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43 生身の本物です

いつも読んでいただきありがとうございます!

気付いたらブックマークが2500、総PVが50万を超えておりました......

読者の皆様に感謝を忘れず頑張っていきたいと思います。

 

「うわ……マジかよ……」


 四方八方どこを見ても人、人、人。


 某ネズミの王国程ではないがそれなりに大きい遊園地である。

 夏休みの遊園地、この単語だけでも人混みが連想される。もちろん予想はしていた。だが何故か悪い予感というのは的中するものだ。

 顔を引き攣らせている楓と、心の底から嬉しそうな笑顔を見せる夕月。周りから見るとなかなかにちぐはぐに映る。まあこれ以上無いぐらいに密着しているため恋人同士には見えるだろうが。


 同じ学校の生徒も来ているんだろうな……と想像する。勿論その想像も大当たりである。夏休み後に起こる一悶着、その火種となる。無論そんなことは2人共知る由はない。


 あまりの人波に狼狽していると腕を引かれた。


「……まずは……どこ行く?」

「どこ行くって聞かれても初めて来たからわからねえよ」


 え? マジで? みたいな顔で見つめてくる。失礼な奴だ。


「じゃあジェットコースター。あれは少し楽しそうだ」


 その単語を聞いた途端夕月の身体はビク! っと反応した。


「……却下」

「あ? なんでだよ?」

「…………」


(ん? もしかして)


「もしかして怖いのか?」

「……こ……怖くない……し!」


 決まりだ。どうやら絶叫系の乗り物は避けたいらしい。普段振り回されているので、絶好のチャンスだとばかりに畳み掛ける。


「まあそうだよな。高校生にもなってジェットコースターが怖いとか。あり得ないよな? 小・中学生じゃないんだし」

「…………行こうでは……ないか」


(ははは! かかったなバカめ!)


 楓は如何にも悪役といった顔でニヤニヤ笑う。夕月は頰を膨らませて若干ご機嫌斜めだ。

 最後尾に並ぶ。待ち時間は進み具合から逆算すると15分程度だろうか。2人とも無言で並ぶ。


 暫く待っているとあと1組というところまで来た。あまりに隣が静かなので顔色を確認する。

 真っ青、いや真っ白が正しいか。明らかに顔色が悪い。手も微かに震えている。


(はぁ……これは俺が悪いな)


「俺達は他に行きますんで前へどうぞ」


 後ろで順番待ちしていたカップルに一言告げると夕月と一緒に列を離れる。隣からきょとんと見つめてくる。


「……いいの?」

「おまえが笑ってねえと意味ねえんだよ。悪かったな」


 途端に弾けるような笑顔を見せる。ギュッと腕にしがみつくと楓にしか聞こえないように小声で呟いた。


「…………そういう……ところ……大好き」

「そうかよ」


 ぶっきらぼうな態度だが、そっぽ向いた顔は赤く染まっている。それがあまりに愛おしく見えて堪らなくなってしまい、夕月は手を伸ばすとその赤い頬をツンツンと指で触れる。


「なんだよ。触るな」

「……嫌です」


 そんな2人の幸せそうな様子を見ていた周囲は何故かダメージを負っている。大ダメージだ。


『なにあのカップル……男の子は怪我してるけどイケメンっぽいし、女の子は意味分からないぐらい可愛いし』

『女同士で遊園地……ウチらって生きてる意味あるの?』

『もう無理……見てられない。吐きそう』


 知らないうちに無数の心を抉っていることに2人は気付かない。特に夕月の幸せそうな顔は男女問わず視線を集めていた。


「なんか凄え見られてるぞおまえ」

「……そう?」


 不思議そうに首を傾げる。


「さて、改めてどこ行く? 絶叫系以外だろ?」

「……じゃあ……アレ」

「おまえそういう系は大丈夫なのか。意味わかんねえな」


 指差した先はお化け屋敷。絶叫系はダメなのにホラーは大丈夫という不思議少女。本人が行きたいと言っているので止めないが。


 てっきりまた待たされるのかと予想していたが、意外にも待ち時間は無し。タイミングもよかったのだろうか。係員に案内されて早速入り口から中に入る。


「……きゃー……怖い」


 突然全力で抱きついてきた。どうやらこれがやりたかっただけらしい。


「まだ何も出てきてねえだろ! しかも棒読みじゃねえか!」

「…………きゃー」


 もう好きにさせることにした。そのうち飽きるだろう。そうこうしていると突然……


 上から生首が目の前まで降りてきた。




 ガン!




