17 元気いっぱいパワフルガール
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楓の影響から合コンは静まりかえっていた。
「俺のことは気にすんなよ。無視してくれていいからよ。あんたらはそれぞれ楽しくやったらいい」
この一言は楓の本心だ。バカにしているつもりもないし、ふざけているわけでもない。自分のことはいないものと思ってくれたほうが色々とスムーズだろうと。
だが言葉をそのまま受け取った全員はドン引きである。陽は額に手を当てて狼狽している。唯一、夕月だけがクスクスと楽しそうにしていた。
「なあ陽、俺帰ったほうがよくねえか? ここにいる意味ねえだろ?」
「た、たしかに。なんか悪いな…無駄な時間になっちゃって」
「別に無駄でもねえよ」と言われた陽は少し驚いた顔をしていた。
「…少しだけ変わったなおまえ。優しくなった」
「あ? どこがだよ? なんか気持ち悪いぞおまえ」
「はいはい早く帰れ」と背中を押されて店を出た。既に日は落ちて街灯が灯っている。
ふと上を見る。たまたま見ただけなのだが満点の星空に見惚れてしまった。
特に星に興味があるわけではない。だがなぜか今日は綺麗だと思った。
「……………彦星様は……まだ…見えないね」
後ろに夕月が立っていた。同じように夜空を眺めている。
「合コンいいのか?」
「…………楓がいない…なら…意味ない」
「…そうかよ」
最近は夕月もかなり口数が増えてきた。それでもまだたどたどしいが。
ふと夕月の顔を見る。夜空を眺めているその顔があまりにも綺麗で目を奪われた。
「…………どうか…した?」
「いや…なんでもねえよ」
夕月はカバンから交換日記を取り出すと、少しだけ笑みを浮かべながらゆっくり書き始めた。書き終わると楓に見えるように広げて見せた。
『あなたはどんな女性が好きですか?』
見たのを確認すると日記をゆっくり閉じる。そのまま楓の手に置いた。
「…………ふふっ」
「そんなもん聞いてどうすんだよ」
「…………たまには………困らせる」
「おまえと一緒だと困ってばっかだよ」
悪態つきながらも日記をカバンにしまうその顔はどこか優しいものだった。
「……………送って…くれる…よね?」
「ったく。置いてくわけにもいかねえだろ。仕方ねえなほんとに」
無愛想で口下手な男の背中にはそれでも優しさが滲み出ていた。構わず先に歩き出しても歩幅はやはり夕月に合わせている。
うれしくてしかたのない夕月は急いで駆け寄り服の裾を掴む。
やっぱりここが夕月の定位置。満天の星空の下。二人はゆっくりと夜道を歩いていく。
◇ ◇ ◇
翌日の朝の教室は妙にざわついていた。教室に入った途端に異質な空気を感じる。なにかを期待するようなそわそわするような。
そんな空気もお構いなしに元気な挨拶は飛んでくる。
「おはよ!! 楓」
「おはよう。だからボリュームを落とせ」
「なんだ元気ないな。はい元気におはよー!!」
「………」
耳を手で塞ぎながらカバンの中を出していく。
「そういえばさ」と陽が話し出した。
「なんか転校生来るらしいぞ」
「転校生? そうか。どうでもいいな」
予想していたとおりの反応だったのだろう。陽は楓を見て苦笑していた。
(そうか。それでこんな変な空気なのか)
まったく興味の無い楓は欠伸をすると怠そうに机に寝そべった。
「はい! おまえらー! 静かにしろ! 今日は転校生がいるぞ。うるさいと入りにくいだろうが」
あずみの言葉を受け教室はしんと静まり返る。少しするとドアが開き一人の少女が入ってきた。
「うっわ。綺麗!」
「スタイルやばくね?」
――入ってきた少女。
背丈は陽より少し低いぐらいだ。同年代の女子と比べると大きいほうだろう。注目すべきはその瞳、鮮やかな緑色である。鼻すじは通り、口元は締まった美しい顔。茶髪のショートヘアが天真爛漫な雰囲気を出している。日本人離れしたスタイルの良さはちょっとしたギャップを作り、それがまた彼女の魅力を引き立てている。
「初めまして! 夏目響といいます! 5年間海外にいたので久しぶりの日本です! 気軽に話しかけてください!」
元気よく声を張り上げた。少し間を置き続ける。
「私の夢はWNBA(女子プロバスケットリーグ)に行くことです! よろしくね!」
目をキラキラとさせて目標を宣言した少女の顔は希望に満ち溢れていた。
響はふと後ろで寝ている男子生徒に気がついた。
(こんな大声で話してるのにあいつは…)
スタスタと近付いていくとスパーン!と頭を叩いた。隣の陽は驚きすぎて思考が追いつかない。
「あ? だれだよ痛えな!」
「久しぶりじゃない楓」
「………もしかして響か?」
「忘れてたら思い出すまで殴ってたとこだったわ。よかったわね」
「ちっ」と舌打ちすると怠そうに楓は身体を起こす。響は腕を組んだまま仁王立ちしている。
「まぁ元気そうでよかったじゃねえかゴリラ女」
「そっちこそまだ生きてたのねボクシングバカ」
隣の陽は口を開けたまま二人を眺めていた。
◇ ◇ ◇
――昼休み。
楓、夕月、陽の三人はいつものように昼食をとっていた。そこに現れた天真爛漫な少女。夏目響。
「何の用だゴリラ女」
「あたしまだ友達いないでしょ? だからここに入っていい? ありがと」
有無を言わさず夕月の隣に椅子を持ってきて座る。
「…………えと…夏目さん?…はじめまして…小日向夕月…です」
「藍原陽です。よろしくな!」
二人を見て響は屈託のない笑顔を見せる。
「よろしくね二人とも! 響でいいよ! 気に入ってるんだこの名前」
「ゴリラでいいだろ」
スパーンと頭を叩く。一番驚いたのは夕月だ。楓にそんなことをできる同年代など初めて見た。
「で、響さんは楓と知り合いなの?」
「あー、うん。腐れ縁みたいなもん。腐ればいいのにね」
「てめえが一人で朽ちろ」
そのやり取りを見ていた夕月は何かを心配するような様子。不安そうに響を見つめている。そんな視線を感じたのか響は夕月をじっと見つめる。
(へぇ…)
「ねぇ陽くん。夕月ちゃんはそういうことなの?」
少し考えて陽は頷く。
「ふーん…こんなに可愛い子がねぇ…」
響は夕月の耳元に口を近付ける。すると小声で話し掛けた。
「大丈夫…楓とはそういうのじゃないよ。心配しないで。取らないから」
夕月は目を見開き顔を真っ赤にした。あたふたしている姿を見て響はケラケラと笑っている。
「ほんっと可愛いなあこいつぅ! 楓には勿体ない。そうだ楓、どっか別の学校行けおまえ」
「あ? いきなり意味不明なこといってんじゃねえよ」
陽はまた騒がしくなるなぁとしみじみと思う。
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