34 小日向夕月
私も書いててきつかったです。
そんな内容は深夜にこっそり上げてしまいますw
きちんとハッピーエンドに向かいますのでそこは安心して見ていただけるとうれしいです。
気が付いた時には私は1人だった。
朝1人で起きて、お弁当を作って、学校に行って、勉強をして、帰ってきたら自分の分のご飯を作って、家族皆が寝静まった後にお風呂に入って、お掃除をして寝て、また朝起きる。
そんな毎日。
兄の征治は優秀だった。会社の後継者として大いに期待され、その期待にも見事に応えて見せた。
全てが完璧、しかも男として産まれた。両親もとても喜んだ。
「あの子暗くて気持ち悪いわ。誰に似たのかしら」
「アレは必要ない。征治がいればいい」
「あんなのが妹とか恥ずかしいな。出来の悪い身内は恥でしかない」
夕月は頑張った。
運動は苦手だったが勉強を頑張った。褒めて欲しかった。愛して欲しかった。笑って欲しかった。抱きしめて欲しかった。
――私も見て。
――私も抱きしめて。
――私も愛して。
――お願い。お父さん。お母さん。お兄ちゃん。
だが、返ってくる言葉は辛辣だった。
勝手に生きろ。
うるさい喋るな。
暗くて気持ち悪い。
近寄るな。
酷い言葉を投げつけられているうちに、だんだんと上手く話せなくなった。
それでも頑張った。いつかきっと! 血の繋がった家族なんだから、と。
家族が旅行に行っている間はお掃除をして勉強も頑張った。
クリスマスは1人で部屋にいても泣かなかった。
お正月は身内の恥だからと部屋から出られなかった。
風邪を引いてもじっと耐えた。
入院しても家族は誰もお見舞いに来てくれなかった。
ご飯はいつも1人だった。
夕月は小さな身体で精一杯頑張った。
だがその日は突然やってきた。
「あなたなんか産まれなければよかったのに」
「死ねばいいのに」
夕月の中で何かが音を立てて崩れていく。
泣きたいのに涙が出ない。頭が真っ白になった。何も考えられない。
世界が色褪せていく。もう疲れた。どうでもいい。
(そっか。私は存在から全てが間違ってたんだ。だから何をやってもダメだったんだ)
ふらふらと何処かへ向かう。何処を歩いているのかもわからない。
橋が見えた。
(あそこにしよう。これで苦しみも終わり)
辺りはまだ薄暗く周りに人はいない。自分にはお似合いだなと思った。静かに誰にも見られずこの世を去るのはむしろ嬉しいとまで思った。
手すりの外側に立つと谷底を見つめる。これで終わりと思うと恐怖は感じない。安堵で心が満たされている。
目を閉じ祈った。
家族皆が幸せになりますように。
生まれ変わったなら次は誰かが愛してくれますように。
ゆっくりと手すりから手を離す。
(産まれてきてごめんなさい。さようなら……)
その瞬間手を掴まれた。そして一気に引き上げられた。何が起こったのか理解が追いつかない。
「おい、大丈夫か? 決意して飛び降りたところを邪魔して悪かったな。とりあえず話をさせてくれ」
その人はいきなり現れた。きちんと目を見て話す人は久しぶりな気がする。
唖然としていると手を掴まれて立たされた。引っ張られて連れて行かれる。ベンチに座らせられた。
(この人たしか神代さん?)
素行が悪いと有名な人だ。顔の傷もそういうことなのだろうか。
目の前の自動販売機で買ってくれたのか、コーヒーを二本差し出してきた。微糖を手に取った。
(暖かい)
その人は、私には興味無いと、見えないところで死んでくれと。随分と勝手な事を言って走り去って行った。
(ふふっ。変な人)
自然と笑みが溢れた。手に持っているコーヒーが暖かい。その暖かみに触れているとなぜか涙が溢れて止まらない。
愛に飢えていた夕月にはこの暖かみでさえ泣くほど嬉しかった。
(あの人にお礼を言おう。もう少しだけ生きてみようかな……)
夕月はゆっくりと立ち上がると歩き出す。まだ不幸のどん底であるはずなのに不思議と笑みが溢れた。
◇ ◇ ◇
ゆっくりと時間をかけて夕月は自分の事を話した。楓は絶句する。それと同時に怒りが沸々と湧いてくる。
目の前の夕月は俯き静かに泣いている。話すのは辛かっただろう。行き場の無いこの感情はどこにぶつけたらいいのだろうか。
「おい。ちょっとこっち来い夕月」
ゆっくりと近付いてくる夕月の腕を取ると、強引に引っ張ってきつく抱きしめる。なぜかは分からない。だがそうしろと言われている気がした。
夕月な大きく目を見開くと大粒の涙を流す。
「ぶっちゃけ何て言っていいかわからねえ。俺はとりあえず両親とは仲悪くはねえし、兄弟もいねえ。だからおまえの気持ちはわからねえな」
「……うん」
「だけどよ。おまえ見てると俺も痛いんだよ。自分が殴られたみたいに。おまえのそのクソみたいな家族は正直全員殴りたい」
「……うん」
「おまえを愛してくれる人だっけ? その人が現れるまでは俺が支えてやる。辛かったらその都度言え。まあ多分何もできないけど気にするな」
「……ふふっ」
「ま、それでもいい人が現れないっていうんだったら最終手段だな。その時は俺がもらってやるよ」
「……え?」
「最終手段だから勘違いすんなよ? いい人見つけられるように努力しやがれ。その方がおまえは幸せになれるだろ」
「……むう」
夕月は楓から離れる。すると下からムスっとした顔で睨んできた。胸をポカポカと叩いてくる。
「はっはっは! そんなもん痛くも痒くもねえんだよ」
「…………」
パン! 左ジャブがみぞおちに食い込む。
「ぐっ! お、おまえ! なかなかいいもん持ってんじゃねえか」
「……楓が……悪い」
夕月の表情はどこか晴れやかに見える。つられて楓も笑顔になる。
この野郎! と頭に手を当ててぐしゃぐしゃにしてやるとされるがままに大人しくなった。顔を覗き込むと笑顔を浮かべながら泣いていた。
その表情がとても綺麗で見惚れてしまった。その瞳に吸い寄せられるように顔を近付けていく。
「……か……楓?」
気がつけば唇同士の温度が感じられそうな距離だった。
我に返って距離を取る。自分が何をしたのか理解が追いつかない。気が付いたら目の前に夕月の顔があった。
(俺は何をしようとした? おい! 意味わかんねえ!)
「悪い。なんか今日頭おかしいわ俺」
「……したいの? …………いいよ?」
夕月はゆっくりと目を閉じる。楓を待っているようだ。
そんな夕月の頭をスパーン! と叩く
「…………いたい」
「反射的にやった。反省はしていない」
「もう!」と文句を言ってくる夕月はそれでも弾けるような笑顔だ。夕月のいる夜は長そうだと大きなため息をつく。
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