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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第三章:来たれ、汝甘き死の時よ

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幕間:七天の姫騎士


「さあ! 遠慮は要らねぇ……おめぇ等、今日は大漁だ! 呑んで歌え、騒いで笑え、なぶって犯せ――――ぎゃっはははははッ!!」



 崩れ落ちたボロボロの集会場に下衆げすびた男の声が響き渡る。


 ここは迷宮ダンジョンと化した古城――――【ラピーナ城】。かつて栄華を極めたとある貴族によって建てられて、その貴族の没落と共に遺棄された忘れ去られた古城。


 古くは多くの魔物モンスターは巣食い、数多の冒険者たちが貴族の遺した財宝を求めて攻略に挑んだ迷宮ダンジョンであったが――――ここ数年、この迷宮ダンジョンにある組織が根付いていた。


 その組織の名を【ケルベロス傭兵団】――――元はグランティアーゼ王国から離反した傭兵たちの集まりであり、現在は裏社会で暗躍する犯罪組織。


 彼らの仕事はその全てが略奪りゃくだつ――――小さな村々を襲っては、金品、食料、そして奴隷として売りさばく村人たちを根こそぎ奪い尽くして、裏社会へと流していく事が生業なりわい


 卑劣で下劣な下衆共の集まり――――それが、この【ケルベロス傭兵団】の正体だった。



「お頭の許可が出たぞ! さぁ、今日は騒ごうじゃねぇか、ハーハッハッハ!!」



 今宵こよい、この【ケルベロス傭兵団】は一つの小さな村を焼き討ちし、多くの金品と村娘たちを連れ去っていた。


 これはその祝勝会――――奪った金品を山積みにし、村人たちが丹精込めて作った作物を無造作にテーブルに並べてむさぼり食い、囚えた村娘たちを代わる代わる輪姦りんかんする、外道たちの狂乱のうたげ



「――――今日は酒が旨い……! まったく、これだから傭兵稼業は辞められねぇな!!」



 【ケルベロス傭兵団】の頭領とうりょう、元王立騎士団の【重騎士】グレイヴ=サーベラスの音頭おんどと共に、宴は続いていく。



「誰か……誰か……助けて……!」

「誰も来やしねーよ。あんた等はここで俺たちの玩具おもちゃにされて、それから【アモーレム】の裏市場ブラックマーケットで貴族たちに売られていくんだ……! 諦めな、そして楽になっちまえ…………何も考えず、俺たちの言いなりになっていな!」

「いや……そんなの…………いやだ…………!」


 

 神は彷徨える子羊を救わない――――ただ、傍観者ぼうかんしゃを気取るのみ。


 恐怖に怯える村娘たちの救いを求める声は、遥か天上の神には届かない。彼女たちはただ、悪漢あっかんたちになぶられて、奴隷として売られていくのみ。


 それが、女神アーカーシャの思し召し。



「――――貴様たちの悪行あくぎょうはここまでだ、【ケルベロス傭兵団】の屑どもよ!!」



 唯一、彷徨える子羊を救えるのは、その消え入りそうな声を聞き届けた勇敢なる者のみ。


 そして今宵こよい、その勇敢なる者は現れる。



「なんだ!? 集会場の扉をぶち破って見張り役が飛び込んで来やがった!?」

「俺たちの首に賭けられた懸賞金目当てのギルドの刺客か!? 野郎ども、戦闘準備だ!!」



 宴会が行われていた集会場の扉をぶち破り、見張り役の傭兵を叩きのめした上で現れたのは――――ひとりの少女騎士。


 後頭部でわれた長い髪は、黄金と見紛みまがう程の美しく煌めく淡い金色こんじき。その瞳は緑柱石モルガナイトが如き鮮やかなピンク色。純白と金色きんいろが高潔さを讃える絢爛けんらんな騎士甲冑に身を包んだ――――勇ましくも、凛々しき少女。



