第一話 日常日和
雪の降りそうな天気だ。
ぶ厚い雲に覆われた夜空を見上げ、そう思う。吐く息は白く、やがて闇の中に霧散した。
隣ではカラカラと自転車の車輪が虚しく回る音が絶え間無く続いている。
三十分ほど小休憩を挟み、女子を置いて男子メンバーだけで吉田家を後にする。話し合いの結果、吉田家には女子が、田中家には男子が居候する事になったらしい。田中達とは家が隣のため、直ぐに別れたが。
時計を見れば、既に午前三時を回っていた。流石に深夜だけあって気温は著しく低下し、歯の根が合わない程に寒い。
「…まっ、無事で還ってきてくれて良かったよ。流石、俺の息子だな」
静かにキー先が呟く。
それから閑静な住宅街を暫く無言で歩いていたが、やはり気不味くなり、俺の方から話題を切り出した。
「今年中に卒業させるって、んなこと出来んのかよ。今日が十二月一日だろ?明日から登校するとしても、残り三十日。休日も含めれば二十日くらいか。今からじゃ、どう足掻いたって出席日数足りねぇだろ」
「おいおい、普通に考えて五年以上も留年出来て、何故今年中の卒業が不可能なんだ?まぁ、安心しろ。出席日数ならギリ足りてるから」
「いやいや、足りる訳ねぇって」
俺が呆れながら言うと、キー先は自慢げに胸を張って答える。
「それが、足りちまうんだな。俺ら教員が五年も留年する奴に休みを与えると思うか?田中にはありとあらゆる休みを還元させ、全て補習に費やさせた。だから今までの休日分を含めれば足りる訳よ」
「休日って、夏休みとかも入るわけ?」
「当たりめーだろ。だから相当出席日数は稼いでるぞ。何せ五年分だ。その間、教員の休みも半減されてるがな」
引き攣った笑みを浮かべながら、残業ボーナス出ねぇから嫌になるよなと愚痴を零していた。
そして何かを思い出した様に空を仰ぐと、俺の方を見た。
「そうそう、日にち決めとかなきゃな。そしたら連絡回して…ほら、例のアレ。お前も手伝えよ。因みに、参加費は一人一万五千円」
「あー…、まだ皆諦めてねぇのかよ。粘るなぁ」
いつの頃だったか。少なくとも、田中が留年常連生という地位を確定しつつあった頃だと思う。本人に内緒で密かに企画された催し物があり、田中が無事卒業したら開くはずだったが、その兆しが一向に無いどころか、本人が行方不明になるという最悪の事態になり、約三年の月日が流れた。
それでもまだ諦めてないとは、最早呆れを通り越して感嘆する。
「…で、お前はこれからどうするんだ?」
「んなの、また新しくバイトの面接して金稼ぐ」
「そんじゃ、一つ乗らないか?」
恐らく大した儲けにもならない話だろうと内心溜め息を吐く。
「まっ、たまには親孝行もしねぇとな」
****
実に約三年振りとなる登校日を迎えた。
降り注ぐ日差しは弱く、冬の空は雲一つなく晴れやかに澄み渡っている。
まさに絶好の登校日和と言えよう。
そんな天候とは裏腹に、僕の心は暗雲が立ち込め、大変芳しくない。サボタージュ警報が今にも発令しそうだ。
久々の制服は、一時的に成長した今の姿には少し小さかった。帰りに岸辺にお下がりでも貰いに行こうと思いながら革靴を履く。
そして今日、実に五度目となる溜め息を吐きながら外に出た。
「皆、頼むから、何もしないで。何か困った事があったら吉田家に駆け込んでくれ。くれぐれも学校には来ないこと」
