第56話:少年1人と少女4人、旅路は続き、恋路は果てしなく
「いや〜、ラムダさんって強いんだね! 僕、感動しちゃった! こう……魔物たちを“バコーン!”って倒して、すっごく怖そうな魔王を“ドッカーン!”ってやっつけて…………とにかく凄かった!」
「語彙力が無さすぎる……」
迷宮都市を離れてから5時間程――――時刻は昼頃、俺たち【ベルヴェルク】は小さな湖の畔をのんびりと歩いていた。
はずむ話は当然、先の深淵牢獄迷宮での事件の事。
俺の右腕に抱きついたミリアリアは、とにかく俺を褒めちぎりたいのか、目を輝かせながら彼女目線での俺の勇姿を語っている――――が、語彙に乏しいせいでどうにも要領を得ず、『ラムダさんはすごい』の感想しか俺は得られなかった。
「そんなに謙遜しなくて良いんですよ、ラムダ様♡ だって、ラムダ様は【深淵牢獄迷宮】でミリアリアさんを救った“英雄”なんですから…………わたしも誇らしいです♡」
「あ、あぁ~……そうだね。うん、頑張った方だと思うよ、俺も、みんなも……あはは……」
「これは……わたしからラムダ様に…………あつ~い“労い”をして差し上げなければなりません…………ねぇ♡」
「オリビア様が雌豹の顔になっております…………と、コレットはラムダ様に釘を刺して置きますね〜」
ミリアリアとは反対側、俺の左腕に抱きついたオリビアもまた必要以上に俺を褒めちぎって、露骨に色っぽい仕草で何かをアピールしている。
正直、俺の左腕が合金製の義手で無ければ、もう少しだけオリビアの肌の柔らかさを堪能できたのだが――――なんとなく残念でもあり、ホッとしたような、複雑な気分だ。
そして――――
「へいへーい、ノアちゃん今日も絶好調♪ さぁ~て、次の目的地は何処でしょー? まだ見ぬ異郷の地に胸を高鳴らせ〜♪ 次はできたら、観光都市が良いなーとラムダさんにリクエスト〜♪」
「なに歌ってんの、このアホな天才は……?」
――――ノアはあいも変わらずマイペースに次の目的地に胸を躍らせながら、俺の前で小躍りしている。
あの時、【深淵の孔】でリティアと対峙した時の険しい雰囲気が嘘だったように、ノアはだらしない表情を俺に見せている。
気絶したノアを乗っ取って現れた“人形”と名乗った謎の人物、魔王アワリティアに組みしていたと思われる【死の商人】と呼ばれた謎の人物。
いくつかの『謎』は残ったが――――それでも、ノアやみんなが楽しそうにしてくれれば、俺は満足である。
「はいはい、皆さまそろそろラムダ様からお離れくださいませ……! それ以上、ラムダ様にベタベタして、貞操を狙おうものなら――――コレットは皆さまを“悪い虫”としてツヴァイ様に報告しないといけませんので……」
「「「…………は〜い、すみませんでしたぁ〜」」」
「聞き分けが良い…………いつの間にコレットが主導権を握ったんだ……?」
「ラムダ様も、貴方様はエンシェント辺境伯家の血を引く男子! 御正室にせよ側室にせよ、無闇に女性にお手付きをされるのはお控え下さいませ! よろしいでしょうか、ラムダ様〜?」
「…………はい、善処します……!」
「まったく……これは前々から計画しておいたラムダ様への夜伽も、コレットが細かく管理する必要があるみたいですね……」
流石はツヴァイ姉さんが直々に指名したメイド――――コレットはピシャリと俺やノア達を諌めて来た。
いつものほほんとしたコレットに怒られて萎縮したのか、ノア達は三人仲良く俺の少し後ろに並んで歩き始め出した。
「それで……僕たちは何処に向かっているのかな? ノアさんじゃないけど、僕も次の目的地は気になるかな~!」
「えぇ~っと、次の目的地は――――“享楽の都”【アモーレム】ですね」
「まぁ……王国随一の娯楽都市ですね! これは……わたしもラムダ様と大人の階段をうっかり登ってしまうかもしれませ――――ね"ッ!?」
「オリビア様〜……! 仮にも【神官】ともあろうお方がなんとはしたない……」
「オリビアさんがコレットさんの尻尾で打たれて吹っ飛んだ……」
「やれやれ……騒がしくなるなぁ……」
俺たちの旅路は続き、少女たちの恋路は果てしなく遠く。
次の目的地は――――“享楽の都”【アモーレム】。金銭が飛び交い、暴力が蔓延り、快楽がとめどなく溢れる享楽の楽園。
そこで待ち受けるのは、果たしていかなる出来事なのだろうか――――今の俺には、想像すらつかなかった。




