笑わせる」


魔王様のその言葉を待っていたと言わんばかりに、にやりとノワールが笑う。


うわっ、素敵過ぎる。鼻血出るかも。

ぼへーと呑気にノワールに見惚れている僕をよそに、彼女の顔が直ぐ側まで近付き、唇が重なった。


ーあれ、僕。今、キスしてる?


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