「そんな念を押さなくてもお前じゃあるまいし、オズさんだっている。何も起きないから早く行ってこい」
カイン達に留守番を任せるということは家に時限爆弾を置いて行くようなものでしかない。事実、翌朝テレビが破壊されるという大変由々しき事態も発生した。故に、そこはかとなく不安なのだ。かと言って、学校に連れて行くのも不可能である。
僕が帰宅する頃、はたして帰る家は存在するのだろうか。
「…まぁ、良いか。じゃ、行ってきます」
「おう、行ってらっしゃい」
カインに見送られながら家を後にする。四十五度以上はある急な坂道を下り、横断歩道で信号待ちを少々、青に変わるのを待ってから渡り、学校へと至る緩やかな坂を上って行く。
春になれば満開の桜並木に姿を変え、生徒共々を出迎えてくれるこの坂も、冬の間は侘しいばかりだ。
校門を通り、職員用の玄関から中へ入る。入って直ぐの下駄箱から履き古された上履きを取り出して履くと職員室を目指した。
「よーし、よくぞ登校した。…んじゃ、人数も揃ったことだし行くかー」
ドアを開けた瞬間、名簿を抱えたキー先が立ち塞がっており、開口一番にそう言って歩き出す。その後ろを制服姿の雪ちゃんとスーツ姿の岸辺が続いた。その隣に並んで歩く。
「…雪ちゃんはともかく、何で岸辺が?」
「研修だ、研修。お前等二人だけじゃ心細いだろうというキー先の粋な計らいだ」
「岸辺が珍しくキー先の言うことに素直だ…。やっぱり、僕は家を諦めるべきなのか?」
「何の決断を強いられてるんだよ、それ。つーか、制服、ぱっつんぱつんじゃね?後で俺のお下がりで良いなら届けんぞ」
「助かる。ありがと」
取り留めのない話に花を咲かせながらもクラスの前に着く。
「じゃ、俺が呼んだら入れよ」
特に気にする様子なくキー先は教室に入っていく。
…いやいや、僕は別に編入生じゃないんだけどとツッコミを入れたが聞き入れられなかった。今更、説明も不要だろうに。
―閉じられたドアから中の様子を窺い知る事は不可能なので、仕方なく僕等はドアの前でその時が来るのをじっと待つ。
「うー…。緊張するよ〜」「雪ちゃんなら大丈夫、問題無いよ。直ぐ打ち解けるって」
「でも、七つ八つ離れてるでしょ?しかも私達、向こうのミケガサキにいたから全然話題についていけないんじゃ…?」
苦々しく笑う僕等を余所にキーンコーンカーンコーン…と、予鈴が朝のホームルームの終わりを告げる。
「「ぇえええっ!?」」
呼ばれたっけ?いや、呼ばれてないよねと互いに視線で会話しながら、ドアを開けるべきか迷っている間にスパーンッという効果音が付きそうな勢いでドアが開いた。
中からこのクラスの生徒と思われる制服・体操服姿の男女が雪崩の様に押し寄せて来て危うく轢かれそうになる。
その雪崩が一段落着いた頃にキー生が教室から出て来て僕等を見るなり、しまったと言わんばかりの表情で頭を掻く。
「…すまん、二人共。タローに質問が殺到してな、紹介すんの忘れてた。一時間目は体育だから急いで着替えろよ。おーい、お前等!こっちの男子が田中優真、女子が吉田雪だからよろしく頼むぞー。…さて、教室兼男子更衣室だけどお前は使わねぇよな。女子更衣室は二階だ。行けば分かる。まっ、頑張れや」
扱い、雑っ!
