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第26話 夢の中

 「………え?」


 叫び声をあげ、アルフォートが部屋の中に入ってきたのを目にした瞬間私の中に生まれたのは恐怖の感情だった。

 先ほどまであれほどアルフォートがこの場にいることを望んでいたことが嘘のように、私の顔は青ざめる。


 「あ、アルフォート様、ど、どう致されたのですか」


 そして次の瞬間私は、何事もなかったかのようにしなければならないという強迫観念に促されるままそんな声を上げていた。

 その声は思いも寄らない状況への動揺のせいか、または先ほどまでの嗚咽の残滓か、はっきりとわかるほど震えていた。

 けれども私はその震えに気づかないような振りをしていびつに笑ってみせる。

 そのとき私の胸にあったのはアルフォートに悪夢で弱り切った自分の姿を見られたくないと言う思いだった。

 クラッスター家に対するトラウマ、それに怯え、悪夢に脅かされる自分の姿。

 その自分の姿がどれほど惨めで見るに耐えないものなのか、それを私は理解していて、だからこそ私はその姿をアルフォートに見られれわけにはいかなかった。


 「レシウス………」


 「私はなにもありませんから!」


 だからこそ私はアルフォートを誤魔化すためにアルフォートの言葉を中断し、言い募る。

 たしかに今までと違い、アルフォートは私を積極的に追い出そうとはしていないかもしれない。

 だが惨めで情けない、こんな私の姿を見ればいくら優しいアルフォートでも幻滅する。


 「だから、アルフォート様は部屋で休んでいただいて………」


 私は必死にこの場を切り抜けるために言葉を重ねる。

 アルフォートにまでで拒絶されることはどうしても受け入れることが出来なくて、だからこそ誤魔化すために言葉を重ねる。


 「レシウス」


 「ーーーっ!」


 けれども次の瞬間アルフォートが発した声に私は言葉を失った。

 敬称を省き私の名を口にしたアルフォートの声音は真剣そのものの響きを有していて、そのアルフォートの声に私はあることを理解する。

 そう、私の誤魔化しなどアルフォートには全く通用していないことを。

 私の虚勢は全くの無意味でしかなかったのだ。


 「ぅぁっ」


 そのことを悟った瞬間私の口から漏れたのは言葉にならない絶望だった。

 ここでもまた私は捨てられるのだ。

 そうあのとき、クラッスター家に裏切られたあのときと同じように。


 「っ!」


 私は次の瞬間アルフォートに出て行けと怒鳴られる瞬間を想像して堅く目をを閉じる。


 「なぜ君がそんなに苦しんでいるのか、話してくれないか」


 「………え?」


 けれども、アルフォートの口から告げられた言葉それは怒声ではなっかた。


 「………そんなに驚かれると悲しいな。私はただ大切な人間の力になりたいと、そう思っただけなのだが」


 いやそれどころかアルフォートの告げた言葉は私が今まで望んでやまなかったとても暖かいもので。


 「………夢なのね」


 ………だからこそ次の瞬間私はそんな判断を下していた。

 自分にそんな言葉をかけてくれる人間なんていないという思いこみで。

 いつもの私であれば、そんなわけがないことに気づいたかもしれない。

 だが、今の私は度重なる睡眠不足と精神的疲労のせいで冷静な判断能力を失っていたのだ。


 「………聞いてくれますか」


 そして今目の前にいるのが現実でないとそう判断した瞬間、私の口から今まで必死に押さえ込んでいた思いが溢れだした………

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