「あ……やべ」


 反射的に右ストレートを叩き込んでしまった。物凄い勢いで髪を振り乱しながら床を転がる生首。多分他の人が見たらこの光景のほうが怖い。


「…………楓」

「生首が悪い」

「…………」


(こっち見るなよ)


 床を転がる生首と目が合った。心なしか睨まれている気がする。それが気に入らなかったので軽く蹴っておいた。


 仕掛けは様々あり、随所で夕月はビクビクしていた。楓は欠伸をしていた。

 それにしても最近のお化け屋敷はなかなかに凄い。とは言っても入ったことは無いのだが。


 造りが精巧である。血の一滴に至るまで拘りが感じられる。怖いとは思わなかったが感心していた。


 特にこの顔など本物にしか見えない。


 目の前に現れた人形の頭部を鷲掴みにする。髪触り、体温、再現度が半端ではない。


「お、お客様!?」

「あ? 凄えなマジで。話すのかこれ」

「本物です。生きています」

「…………スンマセン」


 頭を下げると落武者さんは苦笑いしている。その顔ですら妙な迫力があるので脱帽だ。

 隣の少女は当初は怖がっていたものの、楓が終始この調子なので恐怖を忘れてクスクスと笑っている。


「なんで笑ってんだよ。ほら怖がれ。ほら!」

「……おばけさん……楓のせいで……怖くない」

「なんで川柳みたいになってんだよ。おかしいだろうが」

「…………冤罪」


 結局夕月は終始笑顔のままお化け屋敷を踏破した。楓としては何故か納得できない。




 出口に立っていた係員さんは楓に掴まれた落武者の人であった。


「おつかれさまでした! いやあ、何年もやってるんですけどいきなり頭を掴んだのはあなたが初です」


 愛想のよさそうな笑顔を向けてくる。怒ってはいないようでほっと胸を撫で下ろす。


「本当にすいませんでした。次は気をつけます」

「ははっ! 気合い入れてメイクしてお待ちしております。彼女さんかな? また2人で来てくださいね」

「……はい……ありがとう……ございます」


 愛想のいい落武者さんに見送られながらその場を後にする。嗤う落武者……ある意味これが1番怖かった気がする。




「で、次はどこ行くんだ?」

「……混む前に……早めに……お昼」


 ピークの時間をズラす作戦。なるほどさすがに賢い。昼ということは弁当持参なのだろうか。ドヤ顔で出してくるのは実は密かに楽しみにしていた。


 だが想定外の事が。

 

「…………あ」

「どうした?」

「…………お弁当……忘れた」

「そうか。ならフードコート行くか」


 早起きして頑張ってくれたのだろうか。俯いて残念そうな顔をしている。苦笑しながら頭を撫でた。


「今日の夜は時間あるのか?」

「……うん……どうして?」

「帰り道どうせ夕月の家通るだろ? ならそこで弁当回収して俺の家に来いよ。夜食べればいいだろ」

「…………うん!」


 一転して笑顔になるとぴょんぴょんとスキップする勢いだ。


(よく考えたら弁当だけ貰えばよかったか。夕月が来る必要ないよな)


 そんな考えが頭を過ぎったが、夕月の嬉しそうな様子を見ていると言い出せそうにもなかった。


 まあいいか。と思考を止めた。

面白いと感じていただけましたら、下の評価欄から評価いただけますと幸いです。


それを励みに頑張ります!

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