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30 響の手柄

いつも読んでいただきありがとうございます。

今回はお祭り回です。ではどうぞ。

 

 今日は随分と人や車の往来が激しい。

 この光景を見ると祭りなのだなあと実感が湧いてくる。


 遠くで聞こえる太鼓の音。お囃子の音色。昨年までは鬱陶しいだけのものであった。今年はそれほど煩わしくはない。むしろ少しだけ楽しみだ。


 それよりも煩わしいのは自分に向けられる視線の雨。不思議なことに私服になるとじろじろと見られている気がする。

 そんなに変な格好なのだろうか。害意は感じないため無視するのだが、正直なところ鬱陶しいというのが本音だ。


 途中で何度か女性グループに声をかけられた。


「ねえ君カッコいいね。今日お祭りでしょ? 一緒に行かない? お姉さん達色々奢っちゃう!」

「結構です」


 新手の詐欺などだろうか。全てを一蹴する。それでもなお食い下がってくる者には悪いが容赦しない。


「そんなこと言わないでさあ。ね! 楽しいこともしてあげられるよ?」


 厚化粧にキツい香水。この手の者が多いのはなぜなのだろうか。あまりの臭さに頭が痛くなりそうだ。手を掴まれてきたのでもう限界である。


「俺の左腕に触るな。おまえが触れていい物じゃねえんだよ。というか臭い近寄るな。ついてくるなよ? 邪魔以外の何物でもない」


 言葉の切れ味は響のそれと大差無い。普段は喧嘩ばかりだがこういった面は2人ともよく似ている。


 唖然としている女性を置き去りにして歩き出す。無駄に話しかけられるため、普段より時間がかかってしまった。


(あまり遅れると夕月の機嫌損ねるな。それは避けねえと)


 足早に目的地に向かう。夕月の家から少し離れたところにあるコンビニの前。そこで落ち合うことにしている。

 近くまで来ると、予想通りというか人だかりができていた。その中心にいるのは夕月だろうなと苦笑する。


「おい、どけよ。邪魔だ」

「なんだよおまえ。あの子の彼氏か? 違うんなら引っ込んでろ」


(なるほどこの手の奴らか。どうするかな……しかたねえ)


「そうだよ! 俺が彼氏だ! ってことで邪魔だ消えろ!!」


 全員に聞こえるように大声で言い放つ。楓のその迫力に圧されてたじろぐ。しかも男達には体格のいいイケメンに見えている。


 無言になった後、舌打ちをして消えていった。



「悪いな。遅くなっ……」




 夕月の姿を見て絶句した。


 その美しさに声が出ない。


 黒を基調とした浴衣。桔梗だろうか。強く主張してはいない。モダンで清楚な雰囲気。

 髪は少し外にはねるように巻いており、ヘアオイルで水っぽく仕上がっている。薄く化粧をしており、髪の隙間から見える白い頬にはチークだろうか、薄い桃色が見えた。


 幼さの残る夕月の顔に、大人っぽい印象の浴衣。狙っているのだろうか。もはや凶器かと思える美しさ。


 楓を見つけると艶のある小さな唇をゆっくり開く。


「…………楓……遅い」


 夕月は楓に歩み寄ると見上げるように見つめる。


「……楓?」

「……わ、悪い。遅くなった」


 直視できない。口に手を当てそっぽ向く。楓の顔は朱に染まる。


「……楓……どう?」

「いいと思うぞ。普通に可愛いんじゃねえの?」

「……むう」


 そっぽ向いたままそう答えた。夕月は納得がいかない。楓の顔を両手で掴むと強引に自分に向ける。


「…………ちゃんと……見て」


 潤んだ大きな瞳と目が合う。言葉にならない。無言で見つめ合う。


「可愛いって言ってんだろうが! これでいいだろ! 離せ!」

「……むう……納得……いかない」


 強引にその手を振り払う。今日の夕月は歩く凶器だ。本当に目のやり場に困る。


 夕月は落ち着きのない楓の様子を見て少しずつ察してきた。ああ、この人は照れているんだと。

 それがわかってしまったらうれしくて笑顔を隠せない。その笑顔ですら酷い破壊力を持っているとも知らずに。


 夕月はそっと楓の手を取る。途端に離された。優しく微笑むと楓の瞳を見ながらもう一度握る。ゆっくりと指を絡めると固く握った。


「おまっ!!……あー! くそっ!」

「……さっき……彼氏だ……って言ってた」

「それはしかたなくだろうが」

「…………聞こえない」


 大きなため息をつく。そっぽ向いた隣の少女を見て苦笑すると手を握り返した。


「はぐれないようにだよ。それ以上の意味はねえ」

「……うむ」


 クスクス笑う夕月を見ないようにして祭り会場へ歩き出した。





 ◇ ◇ ◇



 会場は少し歩いたところにある神社。


 向かう途中でも夕月への視線は凄まじいものであった。すれ違う男は例外なく夕月を見る。そんな存在感。だが横の楓を見て諦めたような表情を作っている。


 そんな周りの視線など関係無いとばかりに、夕月はずっと前を向いていた。


「……楓……臭い…………香水?」

「あぁ。多分来る途中に話しかけられた女のやつじゃねえか?」

「……話しかけ……られたの?」

「まあな。鬱陶しいなあれ」

「…………へえ」


 ムスっとして頰を膨らませている。なにが不満なのか。だがいつもの夕月のようで少し安心した。今日の夕月は心臓に悪い。


「ま、道で色々な女に話しかけられたけどよ。夕月が断トツだよ。おまえ見てると目が肥えるな」

「……そ……それなら……許す」


 そっか、とうれしそうにしている。更に強く手を握ってきた。


(なにがうれしいんだか、まあいいけどよ。楽しそうだし)







「ねえねえねえ見て見て!!」


 背後から見つからないように尾行する2人。


 背中をバンバン叩きながら興奮した様子の響は、陽がゲホゲホと咳き込んでいても構いなしだ。


「夕月ちゃんやばくない!? 我ながらあれはいい仕事したよね! 色々とエグい!」

「たしかに夕月さん凄いな……あれはやばい」


 でしょ? と胸を張る響に苦笑する。


「夕月さんもだけど、響もすごく綺麗だよ。本当に俺の彼女なのかな? って心配になるぐらい」

「なっ! ……と、当然でしょ……ばか」


 バカップルは楽しそうに尾行を続ける。

面白いと感じていただけましたら、下の評価欄から評価いただけますと幸いです。


最近はそれをモチベに執筆しておりますw

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