葛原家の倒れた父と元気な母
『紫煙伝-清雲高校怪奇事件簿-』を書かれております『サカキショーゴ』さんより11件目のレビューをいただきました!
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葛原家の玄関に入ると母親が2人を出迎えた。
「あら? もう帰ってきちゃったの? せっかくだからデートしてきたら?」
「この度は私の失態でお嬢さんを一晩預かってしまいました。大変申し訳ございませんでした。」
「違うの! せんせぇが霊力を切らせたもんだから気を失って鬼村さんとイバちゃんさんが美鬼さんだったから私漏らしたりしてないんだから!」
「葉子……意味が分からないわよ? つまり阿倍野先生が体調を崩したせいで鬼村さんに助けてもらったってことね?」
さすがは母親である。意味不明な葉子の言をきちんと理解している。
「おおむねその通りです。申し開きもございません。今回の分には時間外手当をしっかり付けておきますので。」
「そうですか。それより阿倍野先生、実は現在うちの主人が寝込んでるんです。だから……ねぇ?」
そう言われても清には何もできない。そそくさと帰るのみなのだが……
「えー! せんせぇもう帰るんですかぁ!? ママのカレー食べて行ってくださいよぉー!」
カレー。飲んだ翌朝の食事としては少々重いようだが。
「カレーですか! ぜひいただきます!」
たまには清も家庭の味が恋しいこともあるのだろうか。
「先生? 食べるのはカレーだけですか? 熟れた果実はいかがですか?」
「はは……カレーだけいただきますね。」
「それよりパパはどうしたの?」
「ちょっと疲れてるみたいね。気にしなくていいわよ。ちょうど昨日のカレーが余ってるからちょっと待ってなさい。」
食事をしながら昨夜の事情を説明する清。母親が昨夜の情事を説明することはない。
「大変だったんですね。それにしても葉子ったらだらしないわね。絶好のチャンスだったのに。」
「うん。せっかくせんせぇが弱ってたのにね。鬼村さんちのお風呂って大きかったよ。それに私、薪でお風呂を沸かしたんだよ!」
「ま、薪で!?」
さすがの母親も驚いたようだ。自分の両親どころか祖父母、曽祖父母まで遡っても薪で風呂を沸かせた経験者などいないだろう。
「よ、よくできたわね……」
「うん、鬼村さんが教えてくれたんだよ。火って小さいものから燃やしていかないと上手く燃えないんだって。」
鬼村にしては面倒見がいいんだな、と清は意外に思っているが実際は違う。配下に命じて幻覚を見せただけである。
その幻覚の中で風呂の焚き方をレクチャーしただけなのだ。便利な幻覚もあったものである。さながら実際に体験できる動画授業と言ったところだろうか。
カレーを食べ終えた清。満足そうだ。
「ご馳走様でした。では私はこれにて。お父さんにもよろしくお伝えください。」
「えーせんせぇもう帰るんですかぁー?」
「日曜日だからな。君はゆっくり勉強でもするんだな。受験生だもんな。」
「もぉー! せんせぇの意地悪! 勉強なんて冬休みになったらやりますぅー!」
もうすぐ冬休み。正月だって来る。清もそれなりに忙しくなる時期である。だから本来ならば今日はしっかり休むつもりだったものを。朝寝して、朝酒して。昼からはどこかの女とデートも悪くないと考えていたのに。
ちなみに葉子の学校の体育教師、石神とは連絡先を交換していない。お互い憎からず思っているが、二人の道が交わることはあるのだろうか。
「先生は今からまだお仕事ですか? 大変ですね。」
「ええ、年末は色々ありまして。では次回は今週末だな。待っているぞ。」
「はいっ! イキますぅ!」
なお、冬休みは葉子を連れた仕事が多くなる予定だ。除霊だけでなく地鎮や祈祷にも同行させるつもりである。
気がかりなことはイバちゃんこと異薔薇城童子である。なぜ狂都にいるはずの彼女がこの時期に邪魔口にやって来たのか。異薔薇城にしても鬼村こと夜叉童子にしても清の手に負える相手ではない。くれぐれも暴れないでくれと心中で祈るのみだった。
とりあえず酒をたっぷり買って改めて挨拶に行くべきなのは間違いない。来週末の予定を組み直す必要が出てしまった。またあの道を歩くのかと思うとげんなりする清だった。




