ヒコットランドの支配者
『異世界で物理最強してますが底辺力も最強でした』を書いておられるカバ太さんより最初のレビューをいただきました!
ありがとうございます!
ハニービーを出た清。ゴキゲンな気分で帰ろうとしていたところをボッタクられて少しプンプンしていた。店を出た後になって、ほんの少しだけ。
酔って気が大きくなっているため夜間でも容赦なく電話をする。相手は……
「もしもし?」
「あー師匠ですか。ヒコットランドのことで相談がありまして。」
「おー、どうした?」
「ヒコットランドってタイラーさんが仕切ってるじゃないですかぁ? 師匠ならタイラーさんに口利きができますよね?」
「そりゃできるけどよぉ。どうした? 何がしてぇんだ?」
「いやーボッタられてムカついたんですよ。店を出た後になってイラついてきまして。」
「まったく……暴れるなよ。タイラーには俺から言っておいてやるからよ。お前はさっさと帰れ。分かったな。」
「分かりました……」
帰れと言われて帰れるのか?
清は帰るタイプだ。師匠、唐沢から言われたということもあるのだが、唐沢に話したことで落ち着いたのだ。
自動運転に任せて途中の街、ブラックビレッジで温泉に入るほど落ち着いている。
「ふう。九十九神か……手の出しようがないな。薪がないって当たり前だろうに。」
清にしてみれば渡海市は街中だ。だから薪が落ちてなくても不思議はない。しかしあの九十九神にしてみれば? 彼は昔そこで薪を拾っていたのではないのだろうか?
どちらにしても校長の情報待ちだ。ほとんどタダ働きなので積極的に仕事をする気などない。
もう帰るのも面倒になった清は適当な温泉宿に泊まることにした。そんなことなら初めからお持ち帰りを狙えばよかったものを。
仕事以外では行き当たりばったりで行動することが多いため、このようなことがよくある。明日も忙しいくせに遠出なんかするから。
それでも清は、孔雀丸は美味しかったなぁー、また行ってみようかなぁーなどと考えながら眠りについた。
翌朝、目を覚まして宿で朝食を取ろうとしたらメニューがやたら豪華である。
「あれ? 女将さん、こんなコースを頼みましたっけ?」
「ええ、サービス期間中なんですよ。しっかりお召しあがりくださいね。」
「へー。そうでしたか。いただきますね。」
量も多いが味もいい。朝から幸運と言っていいだろう。
しかも精算をして帰る段になると。
「お客様はご来店10000人目ですので無料です。それからこちらは次回のご優待券です。無料でペア宿泊ができますので、ぜひご利用くださいませ。」
「へー、それはありがとうございます。ぜひまた来ますね。」
さすがの清も何かおかしいと感じている。その時、清の携帯が鳴る。知らない番号だ。
「はい、阿倍野です。」
「突然電話をして申し訳ない。私はボビー・タイラーと言う者だが。」
「あぁどうもタイラーさん。お噂はかねがね。わざわざお電話いただきまして恐縮です。」
「何やら昨夜ヒコットランドで不愉快な思いをさせたそうじゃないか。ほんのお詫びをと思ってね。」
「それには及びませんよ。もういただきましたので。おかげでまた楽しくヒコットランドに行けそうです。」
「そうか。そう言っていただけると私も嬉しい。ぜひまた来てくれたまえ。今度はハニービーではなく、うちの直営の店にな。」
「それはどうも。ありがたくお呼ばれいたしますとも。それでは失礼いたします。」
タイラー一族。ヒコットランドのみならず周辺海域や山域を根城にする魑魅魍魎をまとめている。隠れ里に住んでいた人間なのに魑魅魍魎との共存を目指して暮らしていたら、面倒見が良すぎていつのまにかそうなってしまった一族だ。鬼村達に比べたら面積的には大したことはないが、勢力的には邪魔口を四分する一角である。
ちなみにボビー・タイラーは一族の現場監督的なポジションだ。
そんな相手なものだから清の溜飲はすっかり下がっていた。師匠のコネでタイラー一族の長、モーリー・タイラーに会ったことはあるが、今回新たなパイプをゲットしたことになる。あちらとしても唐沢の弟子である清からボッタクってしまったことは大きな失敗であろう。いくら直営ではないとは言え、ヒコットランドでの出来事なのだから。きっとあの店、ハニービーは可哀想なことになるだろう。
ところで、モーリー・タイラーだが、先祖代々日本人である。外国の血など入っていない。
この時代、カタカナの名前どころか苗字を付けることも自由なのだが、その上欧米風に名前を先に名乗ることも自由である。
タイラー一族は面倒見が良い上に革新的でもあるのだ。




