第三十話 猛獣使いにご注意を
三嘉ヶ崎、田中宅。
「…此処が田中さんの家ですか。案外、殺風景ですね」
「いえいえ。ついこの前、そうなったんです。あっ、ソファー無いですけど椅子はあるので、そちらに座って下さい」
三浦春菜は辺りを物珍しそうに見物し、机の上に置いてあるゲームソフトを手に取り、声を上げた。
陽一郎は気にすることなく、台所で緑茶を出すべきか紅茶にするべきか迷っていた。
「『勇者撲滅』じゃないですか!私達の世代では一部に人気がありましたが、最近では結構流行ってますよね」
「『勇者撲滅』。運命変換型革命RPG…ね。それ、捨てに行く予定なんです。
壊れてますし…全ての元凶は、これですから。あの、緑茶と紅茶どっちが良いですか?」
「ほうじ茶で」
にこりと笑う春菜に、陽一郎は困った様に頭を掻いた。
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「火の七日間を俺はやる!」
「目覚めての第一声がそれか。いきなりどうした?…まぁ、お前なら不可能ではないな。意気込んでる時に悪いが、最後は餓死だぞ?陽一郎さんにも怒られるし」
「あー、その心配は無いけど…それでも嫌だな。止めとく」
げっそりと僕が言うと、呆れた様にカインは溜息を吐く。
現在、真夜中。ミケガサキ王国上空です。いやー絶景かな、絶景かな。
因みに、絶望的景色の略だから。
赤い龍の背に乗って…なら良いんだけど、僕は鷲掴みにされてるんです。
カインは服が引っ掛かってぶら下がり状態。
黒い血がぽたぽたと生気のない死に絶えた王国へと落ちる。
現在のこの状態を含め、何故こうなっているかは僕も理解不能だ。
なので、聞いてみる。
「カインよ。僕等は何故、栄えあるドラゴンの足に鷲掴みにされているんだい?」
「何だ、覚えてないのか。まぁ、無理もない。ならば振り返ってみよう」
僕は後ろを振り向く。
ドラゴンの鉄臭い固い鱗が見えた。
「何も無いけど…何かあるの?」
「おさらいという意味でだったんだが…」
「あのさ、ドラゴンに鷲掴みされながらもこうやってボケられる僕らって素晴らしいと思う」
まぁ、そんな訳で記憶をおさらいしてみる。
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「それじゃあ、困った時の吉田頼みと行きますか」
自信満々というか、好奇心で僕は無い心何が出るかなと楽しみに陣を描き、杖を振りかざした。
「猫モドキとさ、杖じゃなくて吉田魔王様の銅像をひそかに期待してたんだけど、外れたなぁ」
「良いじゃないか。これで、『沈黙の書』とやらを思う存分こき使える訳だろ」
「うーん、どうだろね…。あくまで、幅を広くしたに違いないからな…。まぁ、フレディくらいは喚べるかも」
そう、確かそんな会話をして杖を陣に付けようとして…どうなったんだ?
「あの後、杖振りかざしただろ?いざ、『召喚』って時にドラゴンの奇襲が来てだな。お前の頭を爪でガツ~ンとしたわけだ」
「ガツ~ンじゃないよ!音は可愛らしいけど、内容としては恐ろしいじゃないかっ!普通、頭吹っ飛ばない!?」
「良かったな。召喚されて肉体が強化されてなかったら、お前が頭を吹っ飛ばした死体兵の様に何処かへ飛んで行っていたに違いない。証拠に、出血してるだろ?」
「骨まで強くなるのか…。その勢いで伸びろ、骨」
「最後まで聞け!」
「煩せぇ!この猛獣使いドグラ様の鞭の餌食になりたいのかいっ!?」
「ドグラ様の無知の餌食になる…?馬鹿同士ならその攻撃の効果はいまひとつだ」
黒い紐の様なものが頭にぶち当たる。そう、ちょうどガツ~ンしたと思われる所に。
ボタボタと止まっていた血がまた流れ出す。灯りの無い国の中へと吸い込まれて行く。
それを見届け、そっと人差指を動かし円を描く仕草をする。幸い、気付いていない。安堵の息を吐くと、空に出現した杖をそのまま地へ落とした。漆黒の杖は、同じ死の色を纏う国に吸い込まれて行く。
「いででっ…!おまっ、キレるの早っ!気性荒っ!」
「殺されるぞ、お前」
カインがド突く仕草をする。
そして、小声でMなのか…?と呟くのを僕の耳は聞き逃さなかった。
「いやいや、違うから。そうかもしれないけど、取りあえず違うから。えーと、ドグラ様ー!質問宜しいですかぁー?僕達、どうなっちゃうんですかねー」
「勇者は女神様の所へ。それ以外はキャンディの餌となる」
あっ、律儀だ。この人。
「キャンディーとは、何でしょうかぁー?ペットの名ですかぁ~?」
「お前らを運んでいるのがキャンディーだが?」
赤いドラゴン。
恐らくはメスなのだろう。けど、ドラゴンって基本両生類じゃないのっ!?