「聞け、悪しき傭兵たちよ! 我が名は、レティシア=エトワール=グランティアーゼ!! 汝らを討つべく推参すいさんした騎士である!!」

「レティシア……! まさか…………グランティアーゼ王国の第二王女だと……!?」



 彼女の名は、レティシア=エトワール=グランティアーゼ――――王族として生を受け、ほんの二週間前に『神授の儀』で女神アーカーシャから【姫騎士】の職業クラスを授かった、グランティアーゼ王国の第二王女。



「これはこれは、お初にお目にかかります……レティシア姫、世間知らずの箱入り姫がこんな古びた城に何用で……?」

「裏切りの騎士――――グレイヴ=サーベラス!! 我が王国の恥晒しめ……! さらった娘たちは解放して貰うぞ――――覚悟しろ!!」



 正義をおもんじ、悪を討つ事を自らの使命と定めた気高き王女レティシアは――――か弱き人々を蹂躙じゅうりんする悪しき傭兵団へと啖呵たんかを切る。



「――――って、おいおい…………なんだ、あの小娘……騎士の癖に()()()()()()()じゃねぇか……!? ギャハハハハ、受けるぜー……お家に忘れて来たのか?」



 だが、レティシアの手には何も握られてはいない。それどころか、腰にも背中にも騎士の証たるつるぎの影は無く――――彼女は武器も持たず丸腰のまま、【ケルベロス傭兵団】と対峙していた。



「じゃあ何か? お姫様がわざわざ――――俺たちに身体を売りに来たのか? さいこーだぜ、まじで受けるわ……!」

「かわいいところあんじゃねぇーか、レティシアちゃん……! そう言う事なら……俺たちがやさし〜く、エスコートしてやるぜ――――ぎゃっはははは!!」

「てめえ等、気ぃ抜くんじゃねぇ! 相手は曲がりなりにも王族だ――――どんな固有ユニークスキルを使ってくるか分かんねぇぞ!!」



 端から見れば無謀むぼうの極み、傭兵たちから見ればねぎを背負ったかもも同然――――誰も彼もが、丸腰のレティシアをあざける。


 ただひとり――――彼女の様子をつぶさに観察する【ケルベロス傭兵団】の頭領、グレイヴを除いては。



固有ユニークスキル発動――――【七天の王冠(イリス・コロナム)】!!」

「――――なんだ? 姫騎士の両手に炎の剣とかみなりの剣が出てきたぞ……!?」



 姫騎士レティシアが女神アーカーシャより授けられた固有ユニークスキル――――【七天の王冠(イリス・コロナム)】。火・水・風・土・雷・光・闇の七属性の魔力を自在に操り、それらの魔力を形ある武器として形成できる高位の術式。


 その類稀たぐいまれなるスキルを以て、彼女はこう言われる――――“七天の姫騎士”と。



「打ち払え炎雷えんらいの剣――――“炎雷撃えんらいげき”!!」



 目の前のくうぐレティシアの炎と雷の剣――――しかし、その斬撃によって発生した魔力の力場りきばまたたく間に傭兵たちの居る場所へと伝播でんぱし、荒ぶる炎と鋭いいかづちが広範囲に降り注ぐ。


 その圧倒的な攻撃を前に、荒くれ者の傭兵たちは逃げる暇さえ与えられずに、彼らを正確に狙った炎に焼かれ、雷に撃たれ、次々と倒されていく。


 たったの十秒――――先ほどまで愉快に宴が執り行われていた集会場で意識を保っていたのは、人質の村娘たちと、傭兵団の頭領グレイヴと、姫騎士レティシアを残すのみとなった。


 

