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第三十三話 自己中共の野望


あと、一時間五十分二十秒…。


ギィィィィ…と錆びた鉄の扉が開く。

僕が部屋の中へ入った途端、扉は閉まった。


カインはどうしたって?

囚われの教官とその他の子分達を救出しに行ったよ。思ったんだけどさ、あいつ勇者で良いんじゃね?

何だかんだで、僕がかっぱらってきたパン全部使って『あんパン無双』なさってた。

カインが最強と言うより、パンが最強だと僕は思う。蹴散らされる死体兵達が少し哀れに見えたよ。


ミケガサキ城最上階の一番奥の大きな部屋。

どうやら、VIP専用では無いらしい。ちょっと期待してたんだけどなぁ…残念。


「にしても、あのドア。…自動ドア?普通、プラスチックで作らない?」

「…よく分かりませんが、硝子だと思います。

まぁ、そういう問題じゃないと思いますが…。優真様、お久しぶりです」


苦笑を浮かべつつも、ノワールは楽しそうに微笑む。

ちょっと照れくさくなったんで、誤魔化し代わりに僕は辺りを見回した。


「大丈夫?酷い事されてない?怪我とかは?」

「私の事なら心配要りませんわ。…そんなことより、大変なんです!優真様から頂いたあのブレスレットが…女神の手に渡ってしまったんですっ!」


僕の、そんな事よりも資源戦争リターンズが始まるみたいなんだけどという言葉は、轟音と地響きによってかき消された。

僕の言葉は天変地異にさえ拒否られるのでしょうか?一言も喋らせてもらってないよ。

城が大きく揺れる。


「…地震っ!?」


すると、ぼうっ…と水晶モニターが浮かび上がった。

倒壊した街の様子が映し出される。赤々と燃える民家から逃げて来る人は誰も居なかった。

その異常な光景に、ノワールが目を伏せる。


『ラグド王国第三十二番騎団出動っ!女神の首を討ち取れぇっ!ミケガサキを我が領土に収めよ!』


何時ぞやのラグド王国第三十二番騎団騎士隊長ミハエル何とかが、そんな事を叫んでいた。

うわー、遂に乗り込んできやがったよ。しかも、どさくさに紛れてとんでもない発言までしている。


「あの人、絶対フェラ行った方が良いと思う。まさに理想郷だと思うよ」

「…それは名案ですわね!しかし、私達も此処に居ると巻き添えを食らいますわよ?」


水晶モニターに、女神由香子様の姿が映し出された。よくよく見れば、吉田魔王様の姿もある。

それもそうだねと相づちを打とうとした僕に、女神由香子様の声が見事に邪魔をした。

もういい。僕は何も喋らない。…やっぱり喋る。タイミングは今だ。


「これは…」

『新資源戦争…、そして領土争い…。実に分かりやすいですわね。弱肉強食。勝ったものが王座に座る。単純明快。素晴らしい事です。『領土革命』とでも名付けましょうか』

これは領土争いなのか、はたまた新資源戦争とした方が良いのか。どっちだと思う?って言いたいんですけど。何、嫌がらせ?イジメ?もう良いよ、絶対喋らない。


「ぐすんっ…」

「まぁまぁ…。大丈夫ですよ、私にはちゃんと届いてますから」

「あり…」

『『領土革命』…素晴らしい響きですね。ですが、それを起こせるのは我がラグド王国と貴国ミケガサキ王国…どちらが世界を統べるに相応しいか』


またしても僕の発言を遮って、ミハエル何とかが、剣を構える。

何、この人。何、このカメラ意識した目線。何、このドヤ顔。

他の三国忘れてますよー。気付いてー、君達だけの問題じゃないから。

君達二人で決められるほど甘くないことに気付いてくださーい!


『うふふっ…魔武器如きが我が王国に勝てるとお思いですか!?こっちには『魔力魂』もある。兵も大量に…いえ、腐る程いる!それでも勝ち目があるとお思いで?』


ある程度の差こそあれ、本当に腐ってますよ?


「何と言うか、もう手に負えない。ツッコミも追い付きそうにない」

「…その意見には同感ですわ」


『この動く屍が兵士?ちゃんちゃら可笑しいですね!頭さえ切り落とせば唯のゴミだ!』


憐れむ様な目でミハエルが笑う。

刹那、金属音が響いた。


「死体兵が不足なら、私がお相手いたします」


長い黒髪が揺れる。

騎士の鎧が妙に似合っている女勇者は静かに淡々と言う。


手には滑り止め用の白い皮の手袋。細い腕には不釣り合いな大剣を、吉田雪は使いこなしていた。

剣の持ち手には『魔力魂』が填められている。


『くっ…なかなかの腕ですね…』


モニターから苦笑を浮かべるミハエル何とかの表情が映り、画面が切り替わる。

僕がドアップで映し出された。


「何これ、映ってるの?イェーイ」


画面がまた切り替わり、女神由香子様が呆れたように溜息を吐く。

そして、唇の端をくいと上げて微笑んだ。


あー、この人がこういう表情をしている時、碌な事が無いんだよな。


『時間が長いとはいえ、『魔力魂』も所詮は消耗品。要領を超えれば消える。それなら、もっと大きな『魔力魂』を形成すればいい話じゃありませんこと?』

『馬鹿っ…!さっさとその部屋から出ろっ…!』


吉田魔王様の声が一瞬だけ聞こえて、直ぐに途切れた。


『『魔力魂』は生命力と魔力の両方のつり合いが取れなければ意味が無い。

…しかし、勇者はその両方を十分すぎるほど揃えています。

今まで、粗雑な扱いをして悪かったわ。あなたは言わば金の卵ね。だから、この国を救って下さいな。

…私の可愛い、勇者様』


不覚にも、嬉しいと思う自分がいた。

ずっと、ずっと待ってたんだ。この人が、僕を見てくれるのを。だから、僕の答えは既に決まっている。



「だが、断る」




ちょっと次回の更新遅れる予定。

次回の更新は22日を予定しております。

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