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1-16 何も持たなくても

 スイレンを抱き締めて離さないままでリカルドは、家の前で降り立った。


 ゆっくりと彼女を地面の上に立たせて二人を降ろして黙ったまま、すぐに人化をしたワーウィックに、財布を渡しながら言った。


「財布をブレンダンに渡しといてくれ。後、お前はもう今夜は巣の方に帰れ」


「スイレン、何かあったら僕を呼ぶんだよ。リカルドの……スイレンにっ……もごっ」


 話している間にリカルドの大きな手に口を塞がれたワーウィックは、何故か鬼気迫るように真顔になっているリカルドに追い払われて、涙目で何度か振り返りながら、ブレンダンの家がある方向に向かって走って行った。


「スイレン。おいで」


 リカルドは、今だ夢見心地にあるスイレンの手を取って家の中に入った。


(リカルド様……手が、熱い)


 こんな時にも、スイレンは自分の手に汗をかいてないかと気になって仕方なかった。階段を昇り、彼の部屋へと真っ直ぐ進む。


 部屋の中に入ってすぐに、待ち切れないと言わんばかりにリカルドはスイレンを抱き寄せて唇にキスをした。


 角度を変えて何回も繰り返されるリカルドのキスに、スイレンの胸はいっぱいになった。大好きで、好きで、本当に求めている人とする初めてのキスは、心までとろけそうなほどだった。


 自分の身体を支えて居られなくなり、そのままよろけそうになったスイレンをリカルドは事もなげに抱き上げた。


「緊張してる?」


 自分の言葉を聞いて、真っ赤な顔をして、何度も頷くスイレンを愛しそうに見つめ、リカルドは、もう一度キスをした。


「大丈夫。今夜は、そういうことはしないから。でも、今まで長い間、我慢していたから。少しだけ……良い?」


 大好きな茶色い目を合わせて、響きの良い甘い声で自分を気遣うように聞いてくれるから、スイレンはまた嬉しくなって思わず泣きたくなった。


(……ずっと、我慢をしていたって……どういう事?)


 そう思って、スイレンは気がついた。先ほど、リカルド自身から説明があったことだったからだ。


(あ……婚約者が居るままの身では、触れられないと思っていて。だから、これまで、ずっとずっと、我慢していたと言うこと……?)


 リカルドの言葉の真意を知り、胸が大きく高鳴りドクドクとした大きな音が聞こえてくる。


 そうだった。彼は竜に選ばれるくらい高潔で、そして本当に優しくて、スイレンに対していつも誠実だった。


(もう……どれだけ、この人を好きになれば良いの)


 底抜けの穴の中をずっと落ちているようで、何度も何度も、恋に落ちてしまう。


「スイレン。大丈夫?」


 ぼーっとしたままで、心ここにあらずなスイレンの様子を心配したのか、彼は優しく聞いた。


 リカルドは抱き上げたままだったスイレンを、柔らかな大きなベッドに座らせた。


 大きな体を持つ、竜騎士のリカルドに合わせた造りなのだろうか。大きくて立派なベッドだった。


(二人で……そのまま寝ても、大丈夫そう)


 そう思ってから、彼の隣でこのまま眠ることを想像してスイレンは赤くなった。


(どうしよう。え……こういう時は、何をどうしたら良いの?)


 スイレンは、まさか今日、こんなことになるなんて夢にも思っていなかった。


 彼女は幼い頃に、両親を亡くしていて、そういうことを教えてくれる身近な人もいなかった。


 スイレンには、こういう恋人というべき人と一緒に居る時にどうすれば良いかなんて全くわからなかった。


 何となく、男女が夜共に過ごすと子どもが出来るということは、もちろん理解してはいるのだが、その時にどういった行為をするのかなんて、詳しく聞いた事もない。


 これから自分たち二人が、何をどうするのかなんて、スイレンには皆目見当もつかないのだ。


「リ、リカルド様っ……あのっ」


 複雑な留め具を外して黒い上着を脱ぎ椅子の背に掛けていたリカルドは、スイレンは発した小さな呼びかけに振り向いた。


 数秒待っても、スイレンははっきりとした事は言えない。


 何が言いたいのかと、不思議そうに首を傾げるリカルドに、スイレンは勇気を出して言った。


「私。その、何も知らなくて……リカルド様も、知っていると思うんですけど、両親も幼い頃に亡くしていて、それからずっとひとりぼっちでした。その……そういうことを、聞く人も、今までに居なくて……こういう時に、どうしたら良いのか。わからないんです。もし、私がこれから先、変なことしたら……ごめんなさい」


 自分の言葉の意味の余りの恥ずかしさに、早口で一気に言い切って俯いてしまったスイレンに、リカルドはゆっくりと近付き大きな手で優しく頭を撫でた。


 彼の大きな手が、とても温かくてスイレンは泣きたくなってしまう。


 今までに人生で感じたこともなかった、幸せを感じて。

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