「――――ほう………まさか、レティシア姫がここまでの逸材だったとは――――恐れ入る」

「わたくしを見くびらない事ね、グレイヴ……! 我が王国の誇り――――【聖騎士パラディン】アインス=エンシェントから学んだ剣技……貴方に見せてあげるわ!」



 倒された傭兵の数は30人――――その数の男たちをたったの一撃で粉砕し、姫騎士レティシアは集会場の最奥に構えるグレイヴへと燃える剣の切っ先を向ける。


 残る“悪”はただひとり――――眼前の騎士を倒せば、傭兵団は壊滅する。


 そう、姫騎士レティシアは思っていた。



「おやおや……随分ずいぶんと騒がしいですね――――グレイヴさん?」

「あぁ……あんたか――――【死の商人】……!」

「――――ッ!?」



 その人物が姿を表すまでは。


 黒いローブと白い仮面に身を包んだ謎の人物――――【死の商人】と呼ばれた闇の仲立人ブローカー。そのかたわらには顔まで覆った黒い甲冑に身を包んだ騎士がひとり。



「それで……我が【ケルベロス傭兵団】の一番の依頼人クライアント様が何用で?」

「新しく仕入れた“商品”を見に来ましたよ、グレイヴさん……。あぁ、村娘の何人かは既に手を付けているのですね…………いけませんねぇ、これでは売り値に()()が付いてしまいますよ?」

「硬いことを言わないでくれませんかね? 部下に褒美の一つでもやらんと士気に関わるもんで……!」



 姫騎士レティシアを尻目に淡々と進められていく商談――――まるで、彼女が居ることなど()()()()()()()()()()()、ふたりの会話は続いていく。



「我が王国最大の闇商人……何故、こんな所に……?」

「それで――――あちらの気品溢れる彼女は、どのような“商品”なのでしょうか、グレイヴさん?」

「――――わたくしを……商品扱いしている……のですか……!?」



 それもその筈――――【死の商人】にとって、姫騎士レティシアは、単なる“商品”の一つとしてしか認識されていないのだから。



「あちらの生娘きむすめは――――レティシア=エトワール=グランティアーゼ…………最高級の品物しなものです」

「ほぉ……グランティアーゼ王国の第二王女ですか……! これは素晴らしい…………高く売れそうですね…………!」

「〜〜〜〜、ふざけるなっ!! 誰が貴様たちのなぐさみ者になどなるかっ!!」



 侮辱ぶじょく嘲笑ちょうしょう――――規律を重んじる姫騎士レティシアにとってこの上ない屈辱に、彼女は思わず声を震わせる。


 姫騎士レティシアはこの場所に囚われた者たちを助けに来たのだ。決して、下賤げせんやからの慰み者になりに来たわけでは無い。


 魔力で編んだ炎といかずちの剣を再び構える姫騎士レティシア――――正義にじゅんずる彼女にとって、目の前にいる【死の商人】は倒さなくてはならない“悪”そのもの。逃げる訳にも、逃がす訳にもいかない。



「ん〜〜、どうやら彼女は好戦的なようですね……」

しばしお待ちを…………俺が黙らせて来ます」

「いえいえ……貴方に任せて、せっかくの王女様を傷物キズモノにされては価値が下がってしまいますのでね…………今回は、“彼”に任せましょう……!」



 正義に燃える姫騎士に、邪悪な魔の手が差し向けられる。騎士となり、たったの二週間で多くの正義を成した姫騎士が直面するは――――未曾有みぞうの悪意。



「それでは…………貴方の出番ですよ――――【黒騎士】さん……()()()()()の性能、存分に堪能たんのうなさい……」

「――――――心得た」

「王国に蔓延はびこる“悪”は――――わたくしが全て滅する!!」



 姫騎士レティシアの前に立ちはだかるは謎の黒騎士。この数分後――――彼女は地面にひれ伏す事となる。


 死を取り巻く邪悪なる商人が描くは、踏み入れたもの一切をとろかす快楽の園――――行き着く先は快楽流転の極楽浄土、死したる亡者が堕ちる永久牢獄。


 これは、囚われた王女を救う――――“災いを引き起こす者たち”の戦いの、その序章プロローグ


 【死の商人】メメントが織り成す“死”をめぐる演劇――――ここに開演。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


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