「頑張れやじゃねーよ、この親馬鹿ー!!」
「大丈夫だ、陽一郎には負ける」
そそくさと逃げるようにキー先は足早に去って行った。その後、岸辺がやや疲れた表情で出て来る。
「なんつーか、モテ期到来だわ」
「ヨカッタネー。おかげで僕等は孤立無援」
「あー…、次、体育だろ?何とかなる」
困った様に岸辺も頭を掻きながら、早くしないと授業遅刻すんぞと背中を押して急かす。
「体育はゴリオだろ?遅刻なんてしたら、超面倒臭いぜ」
「そ、そうなの?」
「分かってるよ。じゃ、雪ちゃん。また後で」
体育教師郷田武雄ことゴリオはその名もさることながら外見もゴリラそのものである。僕が言うのも何だが、単純馬鹿と言って相違ないだろう。かなり大雑把、破天荒というか型破りな性格だ。
そんな外見、性格のゴリラ…ゴリオの何処に惹かれたというのか。その妻郷田夫人はゴリオには勿体ないくらいの絶世の美女である。
トイレで着替えを済ませると駆け足でグラウンドに向かった。
校門から少し離れた場所がグラウンドになっており、外からでも坂の終盤から辺りからグラウンドの様子が窺えるようになっている。因みに裏門は表門の反対側で、グラウンド寄りになるだろうか。
最も、裏門は何故か三嘉ヶ崎高校の後ろにそびえる裏山に繋がっており、裏山の整備という学校の清掃行事がない限り誰も利用しないが。
この時期の体育といえば、球技大会の練習と持久走に限られる。まぁ、持久走があろうが無かろうがゴリオは必ず授業の始めにウォーミングアップとして外周五周走ることを義務付ける。遅刻した者はさらにその倍、十周というノルマが課されるため、誰も彼の授業を遅刻するものはいない。
授業開始を告げるチャイムが鳴り、ジャージ姿のゴリオが現れる。その後ろを雪ちゃんが恥ずかしそうに歩いていた。
察するに、場所が分からなくて迷子になっていたところを保護されたのだろう。
「ごめん、案内するべきだった」
雪ちゃんに駆け寄ってそう謝罪の言葉を述べると、彼女が何か言うより先にゴリオが豪快に笑いながらバシバシと背中を叩く。
「がはははっ!駄目じゃないか、田中。というか、久しぶりだな!よし、二人揃って外周十五周だ!」
「ええっ!?」
「足りないか?なら、三十周っ!」
再び悲鳴を上げようとした雪ちゃんの口を慌てて塞ぎ、手を取ると走り出す。
今までの経験上、口答えするほどに外周数は上乗せされると分かっているからだ。つまり、つべこべ言わずに走れということである。
クラスの生徒達の様々な視線にさらされながら、僕等は現実逃避さながらに無我夢中で走った。
最早、クラスの輪に溶け込むことを諦めようかと心が折れる寸前である。
そして、神は無情かつ非情なまでに、逃げ惑う鶏を剣で突くかの如く、トドメを刺しにやって来た。
「…ふむ。こちらは基礎体力の維持がメインのようだな」
白い肌。金子の様に細く美しい金髪が目を引いた。凛としたハスキーボイスが冬の澄んだ空気を震わせる。鷹を思わせる鋭い目つきとその眼光が彼女の美しさを際立たせていた。片目を覆い隠す眼帯すら、その美貌を損ねるに値しない。
「その変化球は予想出来なかったー!!」
思わず足を止めて叫ぶ。カイン達には釘を差しておいたが、教官達は管轄外だった。
しかし、考えて見れば、向こうのミケガサキでは此処で教官は見習い兵士達を指導していた訳だし、ましてや教官という立場の彼女にとって異世界の教育指導体制というものに興味が湧かないはずないのだ。
「誰、アレ…。超美人なんだけど」
「つーか、どっから来たんだろ?裏門からか?」
「やっべぇ、俺、チョー好み!」
鼻の下をだらしなく伸ばしながら男子は口々に言い合い、女子は憧憬と嫉妬の眼差しを教官に向けていた。
誰でも良い。頼むから異を唱えてくれ。美人でも不審者に変わりないから。不法侵入だから。
見付からない様に、こそこそと草陰や物陰に隠れながら教官の様子を窺う。
「何だ、何だ?」
救いの主は予想外にもゴリオだった。ズカズカと大股で教官に歩み寄る。
「ウチの嫁には負けるが、中々美人な不審者だな」
やや気になる惚気発言があったが、やはり、教員として不審者の侵入を見過ごすわけにはいかな…。
「これは失礼。教育の邪魔をするつもりはなかったのだが…。私はアンナ・ベルディウス。これでも兵士の教官を務めている」
「兵士…?がはははっ!成程!自衛官の方でしたか!流石、戦闘職の方は雰囲気が違いますなぁっ!」
ご、ゴリオぉぉぉっ!違うけど、微妙に合ってる!
