16 空気の読めない男
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は合コン編ですね。楓くんは通常営業です。
少し短いですがご容赦ください。
間に合えば夜にもう一度更新する予定でおります。
――放課後。生徒指導室にて。
「失礼します」
「お、きたか。じゃあ座れ」
「では失礼します」
「帰ろうとするんじゃない」
何の用だよという顔を隠そうとしない楓にあずみは苦笑する。だが別に嫌悪感や咎める気持ちは湧かない。神代楓というのはこういう人物だ。
「まぁ座れ。時間は取らせない」
「…はぁ、観念するか」
テーブルを挟んで対面の席に腰掛ける。あずみは楓の顔を見つめると笑みを零した。
「…どうだ学校生活は?」
「別にどうもしないですよ。変わらないです」
「それにしては最近は表情が前より柔らかくなったな」
「………」
陽や夕月と過ごす日常もそんなに悪くない。最近は少しだけそう感じるようになった。だが思っていても口には出さない。なぜか口にしてしまうと自分の中で固めていた何かが緩んでしまう気がしていた。
それは自分の目標への妨げとなるものなのだろうか。考えても答えは出ない。だからそれを思い出さないように必死に走るのだ。
考え込む楓の姿を見てあずみは優しく微笑む。
「いいんだよそれで。悩めばいい。それは必要な葛藤だ」
「簡単に言うんですね」
「そりゃそうだろ。他人事だからな」
手に持ったコーヒーカップを口に運ぶ。
日々変わっていく楓の姿にあずみは眼を細めている。いや、友人に変えられているという表現が正しいだろうか。ぶっきらぼうなその性格からは少しだけ角が取れている。その成長が自分の事のようにうれしい。
「ま、これからもしっかりトレーニングしろよ? 死ぬ気でやれ」
「そんなこと言われるまでもない」
「友人も大事にしろよ。それはおまえにとって決して無駄な繋がりじゃない。まぁその顔はわかってる顔だろうな」
あずみのこういうところが苦手だ。悩んでることをズバズバ言い当てて遠慮なく踏み込んでくる。的を射ているものだから皮肉すら言えない。あずみの前では楓も無言で考え込む時間が長い。
そんな様子をあずみは微笑ましく見ている。
「よし! もう帰っていいぞ! ジムは明日からだったか? ほら合コン行ってこい!」
「……教師がなんてこと言ってんだよ」
楓達の会話を聞いていたようだ。茶化すようにそう言うと背中を押して部屋から追い出した。
◇ ◇ ◇
追い出されるように部屋を出ると正面玄関へと向かった。
(てか、結局何の用だったんだよあの人は)
あずみの意図がわからず困惑しながらも夕月と陽のもとへ向かう。
下駄箱の前で二人は既に待っていた。
「お、きたな!」
「…………きた」
陽は馴れ馴れしく肩を組んでくる。耳元で大声を出されるのはとてもうざい。だが別に嫌ではない。
隣の夕月はそんな二人を見て小さな笑みを浮かべている。何を考えているのか、真意はまだ見えない。だがそれも悪い気はしない。
楓はらしくない笑みを浮かべる。二人に強引に手を引かれるように歩き出した。
◇ ◇ ◇
市内のとあるカフェに合コンメンバーは集まっていた。
男性陣は楓、陽を含めて四人。
女性陣は夕月を含めて四人。
テーブルを挟んで向かい合うように座っている。それぞれ簡単な自己紹介を済ませると楽しく会話を始めた。
もっとも楓の自己紹介は皆が軽く引いていた。
「神代楓だ」
これだけである。陽は慌ててフォローし、夕月は「やっぱりね」という様子で笑っている。
というわけで、楓はテーブルに肘をつきながら、手元の烏龍茶を口にして外をずっと眺めている。蚊帳の外のような空気もこの男には関係ない。イメージトレーニングをして時間を潰していた。
そんな時、意外にも目の前の少女から楓に話しかけた。陽は恐る恐る夕月の様子を伺っている。だが夕月はストローを口にしたまま無反応だ。
「楓くんだったよね? 体格いいね! よく見ると結構かっこいいし…ねぇ、ちょっとお話しない?」
「…暇だしいいぞ」
夕月は無反応のまま。陽は困惑している。
「趣味とかあるの? 私は裁縫得意なんだー」
「人を殴ることだな」
少女の顔はちょっとだけ引き攣っている。だがそれでもめげない。
「そ、そうなんだ! 私ワイルドな人タイプなんだ! 土日とか何してるの? よかったら一緒にどこか遊びにいかない?」
「土日はランニングだ。だから断る」
涙目になりながらも少女はそれでも食らいつく。
「ね! どんな女の子がタイプ? 私とかどうかな?」
「そうだな。タイプとかは無いが、あんたみたいな厚化粧じゃない奴がいい」
少女は「そ、そっか」と言うと別の男に話しかけて、無理矢理楓との会話を終わらせた。
陽はあちゃー、という顔だ。
「………………ね?…大丈夫…でしょ?」
「まいりました」
夕月は満足気な表情で楓を見つめている。
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