27
ダリアが睡眠に良いというお茶を入れてくれて、私はそれを飲んでベッドに横になった。
薄いカーテンで遮った陽の光は私のベッドに燦々と降り注ぐ。そして背中に感じるダリアの視線。
「眠れるわけ無いじゃない! そうだわ。ノワールと森へ行くわ」
「お嬢様。森へ行く際はアルトゥール様にお声掛けすると約束しております」
「どなたと約束していると言うの?」
「勿論、アルトゥール様とです!」
「もうっ。ダリアは誰のメイドなのよっ」
「エヴァンジェリーナ様のメイドです」
その顔は少し不満げだ。我儘な私よりも、アルトゥールの方が優しくて良いご主人様だものね。
でも、私の方がダリアとの付き合いは長い。
「森へ行けばお昼寝出来るわ。アルトゥール達と遭遇しないようにこっそり行くから、ダリアも協力して。貴女が頼りなの!」
「私が頼り!? そそそそれはっ。頑張らせていただきますっ!」
やっぱり、ダリアは素直で良い子だわ。
アルトゥールは今、庭でユストゥスと剣の稽古をしているらしい。ノワールのいる馬小屋へ直行するつもりが、いつの間にか庭が見える二階のバルコニーに私は足を運んでいた。
窓を開けると、聞き慣れない金属音が耳に届いた。
ついでに、ユストゥスの半泣きの声。
「ひぃっ。兄様っ。魔力増してませんかっ!?」
「さぁなっ」
楽しそうに剣を交える二人。
あんな風に剣なんか振り回して何が楽しいの分からない。
分からないと言えば、アルトゥールは、どうして私なんかが良いのかしら。
身だしなみなんて気にしないし、人から言われなければ食事を摂ることも忘れるほど。
眠るのだって森で良い。衣食住全てズボラな私なのに。
アルトゥールの生活は規則正しいし、最恐の辺境伯の名に恥じない程、腕が立つのは素人の私でも分かる。見た目も綺麗だし、あんな完璧な優良物件、私には合わない。
「お嬢様。アルトゥール様に見惚れていますか?」
「そ、そんな訳無いでしょうっ。眠くてボーッとしていただけよっ」
「むふふっ。ダリアは騙されませんよ! ――あら? どうされたのでしょうか……」
バルコニーの手すりの格子の隙間からそっと覗き見ると、二人は急に手を止め剣を腰に戻していた。そして何故かユストゥスは素早い身のこなしで低木の裏に隠れてしまった。
「かくれんぼかしら?」
「あっ。お嬢様っ。コルネリウス様です!」
ダリアの指し示す先には、魔導師の女性と並んで歩くコルネリウスの姿が見えた。
何故またいるの? 本当に懲りない人。
「お父様にお伝えして、追い出してちょうだい」
「旦那様は王都へと出掛けております。誰があんな人を屋敷に入れたのか……正式な書状でももって来やがったのですかね」
アルトゥールはコルネリウスへお辞儀をし、隣の女性がそれに答えていた。
「突然の往訪をお許しください。私は魔法学科の教官のサイリスと申します。この屋敷に魔法の才をお持ちの方がいらっしゃるとの事で、審査に参りました」
サイリスは真っ白な紙を胸元から取り出し、悠然と掲げた。そしてまた言葉は続ける。
「これは魔法学科への強制入学証になります。この証書に名前を刻むことができるのは、選ばれた者だけ! とても名誉なことなのですよ!」
「サイリス殿。早速だが、この屋敷で魔法を使える者を審査してくれ」
「はい。審査対象者は、三人いらっしゃいます。目の前のこちらの男性と、そこの低木の影にいらっしゃる方。それから――二階のバルコニーにいらっしゃる方です!」
サイリスに視線を向けられ、私はダリアの後ろに隠れた。コルネリウスの奴、結構ちゃんとした人を連れてきたみたい。これって……バレたら強制入学!?
「ほほぅ。まさかそんなに魔法使いだらけだとはな」
「本当に驚きですわ。アルジャン様は隣国の方とお伺いしておりますので、他の二名の方と面会させて頂けますか?」
「面会して、魔法が使えると分かれば強制入学なのですか?」
アルトゥールが尋ねると、サイリスは笑顔で首を横に振った。
「一応、本人の意思も確認させて頂いた上で、私が判断いたします。国の為になる人間に育てられるか、又はその逆で危険人物でないかを審査します。今すぐとって捕まえて連行します、とかではありませんので、ご安心ください」
「……そうですか」
「では、面会させていただきます!」
サイリスが手をパンっと叩くと、私はいつの間にか芝生の上にいた。
アルトゥールのブーツが目の前に見える。
顔を上げたらクマがバレてしまう。
私はどうしてか咄嗟にそっちを心配した。
「やはり、エヴァンジェリーナは――。お、お前が何故ここにいる!?」
コルネリウスは私よりも、その隣に座り込んだユストゥスに驚き声を上げた。ユストゥスも好戦的に睨み返している。
あら。この二人、知り合い?