「―しかし、この教育指導では基礎体力の維持がメインの様だが、あれでは筋力が鍛えられん。最低でも、柔軟体操をした後は腕立て伏せ三十回、腹筋二十回、さらにあの階段でうさぎ飛びをした方が良いだろう」
一体、彼女は僕等を何に育て上げるつもりなのだろうか。
「アンナさん、意外にマッチョ好きなのかなぁ」
「どう考えたって、教官は肉食系男子派でしょ」
などと足を止め、すっかり話し込んでいた僕等に教官の激が飛ぶ。
「そこ、私語は慎めっ!弛んどるぞ!五周追加!」
「「はっ、はい!」」
「…むっ、誰かと思えば優真と雪か。しっかり励み、立派な騎士になれよ」
普通の高校生になりたいです、教官。
クラスメイトの冷ややかな視線をひしひしと背に感じながら、けして輝くことの無い明日に向けて僕等は走った。
****
―そんな二人を室内から見守る人物がいた。
三嘉ヶ崎高校現校長、藤原菫である。彼女もまた、存命・学校の怪談の一員だ。
大した日差しでもないのにブラインドを下げ、その間から二人の様子を窺っている。
「さっきから目の敵にしかされてないじゃない!高校生活…いえ、青春とは友あってこそのものなのよ!これは大変、大変っ由々しき事態だわ…」
「そうっすね。校長の部屋が一番由々しき事態っすね」
深刻そうに呟く菫を、溜め息と共に岸辺は一蹴した。
床は資料らしき紙類が散らばり、足の踏み場もない。さらに床に散乱する紙の絨毯の上には分厚いファイルがこれでもかと積まれ、いつ崩れてもおかしくない状態だ。
菫は場の空気を払拭するように咳ばらいを一つし、物置と化した机の上に山積みになったプリント類の中から数枚を取り出す。
片手にケーキを乗せた紙皿、もう片方にプリントを握り締め、身を乗り出すようにキャスターを滑らせ床に散らばる紙類をグチャグチャにすることも厭わず岸辺の方に走行した。
途中、くずかごを跳ね飛ばし、中途半端に丸められたティッシュやケーキの生クリームなどの食べかすが付着した紙皿の類といった中身がぶちまけられる。
その様に岸辺は頭を抱え、菫は平然と彼の前に持って来たプリントを突き出す。
「こうなったら徹底的に職権乱用よ!使えるものはとことん使うわ!…ってことで、彼等の名前を記入しといて。ペン、床に落としちゃったみたい。宝探し、一回五十円よ。思わぬ物が見付かるかも」
「例えば?」
「ファイルに潰されて圧死したゴキブリの死骸とか、キャスターで轢いたゴキブリの死骸とか」
てへ、と生クリームのべっとり付いたプラスチックのフォークを持った手で軽く自分の頭を小突く。その振動で付着していたクリームが床にぼとりと落ちた。
「…よく、ゴキが出ないっすね」
胸ポケットに差してあるボールペンを取り出し、『入学届け』と書かれた紙にそれぞれの名前を記入しながらあくまで平然と、しかし内心は怒りに震えながら岸辺は問う。
「そこはちゃんと対策してるわよ。ほら、ゴキちゃんを家に招いて捨てるアレ。もう凄いわよ。大家族。過密状態を通り越して人口爆破が起きるんだから。
…そうそう。そろそろまた作らないとね」
はむり、とケーキを一口頬張りながら菫はフォークをくるりと回した。
「作る?買えば良いじゃないですか。何なら買いに行きますよ。どーせ、パシリが本業ですし。パシリ兼研修生」
ややふて腐れた様に岸辺が答えると、菫は岸辺の小言は無視して作った方が安上がりじゃないと笑い、ケーキが入っていた箱を何やら改造し始める。
底に液体糊を満遍なく引き、一口サイズのケーキをその真ん中に設置した。そして側面を四角く切り抜く。