にしても、キャンディーって!!
ドラゴンなのにキャンディーって!!ふ、腹筋が…!割れるを通り越して裂けそうだ!
チャームポイントは何処ですか?鋭いおめめですか!?鋭いおめめがチャーミングなんですか!?
「プラチニオンに猫モドキと名付けたお前が笑えることじゃないと思うが…?」
はぁ…と溜息を吐いたカインはふと気付く。
そして、他人に伝えたくて仕方が無かった。
「ゆ、優真…。ドラッ…ドラゴッ…爪…頭…っぐ」
笑いをかみ殺すカインに教えられた通り、爪を見た。
「ま、マニキュア…!!」
情けない声で何とかそれを発し、笑いをかみ殺すと、腹を抱える。視線は頭へと向かった。
ドラゴンというか、中華の器とか絵本に描いてありそうな異国の龍と言ったところか。
立派な細長い髭に、立派なに、二本の…角…。
ちょうど僕の位置からはドグラの姿も見えた。二十代後半くらいのふっくらした体格の女性だ。
目つきは鋭く、髪は赤…おでこを見せる様に…前髪をちょんまげ結びにして…。
だから。
この湧き上がる笑いを抑えることなど不可能だった。
「り、リボンで止めてる…!し、しかも…おそろっ!何アレ!?今流行りのペアルック!?髪型も同じでこ見せだし!クオリティ高けぇ!あは、ははははっは…!!」
「馬鹿っ!皆同じで皆良いんだよっ!そっとしとけっ!ふふっ…ははははっ!!」
当然、鞭が直撃したのは言うまでもない。
そして、その衝撃でカインが落ちるのも、また必然だった。
「おわっ…!」
「何っ!?キャンディー!捕らえろ!」
カインの身体が、闇へと吸い込まれていく。
血は既に落した。杖も同じ。
上手くいったかは正直、分からない。
もう一度、人差指で自分の側に二三度折り曲げる。
直後、黒い光の玉が街からドラゴン…正確には僕目掛けて飛んできた。
それは見事に直撃して、身体は空へと放りだされる。
「『召喚』っ!」
成功していることを願う。
ほら、じゃないと僕達確実に死ぬから。
キャンディーはあからさまに怯んで、動きが鈍い。
これで『召喚』が成功していれば、助かるんだけど。
あー、頼むから余計なことしないで。
「くそっ!イチゴ!行けっ!」
……ゴメン、突っ込む気力が無い。
ヒュン…とキャンディーの背から人形サイズのドラゴンが放たれる。
ちっ。早いな。
イチゴはあっという間に僕に追い付く。
ガシッ…と鋭利な爪が僕の脇腹を掴んだ。
「『ビィーネの業炎』ッ!」
『魔眼』でイチゴの足を焼く。
抉られる様な形で、イチゴは僕の脇腹を離す。欲しくもないスピンを掛けて。
この話も僕の人生も次回に続く…と良いね。
優「三十話だねー。というわけで、唯の後書きじゃつまらねーので、出てみたよ」
カ「俺達が出たとこで何も変わらないが?」
優「大丈夫。唯の自己満。一度はやってみたいじゃない。まぁ、本題に入ろうか。お気に入りが十件になりました!どうもありがとうございます!これを励みに頑張っていきたいと思います!此処までお読み下さってありがとうございました!今後ともご愛読よろしくお願いします!」
カ「…まぁ、明日には夢オチとして処理されてんじゃないのか?覚めない夢は無いからな」
優「………。今後とも、よろしくお願いします!」




