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41 ノーカウントノーカウント!

思ったより早く投稿できてしまいました。


たくさん感想いただいてありがとうございます。後ほど返信させていただきます!

 

 スパーリングを終えてグローブを外す。一気に気が抜けて床に座り込んだ。すると慧がゆっくりと近付いてきた。


 楓の前に立つと手を差し出す。


「楓くん。ありがとう! よくわかったよ。やっぱり君は僕と同じだ……きっとこれからも何度もぶつかる」

「そうだな。じゃあ何度も骨をへし折ってやるよ」

「はははっ! 無理だね。もう触らせない」


 慧は上機嫌だ。心の中はきっと楓と同じで倒すべき敵が明確になった喜びだろう。

 互いに競い合って上へ上がっていく、だが頂点に立つのはたった1人。それは俺だと両者とも譲らない。


 慧は思い出したように口を開く。


「そういえば君のスタイルってフェザーの天童さんに似てるよね。意識してるの?」

「特に意識はしてないが何度も映像見てたからな。影響はあるかもしれない」

「ふーん。そっか。まあ破壊力はどう考えても君のほうがあるよ。1発で骨もってくとかどうかしてる」


 脇腹を押さえながらそう話す慧は現在進行形で激痛が走っている。

 だが痛そうな素振りなど微塵も見せない。俺はまだやれるぞ! と態度で示す。白旗は決して振らない。


「理不尽な拳だよね。たった1発で身体の自由を奪っていくんだ。でもね……だから楽しい。そんな奴を正面から叩き潰すんだ」

「ふん、言ってろ」

「今日は来てよかったよ。あの記者連中は黙らせておくから安心して。あまり目立ちたくないんでしょ?」


 そこは楓も気になっていた。何度かシャッター音も聞こえたため、会長に頼んで釘を刺してもらわないとなと思っていた。


 だから慧の申し出はありがたかった。まあ本音としては、自分の失態を記事にされたら堪らないといったところだろうか。


 しばらく談笑していると夕月が近付いてきた。


「…………血だらけ」

「ほっとけ」


 慧はニヤニヤしながら夕月を見つめる。


「君の彼女さん? とんでもなく可愛い子だね。相手いないなら僕と食事でもどう?」


 夕月は強引に楓の腕にしがみつく。


「……彼女……です」

「そっか! それは残念!」


(女なんか欠片も興味ねえくせによく言うな)


「……あんまり夕月をからかうなよ」

「あ、やっぱわかっちゃった? じゃあそろそろ時間みたいだから僕は行くね。またね楓くん。次は()()()()

「……ああ。じゃあな」


 ひらひらと手を振りながら去っていった。次に会う場所……全日本新人王決定戦。

 楓も慧も同じことを考えていた。そして多分それは合っている。その確信があった。


 強烈な才能を見せつけて駿河慧は去って行った。プロになってキャリアを重ねたらどんな怪物になるのだろうか。そんな想像を駆り立てる。

 だがそれは楓も同じこと。今日のこの1戦を見た者には2人の輝かしい未来が見えただろう。






 ◇ ◇ ◇



 病院に行って傷口を縫ってもらった。怪我の程度としてはそれぐらいで済んだので、今回は顔は比較的綺麗である。慧と戦った翌日はかなり腫れたが、それも治まって元通りである。


 今は自宅でテレビを見ながら休養しているのだが……


「鬱陶しい。どけ」


 楓の視線を遮るように夕月は正面に立つ。手に持っているのは遊園地のチラシ。

 ニュースが見えないので脇の下を持って移動させるのだがまた元の位置に戻る。

 頰を膨らませて抗議してくるがそれを軽く流していた。何枚か同じチラシを持っているらしく今度はテレビの画面に貼り始めた。


「おい! 見えねえだろうが!」

「…………見よ」


 楓の目の前でチラシを広げる。


「見た。これでいいだろ、どけ」

「…………むー!」


 背後に回り髪を引っ張ってくる。これが結構痛い。


「なんだよ! 遊園地とか人多いし面倒だろうが」

「……まだ……デート……してない」

「プール行ったろ」

「……あれは……ノーカウント」


 こうなった夕月はテコでも動かない。それは今までのことからも重々承知していた。だが遊園地……楓としては行きなくない場所トップ3に入る。


 人混みは酷いし、乗り物は順番待ちで並んでるし、そもそも何が楽しいのか理解に苦しむ。楓の頭の中で遊園地は、時間の無駄スポットとして位置付けられている。


「他の場所にしろよ」

「……例えば?」

「映画」

「……どこの……映画館?」

「ここ」


 ますます夕月はご機嫌斜めになってしまったようだ。背中をバシバシと叩かれる。全く痛くはないが。

 自宅で映画鑑賞のどこが悪いのかわからない。


 とりあえず日課なので腕立て伏せを始める。夕月は楓の上でちょこんと正座している。


「……遊園地」

「行かねえ」

「……遊園地」

「行かねえ」

「…………」


 背後から全力でしがみついてきた。女性特有の柔らかさが背中に伝わってくる。


「やめろ! おい!」

「……遊園地」

「わかったよ! わかったから離れろ!」


 こぼれんばかりの笑みを浮かべると「……最初から……そう言えば」と正座し直した。


 それはそうと、デートに行くのはいいのだが着ていく服が少ない。陽から夏祭りの日に貰ったものはあるが……今回はそれでいいとして今後に不安が残る。

 本音としてはジャージ&ジャージがいいのだが夕月は納得しないだろう。


(面倒くせえ……でも言わないとどうにもならねえしな)


 意を決して尋ねる。


「なあ夕月。遊園地行くのはいいとしてよ、行きでも帰りでもどっちでもいいから、何か安い服見繕ってくれねえか?」


 ブンブンと首を縦に振っている。首が取れそうだ。


「……楓の……服選び」


 何故か顔を赤らめて背後に回ってきた。


「なんだよ急に」

「……見ないで……恥ずかしい」


 たまに見る事がある夕月のこの反応は何なんだろうか。真意が見えないため毎回反応に困る。


 どうしたもんかと途方に暮れる。無言ではあるが気まずいとか、そういった類のものではないので害はない。恥ずかしいようなむず痒いような……反応に困る。


「服とかよくわかんねえけど、夕月の隣にいても大丈夫なぐらいには仕上げてくれ。おまえ可愛いすぎるんだよ」


 更に顔が赤くなったのでもう呆れるしかなかった。


面白いと感じていただけましたら、下の評価欄から評価いただけますと幸いです。


私のモチベが上がります!

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