「出来上がりっと…。ね、簡単でしょ?」
「駆除じゃなくて擁護か!?そりゃ、過密超えて爆破もするわっ」
「じょ、冗談よ。じょ・う・だ・ん。あっ、ああ、そうだ!ほら、部屋に充満するタイプの殺虫剤あったでしょ?あれ、買ってきて」
「…そこまでして、自らの死期を早める必要ないと思いますよ」
****
補習が終わり、時刻が五時に差し掛かると日はどっぷりと暮れ、薄紫色の空にはぼんやりと星が瞬き始める。
肌を刺すような冷たい風が吹き抜けた。身震いしながらマフラーに鼻を埋め、寒さを凌ぐ。
とぼとぼと重い足取りで坂道を上っていた。最早、明日の事を思うと溜め息しか出て来ない。それを払拭するように頭を振り、別の事を考えるようにする。
「夕飯どうしようか…。材料、買って帰った方が良いのかな」
しばらく迷った後、買い物がてらカイン達に町でも案内しようと思い立ち、再び真っ直ぐ帰路につく。
夕飯は手軽に焼肉とかにしようかな。留守番のご褒美にちょっと奮発して高いお肉でも買おう。ついでに他の材料も沢山買って、岸辺達も呼ぼうか。皿洗いとかはカイン達にやらせればいいや。
などと思索に耽っていると、視界に何か小さなものがゆっくりと降ってきた。
「…うわぁ、初雪?」
期待に弾ませながら顔を上げる。
次に目に飛び込んできた光景は、赤々と勢いよく燃え盛る…。
――家だった。
「肉より先に家炎上っ!?」
「いや、そういう問題じゃないだろ」
ひたすら驚愕する僕に、いつの間にか居た岸辺が冷静にツッコミを入れる。
その間にも雪の様に小さな火の粉が縦横無尽に舞い踊っていた。
「えっ、えええ!?どうして岸辺が!?っていうか、皆は?炭!?」
「さりげなく酷いこと言うなよ…。ほら、これ制服」
はい、と岸辺は持っていた紙袋を渡す。
「あ、ありがと…って消火するべきじゃね?消防士呼んで」
「それが、消防士も匙を投げた程の火災でな。さっき撤退した。何故か消えないらしい」
「んな簡単に諦めて良いのかっ!?消えないって…、どう考えてもコンロの火が原因じゃないよなぁ。…ねっ、皆?」
視線を後ろの塀に向けると観念した様にカイン達が出て来た。しかし、オズさんの姿だけが見当たらない。
「…あれ?オズさんは?」
「私は別に何も悪くはないし、止めた立場なので関与しません。貴方達は優真君達が帰ってくるまで火の番でもしてなさいと言って、吉田家に避難中です」
ノーイさんがやや視線を逸らしながら答えた。
「その、ですね…。魔術が使えないという事に気付きまして…。しかし、昨日は使えたんです。だからおかしいなと庭で魔法陣を形成してみましたが無駄で…」
「で、俺の剣の魔法なら使えるかと思ってやったら…」
「炎上したと?魔力から生み出した火なら消えにくいのは当然か」
「雪が何とかしようとしたんだが、威力がありすぎて家を破壊する恐れがあったからお詫びとして買い出しに行ったぞ」
「はぁ…。オズさんを除く男子の皆、今日は罰として晩飯抜きね」
「…お前だって城倒壊させただろうが」
「国を守っての結果でしょうが。本当に魔法陣使えないの?」
『魔眼』を発動すると、髪が少し浮かび上がる。窪んだ片目を隠すように手を添えると、陣を形成した。
炎を囲うように空気ベールが家を覆い、中を真空状態にする。すると瞬時に炎は消え、残ったのは炭と化した我が家のみ。
「何だ、使えるじゃんよ」
深い溜め息を吐きながら、頭を掻く。
艱難辛苦、悪戦苦闘の今日この頃。輝かしい未来が訪れるのはいつになるのだろうか。




